- タイ人のHIV患者遺伝子をケース−コントロール関連解析で同定
- HIV治療薬サニルブジンによるリポジストロフィーの発症リスクに関連
- 発症リスクが高いと予測された患者にはほかの薬を選択投与、副作用の回避が可能に
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、タイ国マヒドン大学などと共同で、「HLA-B」遺伝子の型がHIV治療薬サニルブジン(略名:d4T、海外ではスタブジン)による副作用であるリポジストロフィーの発症に関連することを発見しました。理研ゲノム医科学研究センター(中村祐輔センター長)のファーマコゲノミクス研究グループ遺伝情報解析チームの莚田泰誠チームリーダーを中心とする研究グループによる成果です。
リポジストロフィーは、HIV治療に用いる核酸系逆転写酵素阻害剤サニルブジンによって起こる副作用で、身体の各部の脂質分布の異常を主症状とし、頬(ほお)がこけたり、顔面の深いしわを生むなどの症状を引き起こすことが知られています。研究グループは、リポジストロフィーの発症には個人差があることから、発症しやすい体質に関連する遺伝子があると考え、その遺伝子を探し出す研究を続けてきました。
タイ人のHIV患者103人の遺伝子をケース−コントロール関連
今回の発見をきっかけとして、事前の遺伝子診断によって個々のHIV患者におけるリポジストロフィーの発症リスクを予測し、リスクの高い患者にはサニルブジン以外の薬を選択する「オーダーメイド医療」につながることが期待できます。また、HLA-B遺伝子の解析を進めることで、リポジストロフィーの病態の解明が急速に進むと見込まれます。
本研究成果は、米国の科学雑誌 『Clinical Infectious Diseases』2月15日号に掲載されました。
- 背景
HIVの治療では、血液中のウィルス量を抑えるために、3剤以上の複数の薬を飲む「多剤併用療法」が行われています。その多剤併用療法に使われる薬の1つが、核酸系逆転写酵素阻害剤の「サニルブジン」です。サニルブジンは、リポジストロフィーと呼ばれる副作用を引き起こすことが知られており、身体の各部における脂質分布の異常を主症状とします。患者によって症状はさまざまですが、最も頻度が高いのは頬(ほお)における皮下脂肪の減少 (頬がこける、顔面の深いしわなど)と腹部内臓脂肪の増加です。特に、顔面における脂肪委縮は患者のQOL(生活の質)を低下させる大きな問題ですが、現在のところ根治的な治療法はなく、発症の予測や治療法の開発は大きな課題となっています。
- 研究手法と成果
近年、ある
HLA※2 の型が、いろいろな病気や薬による副作用の発症と関連することが明らかになってきており、米国では、一部の薬剤の投与開始前にHLAの遺伝子診断が推奨されています。研究グループは、タイ人HIV患者で、サニルブジンの副作用でリポジストロフィーを発症した患者55人と、サニルブジンを服用してもリポジストロフィーを発症したことがない患者48人との間で、HLAの型を対象としたケース−コントロール関連解析を行いました。その結果、HLA-B遺伝子の型の1つであるHLA-B*4001が、リポジストロフィー発症と強い関連を示すことを突き止めました(図) 。HLA-B*4001を持つタイ人HIV患者は、持たない患者に比べ9.26倍もリポジストロフィーになりやすいことが分かりました。 - 今後の期待
今回の発見により、サニルブジンによるリポジストロフィーの発症に、HLA-B*4001が大きくかかわっていることが分かりました。事前の遺伝子診断により、HLA-B*4001を持ちリポジストロフィーの発症リスクが高いと診断された患者には、サニルブジン以外の核酸系逆転写酵素阻害剤を投与することにより、リポジストロフィーを回避することが可能になります。また、現在、HLA-Bによるリポジストロフィー発症の機序は明らかではありませんが、HLA-B遺伝子の機能に対して、HLA-B*4001がどのように影響するのかを調べることにより、サニルブジンによって発症するリポジストロフィーの病態について、理解が進むと期待されます。
- (問い合わせ先)
- 独立行政法人理化学研究所
- ゲノム医科学研究センター
- ファーマコゲノミクス研究グループ遺伝情報解析チーム
- チームリーダー 莚田 泰誠(むしろだ たいせい)
- Tel: 045-503-9597 / Fax: 045-503-9568
- 横浜研究推進部 企画課
- Tel: 045-503-9113 / Fax: 045-503-9117
- (報道担当)
- 独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
- Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
- Mail: koho@riken.jp
< 補足説明 >
| ※1 | ケース−コントロール関連解析 |
| 遺伝子多型を用いて疾患や副作用感受性遺伝子を見つける方法の1つ。ある薬による副作用を発症した患者(ケース)とその副作用を発症したことがない患者(コントロール)との間で、遺伝子の型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。 | |
| ※2 | HLA |
| ヒトの6番染色体短腕(6p21)上に存在し、自己と非自己の認識や免疫応答の誘導に関与するヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen)をコードしている遺伝子群。MHC(major histocompatibility complex:主要組織適合性複合体)とも呼ばれる。 |

図 HLA-B*4001を対象としたケース−コントロール関連解析結果
HLA-B*4001は、サニルブジンによるリポジストロフィー発症と強い関連を示した。
(発症患者55人中16人を、また、非発症患者48人中46人を正しく判定することが可能。)