プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
国立大学法人 東京大学
財団法人 高輝度光科学研究センター
高い電子輸送能を持つ液晶性有機半導体を開発
- せっけんをヒントに得た、両親媒性を持つ分子設計がカギ -
平成20年10月22日
◇ポイント◇
  • 両新媒性分子をカラム状に積層し液晶化に成功、大面積薄膜化、配向制御も容易に
  • 親水性と疎水性の分子が3〜4ナノメートルの間隔で相分離、電子の輸送能力を向上
  • 同種の液晶性有機半導体材料に比べ、電子輸送能の最高値が一桁も更新
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(小宮山宏総長)、財団法人高輝度光科学研究センター(吉良爽理事長)は、親水性と疎水性の側鎖を導入した両親媒性を持つ有機分子をカラム(円柱)状に積層化し、高い電子輸送能と加工成形性を併せ持つ液晶性有機半導体※1を開発することに成功しました。これは理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)高田構造科学研究室の高田昌樹主任研究員、東京大学工学部の相田卓三教授、田代健太郎助教、櫻井庸明(修士2年)、高輝度光科学研究センター(JASRI)利用研究促進部門の佐々木園主幹研究員、増永啓康研究員らの共同研究による成果です。
 現代の私たちの快適な日常活は、半導体を用いた電子デバイスの恩恵なしには成り立ちません。これまで半導体の材料には、主にシリコンなどの無機材料が用いられてきましたが、近年、軽く柔軟性に富む有機物を用いた新たな半導体(有機半導体)の開発に大きな注目が集まっています。中でも、高い電子輸送能と加工成形性を併せ持つ有機半導体は、太陽電池やトランジスターなど、多方面の応用に欠かせませんが、類例がきわめて少なく、新しい材料の開発が強く望まれています。
 東大の研究グループは、「縮環ポルフィリン銅錯体※2」と呼ばれる有機分子の周辺部の一方に親水性、他方に疎水性の側鎖※3を導入し、自発的にカラム状に積層化させることに初めて成功しました。さらに、この集合体が室温で液晶という“柔らかい”材料となるため、大面積薄膜化が容易となることや、電子がこれまでの最高値の10倍の速度でカラム上を移動することを見いだしました。そして理研・東大・JASRIの研究グループは、大型放射光施設SPring-8※4の放射光による2次元小角X線散乱測定※5によって、これらの性質が親水性および疎水性側鎖のナノスケールでの相分※6によってもたらされていることを明らかにしました。
 本研究成果は、米国化学会誌『Journal of the American Chemical Society』(10月22日号)に掲載されます。


1. 背景
 電子機器の便利さを享受する私たちの日常生活は、半導体を用いた電子デバイスの恩恵なしには成り立ちません。半導体の材料には、主にシリコンなどの無機材料が用いられてきましたが、近年、軽くて柔軟性に富む有機材料を用いた新たな半導体の開発に大きな注目が集まっています。
 この有機半導体で、製品の高性能化に欠かせない高い電子輸送能(電子を輸送する速さ)を得るためには、分子が規則正しく配列した結晶性の材料を用いることが有利です。しかし、結晶は“硬い”材料であるため、大面積の薄膜化などの加工成形性に限界があります。逆に、液晶などの“柔らかい”材料を用いると、加工成形性を確保できるものの、分子の集積状態が結晶に比べてゆるいために、電子輸送能を上げることが困難です。このように、有機半導体の開発では、高い電子輸送能と加工成形性を両立することが課題となっていました。


2. 研究手法と成果
 この課題を克服するため、東大の研究グループは、「縮環ポルフィリン銅錯体」と呼ばれる有機分子に着目しました。この分子は、電子輸送に影響するパイ共役系※7のサイズがこれまでの有機半導体と比べて大きいため、より高い電子輸送能が期待できました。しかし、液晶分子の一般的な設計手法である疎水性の側鎖の導入(図1右)では、液晶状態を得られず、新しいアプローチが必要となりました。
 せっけんのように、親水性と疎水性の部位を同時に有する分子(両親媒性分子)は秩序を持って集合しやすいことが知られています。そこで、これをヒントに、縮環ポルフィリン銅錯体分子の周辺部の一方に親水性側鎖、他方に疎水性側鎖を導入し(図1左)、両親媒性を持つ分子を設計しました。両側鎖を導入した後、いったん120℃に加熱してから室温まで約1時間かけてゆっくり冷却するという簡単な操作によって、分子を自発的にカラム状に集積させた結果、室温で液晶状態とすることに成功しました。
 得られた液晶の電子輸送特性を、マイクロ波の吸収を利用した非接触法(マイクロ波の吸収量が多いほど電子輸送能が高い)により評価したところ、これまでに知られている同種の材料(室温液晶性有機半導体)の最高値と比較して10倍の速さ(0.27 cm2/V・s※8)で、電子がカラム上を移動することを見いだしました。
 両親媒性の分子構造が果たした役割を明らかにするため、理研・東大・JASRIの研究グループは、大型放射光施設SPring-8の高輝度X線(ビームライン45XU)を利用して、構造解析を行いました。試料からの微弱な小角散乱を精度よく計測し、得られた散乱データに基づいて液晶状態の分子配列構造を検討したところ、分子設計で期待した通り、それぞれ親水性、疎水性側鎖同士が集合し、3〜4ナノメートル(nm:10億分の1メートル)の間隔で交互に相分離した構造を形成していることが明らかとなりました(図2)


3. 今後の期待
 分子構造への両親媒性の導入は、分子のカラム状集積化のための普遍的な設計指針として大変有用であると考えられます。また、今回開発した有機半導体は、電子とは逆の符号を持つ、プラスの電荷を輸送する材料にも簡単に変えられる可能性があります。これまでの半導体と比べて太陽光を効率的に吸収できる性質もあることから、特に有機薄膜太陽電池への応用が期待できます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
放射光科学総合研究センター 高田構造科学研究室
主任研究員 高田 昌樹(たかた まさき)

Tel: 0791-58-2942 / Fax: 0791-58-2717
播磨研究推進部 企画課

Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800
国立大学法人東京大学
工学部 教授 相田 卓三(あいだ たくぞう)

Tel: 03-5841-7251 / Fax: 03-5841-7310
財団法人高輝度光科学研究センター
利用研究促進部門
主幹研究員 佐々木 園(ささき その)

Tel: 0791-58-9353 / Fax: 0791-58-1873

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail:koho@riken.jp
国立大学法人東京大学 工学部広報室

Tel: 03-5841-1790 / Fax: 03-5841-7496
財団法人高輝度光科学研究センター 広報室

Tel: 0791-58-2785 / Fax: 0791-58-2786


<補足説明>
※1 有機半導体
ほとんどの有機分子は電気的に絶縁体であるが、電荷キャリアを注入することにより導電性を示す有機分子および高分子を有機半導体と呼ぶ。有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子や有機薄膜太陽電池、有機トランジスターなどへの応用が代表的であり、現在世界中で精力的に研究が進められている。
※2 縮環ポルフィリン銅錯体
植物が太陽光のエネルギーを利用する際に使う分子(クロロフィル)と類似の構造が連結した分子。
※3 側鎖
ここでは、電子輸送に働く分子中央部の周囲に存在する部分(図1のピンクおよび水色の部分)のことを指す。
※4 大型放射光施設SPring-8
理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射光)とは、荷電粒子が磁場の中で加速されるとき放射される光の1種であり、 特に円型加速器を用いて加速した場合に射出する光を指す。
※5 小角X線散乱測定
X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することにより物質の構造情報を得る手法。
※6 相分離
均一な混合物が、それぞれの(純)物質の相(同一の組成を持つ部分)に分かれていく現象。
※7 パイ共役系
導電性に関与する電子(パイ電子)が分子内で連結した状態。
※8 cm2/V・s
物質中の電子の速度(cm/s)はかけられた電場(V/cm)に比例し、この比例定数(電子移動度;cm2/V・s)が大きいほど電子を輸送しやすいことになる。


図1 両親媒性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造と疎水性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造
図1 両親媒性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造(左)と
疎水性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造(右)


図2 両親媒性分子の2次元分子配列構造(紙面垂直方向にできているカラムの断面)の模式図
図2 両親媒性分子の2次元分子配列構造(紙面垂直方向にできているカラムの断面)の模式図

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