研究紹介

超広帯域波長可変THz波光源の開発に関する研究 2011年度 | 2012年度 |

高感度THz波研究に関 する研究 2011年度 | 2012年度

広帯域周波数可変THz波光源を用いたTHz波応用に関する研究 2011年度 | 2012年度 |

THzスペクトルデータベース 2011年度 | 2012年度

2013年度Annual Report

2014年度Annual Report

2015年度Annual Report

2016年度Annual Report

超広帯域波長可変THz波光源の開発に関する研究

BNA-DFG THz波光源開発に向けたBNA 結晶成長

我 々はこれまで非線形感受率の大きな有機結晶であるDASTに着目し、超広帯域波長同調が可能な差周波テラヘルツ光源の開発を進めてきた。有機材料ではテラ ヘルツ領域において様々なフォノンモードが存在し、非線形光学効果により発生したテラヘルツ波はフォノンモードとの相互作用により減衰する。従って、 DAST結 晶を用いた差周波テラヘルツ発生光源(DFG)は、超広帯域周波数可変性を有する反面、スペクトル上でいくつかの強度ディップが存在する。この問題を克服 する為、異なる分子構造を有する有機結晶N-Benzyl-2-methyl-4-nitroaniline (BNA)を用いた差周波テラヘルツ光源の 開発を進めている。これらDASTとBNAを組合せる事で、強度スペクトルディップの存在しない超広帯域波長可変性を有する単色テラヘルツ光源を実現する 事ができる。特に、BNAは開発されて間もない有機非線形光学結晶であり、結晶の大型化・高品質化が重要課題である。有機結晶は分子量も大きく、その構造 も複雑である為に、大型で高品質な単結晶を育成する事は一般的には困難である。我々は溶液法を用いたBNA単結晶の育成に取り組み、溶媒の種類や育成温 度、徐冷温度勾配等のパラメータを最適化する事で、実用サイズの高品質BNA単結晶を育成する事に成功した (図1(a))。X線回折法を用いて結晶品質 の定量評価も行い、図1(b) に示すように、ロッキングカーブの半値幅が20秒程度まで狭くなっている事を確認した。この値は、これまでの垂直ブリッジ マン法により育成されていたBNA単結晶に対する値の1/5程度まで減少しており、産業用シリコン基板に対する値と同程度になっている。この結果は、極め て分子配向性の良い高品質BNA単結晶が得られた事を示している。結晶の高品質化により、励起近赤外光による損傷閾値も向上し、更なる高出力テラヘルツ光 の発生も可能となっている。


単一KTP結晶を用いた二波長可変OPO光によるDAST-DFG波長可変テラヘルツ波発生

非線形DAST 有機結晶内の差周波発生により単色テラヘルツ波を得るために、我々はこれまで一対のKTP結 晶を用いた二波長可変OPO光をその励起光源として利用できることを示してきた。しかしながら、結晶二個から成るOPO共振器は複雑で費用もかかる。そこ で本研究ではKTP一個のみを使用した二波長可変OPOを提案する。僅かに傾けた背面の反射ミラーにより、単一結晶内に二光路を作りコリニア及びノンコリ ニア位相整合を同時に実現した (図2(a))。反射ミラーのチルト角 d とKTP結晶角 b との両方の制御により、異なる位相整合で生じた二つの近赤外光波長 (共に1.3 mm帯) の差分を連続的に変化させることが出来る。図2(b)に示す ように我々はこの新たなOPO光源を組み込み、DAST結晶による0.5-3THzまでの可変単色THz波の差周波発生に成功した。OPO近赤外二波長は KTP結 晶の切出角と共振器ミラーのコーティングとを適切に選ぶことで容易に変更可能であり、このような二波長二光路単一共振器は多くの応用が期待される。


二波長単色ファイバーレーザーを用いた連続可変CWテラヘルツ光源の開発

単色テラヘルツ波発生には二波長近赤外 (NIR) レーザーで誘起されたバルク非線形光学結晶内での差周波発生法が用いられている。より安定且堅牢な二波長同時レーザー発振を達成するためには、単一モード 光ファイバー (SMF) を用いたコンパクトな単一共振器によるファイバーレーザーの構築はその利点が多い。しかしながら報告されている二波長ファイバーレーザーの波長間隔は簡単 には可変できずさらに常にマイクロ波或いはミリは領域に制約されている。そこで本研究では、単色二波長ファイバーレーザーによる差周波 (DFG) テラヘルツ波発生機構を実証する。図3(a)に描かれたように、単一共振器を備えた二波長ファイバーリングレーザーは1) 波長選別のためのチャープファイバーブラッグ回折格子 (CFBG) 及2) レーザー発振用の半導体光学増幅器 (SOA) から成る。線形にチャープされた回折格子に沿った局所的な熱光学効果による位相変化が連続的な波長可変を実現する (図3(b))。結果として1060 nm 付近にて単一縦モードでの二波長CWレーザー放出を達成した。この放出光は非常に良いビームパターンと空間的なコヒーレンスを持ち、続いて有機非線形 DAST結晶を励起するために偏波保持イッテルビウムドープファイバー増幅器 (PM-YDFA) によって増幅される。コリニア位相整合を満たすDAST結晶からの差周波発生法により図3 (c)に示すように0.5- 2 THzのCWテラヘルツ波を得ることに成功した。既に確立した回折格子製作技術と適切なファイバーとを組み合わせれば、我々の開発したファイバーレーザー 機構は他の非線形光学結晶に対しても容易に適応可能である。例えばBNA有機結晶には800-1000 nm, GaSe 無機結晶には 1530-1560 nmの近赤外励起光が必要である。また、この狭線幅ファイバーレーザーによるテラヘルツ波光源はコンパクト且つ高分解能テラヘルツ分光及イメージング装置 への道を開くと期待される。

DAST-DFG THz波発生に適した高効率近赤外二波長同時発振Nd:YAG共振器の開発

テラヘルツ波 (THz波) 光源に要求される重要な要素の一つに高出力があげられる。DAST有機非線形結晶は、従来の無機非線形結晶にはない大きな非線形性を持つためTHz波発生 に有効である。われわれの研究チームではこのDAST結晶を用いて超広帯域波長可変THz波光源の開発を進めてきた。高出力THz波発生においては異なる 二波長の1.3μm帯近赤外励起光を高効率に発生させ、DAST結晶中でコリニア位相整合条件を満たす差周波発生 (DFG) を行う。そこでNd:YAG結晶が1319 nmと1338 nmに同等の誘導放出断面積 (9.5x10-20 cm2, 10x10-20 cm2) を持っており、Nd:YAG基本波 (1064 nm) 発振を抑制することで同時発振が可能であることに着目した。開発した小型高効率THz波励起光源と出力スペクトルを図4(a)に示す。この光源は半導体 レーザー励起Nd:YAG共振器から直接発振させるためスロープ効率3%程度でDAST-DFG用近赤外励起光を得られる (図4(b))。これは従来のKTP-OPOを用いた励起光源より10倍以上高効率である。また共振器からの直接発振はパワースケーリングが容易で、高出 力化に期待できる。本研究は東北工業大学と共同で行った。

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高感度THz波検出に関する研究

本研究課題では、高感度・高速応答・室温動作など優れた性能を有する非線形光学効果を用いたTHz波検 出を開発を行っている。我々が提案するTHz波検出は、非線形光学効果を用いてTHz波を光波に波長変換し、光検出器による高感度THz波検出であり、立 ち遅れたTHz波検出技術に全く革新的なTHz波検出を実現する提案である。波長変換には、有機非線形光学結晶DASTを用い、広帯域THz波検出を可能 とした。これまでの成果としては、THz波検出の予備実験を行い、約19THzの周波数においてTHz波検出を成功している。
本報告では、高感度検出の実現性を検証するため、検出用励起光の波長依存性や、入力THz波強度などを変化させ、THz波検出信号の強度変化を調査した。 実験系は、図5に示すとおりである。励起光には532 nmのパルス光を用いて二分し、一つをDAST差周波THz波光源へ導き、もう一つをTHz波検出のための励起光源用として使用した。励起光 (波長1.3m) 発生には、KTP結晶を用いた光パラメトリック発振器を用いた。THz波光源で発生させたTHz波は、検出用のDAST結晶に集光され、また別途、励起光 が照射されている。THz波がDAST結晶に入ったときのみ、非線形光学波長変換によって信号光が発生し、光検出器で計測された。
結果として、周波数19THzの検出実験において、励起光波長1.309mのとき最大THz波信号強度が得られた。また、最低検出感度を調べるため THz波入射強度を減少させ実験を行った。図6のように今回の実験では、ピーク強度270Wの微弱THz波まで検出に成功し、等価雑音パワーとして約 6nW/Hz1/2まで達成した。更なる最適化によって、常温でこれまでにない超高感度検出が期待できる。


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広帯域周波数可変THz波光源を用いたTHz波応用に関する研究

半導体基板のキャリア密度分布計測に関する研究

表面マッピングによる非破壊検査は半導体産業のオンライン品質管理からとても要望されており、非接触な 光学的手法が半導体材料の特性測定に有効であることは広く認識されている。大野と濱野らは我々のDAST-DFG テラヘルツ波光源からの単一テラヘルツ周波数を利用して、異なるキャリア密度を持つGaN ウェ ハーの高分解能反射率マッピングが得られることを示し (7(a)(d)) 、それらのキャリア濃度の相対的差違を明らかにした。しかしながら、この単一周波数測定では実際 の材料検査には不十分である。本研究では、我々の高速・ランダム周波数可変テラヘルツ波光源の能力を十分に活用することによる、多数のテラヘルツ周波数で の反射率マッピングから同時に複数の自由電子キャリア特性の二次元分布を得るための一般的手法を提案する。キャリアの特性変化を反射率として鋭敏に反映す る五周波数を選んで測定することにより (GaN では 20- 24 THz領域) 、図 7 (e) に示すようにDrude-Lorentz 式に基づく速くて精確な数値フィッティングが可能である。この式は半導体の誘電関数とその自由電子キャリアの動的描像とを結び付けている。 テラヘルツ波領域全体を周波数掃引する必要も無く、表面の任意点から複数のGaN ウェハー特 性、即ち縦横光学フォノンモード, 格子フォノンの減衰定数, キャリア移動度など、を同時に且つ精確に抽出できる (7 (f))。さらにGaN ウェハー全体について 同様の表面反射率マッピングを各周波数ごとに得た後で、これら五周波数のマッピングデータを組み合わせることで複数の自由電子キャリア特性分布を明示する2次元フィッティングが導かれた。


薄片生体組織中の含水率マッピング

病理学的又は細胞組織学的変異に伴う生体系の含水率の変化は、生物学及び医学診断上の多くの未解決問題に取り組む際に良い指標になることが期待されてい る。我々は、水に対し大きな吸収を持つが生体組織には無害なテラヘルツ波をその為の手段として活用することを提案している。本研究では薄片組織の鮮度を室 温で保つために新たな試料準備法を取り入れ、ニオブ酸リチウム(LiNBO3; LN) 結晶を 用いた差周波発生法から得られた単色テラヘルツ光を組織の小さな部分に照射した。以前の準備方法では、組織は試料準備後2分以内に急速に乾燥し含水率は著しく減衰したが、今回は図8 (b) に示したピクセル線A上にて1.45 THzのテラヘルツ波透過測定を繰り返し行い、動物組織の体積含水率は最長70分間 不変であること ( <3%) がわかった (8(c))。また含水率の二次元マッピングが十分な安定性と解像度 (240 m/ pixel) をもって可能であることも同様に示した ( 8(b) (d))。これは即ち、我々の測定 方法が潜在的に医学診断に応用可能であることを意味している。

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THzスペクトルデータベース

テラヘルツ光の基礎研究や産業応用において、様々な物質に対するテラヘルツスペクトルを取得し、データ ベース化する事は極めて重要である。我々は情報通信研究機構 (NICT) と共同でテラヘルツ データベースを構築し、2009年度よりインターネット上での公開を行っている (9(a) 参照; http://www.thzdb.org/)。掲載データの種類としては図9 (b) に 示すように生体関連物質から高分子ポリマー、糖類、農薬、各種有機、無機材料など幅広い領域をカバーしており、データ数も現在1200を超えている。このように量・質ともに海外における他のテラヘルツデータベースを凌駕しており、1年間で国内外から3500回程度アクセスされる世界 的データベースとして稼働している。また、本データベースは今年度から科学研究費補助金研究成果公開促進費の重点課題にも採択され、現在は、ユーザーが更 に使いやすくなるようにインターフェースや検索機能の強化等に取り組んでいる。今後は世界中の他研究機関からの提供データなども追加し、テラヘルツデータ ベースの更なる発展を目指す。