プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
ブラックホールに吸い込まれるガスの流れを知る
- 光学望遠鏡とX線望遠鏡を使い、ブラックホールが放つ光の急速変動を観測 -
平成20年10月17日
◇ポイント◇
  • 超大型望遠鏡で可視光線を高速撮影、衛星で同時観測したX線の変化と比較
  • 一見すると無秩序な変動の中に、規則的な光とX線のパターンを発見
  • 放射の速い変動が磁場により駆動されている可能性を示唆
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)を中心とする国際チーム※1は、南米チリにある欧州南半球天文台(European Southern Observatory)の超大型望遠鏡(Very Large Telescope, VLT)を用いて、南天にある2つのブラックホール※2天体からの放射線の明滅を新たに観測し、可視光線の輝きの変化が、X線の変化よりも速く、可視光線とX線が連動しつつも、それぞれ異なる特徴的なパターンを示すことを観測しました。理研基幹研究所 牧島宇宙放射線研究室のポシャック・ガンジー国際特別研究員(国際研究チームリーダー)をはじめとする研究グループによる成果です。
 この研究では、可視光の変化とX線の変化を非常に短い時間スケールで同時に測定し、その2つの変化が一致しているかどうかを調べました。その結果、両者の間に密接な関係があることがわかり、ブラックホールのすぐ近くの環境では、磁場が重要な役割を果たしている可能性が示されました。これらX線と連動した可視光の変動の発見は、ブラックホールに吸い込まれるガスの激しい流れを理解する上で役立つと注目されます。


1. 背景
 ブラックホールにガスが吸い込まれる際、強いX線が放射されます。すでに1970年代から知られていたように、そのX線は、揺れたり、不規則に飛んだり、キラキラ輝いたり、ロウソクの炎のようにゆらゆらと変動して、決して安定することがありません。研究グループは今回、2つのブラックホールからの放射の明滅を新たに観測し、これらブラックホール中心部の巨大なエネルギーの流れに関する理論を検討しました。


2. 研究手法
 ブラックホールから放たれる電磁放射の速い強度変動は、これまで主にX線を用いて研究されてきました。今回の研究では、可視光の速い変動も観測し、それがX線の変化とどう関連するかを研究しました。
 研究グループは、南天にある2つのブラックホール天体の出す信号を、2つの異なった装置でまったく同時に追跡観測しました。可視光線は、チリにある欧州南天天文台(European Southern Observatory) の超大型望遠鏡(Very Large Telescope, VLT) に搭載された新規高速カメラULTRACAMを使って、毎秒最大20枚の画像を撮影しました(図1)。この撮像速度は、これまで大型望遠鏡を駆使して行ってきたブラックホールの観測速度としては、最も速いものの1つとなります。またX線データは、NASAのX線衛星Rossi X-ray Timing Explorerが取得したものを用いました。


3. 研究成果
 観測の結果、可視光の明るさはX線の強度よりも短時間(例えば0.05秒ぐらい) で変動すること発見しました。さらに、可視光の変化とX線の変化はまったく同一でもまったく別々でもなく、連動しつつそれぞれ特徴的なパターンを繰り返すことを発見しました。可視光は、X線が強くなる直前に暗くなり、その後、瞬間的に増光し、それからまた急激に弱くなる、というパターンを示しました(図2)。
 これらの可視光やX線は、ブラックホールから直接に放射されるわけではありません。ブラックホールに激しく吸い込まれるガスは、重力のため数千万度という高温の電離気体や、より高いエネルギーをもった粒子の集団となり、そこからX線や可視光が放射されるのです。ブラックホール周辺では、重力、磁気力、放射の圧力などが競合するため、この電離気体の流れの様子は、激しく変化しています。その結果、そこからの放射の明るさも、一見するとまったく無秩序に変動して見えます。しかし、今回の研究では、可視光の変動とX線の変動を詳しく比較することにより、それらの変動の中に安定したパターンが内在することが明らかになりました。この安定した構造は、乱雑に見える放射線の変化が、実は基本的な物理過程で支配されていることを示唆するものです。
 これまで、ブラックホール周辺からの可視光の放射は、X線が周囲の気体を照らすことで発生する副産物である、と広く考えられてきました。しかし、その場合には、可視光の変動はX線の変動より遅れるはずで、X線のピークから可視光のピークまで、もっと長い時間がかかるはずです。すなわち今回の観測は、今まで考えられてきた“光学発光は2次効果”という仮説がまったく当てはまらないことを示しました。どうやらX線と可視光線の強度変化は、ブラックホールに非常に近いところに存在する、1つの共通した物理プロセスに起因するもののようです。
 放射の変化を支配する物理プロセスの最も有力な候補として、強磁場電離気体の中で作られる強い磁場が挙げられます。これらの強磁場は、ブラックホールに吸い込まれる巨大なエネルギーの流れを、一時的に蓄える貯水池の役割を果たしているようです。貯水池が満杯になると磁場のエネルギーが一挙に解放され、気体を加熱するとともに、電子や陽子をさらに高いエネルギーにまで加速します。加熱され数億度になった気体からはX線が、また加速された電子からはシンクロトロン放射として可視光が、それぞれ発生すると考えられます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所 基幹研究所
牧島宇宙放射線研究室
主任研究員 牧島 一夫(まきしま かずお)
国際特別研究員 Poshak Gandhi(ポシャック・ガンジー)

Tel: 048-467-9333 / Fax: 048-462-4640

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 国際チーム
理研と、英国のシェフィールド大学、ケンブリッジ大学、ワーウィック大学、スペインのカナリア諸島天文台、米国のミシガン大学、ドイツのマックスプランク天文物理学研究所の7機関からなる共同研究チーム。
※2 2つのブラックホール
GX 339-4 および SWIFT J1753.5-0127は、共に銀河系の大質量星が死後に残したブラックホールである。どちらのブラックホールも通常の星と連星をなし、互いの共通の重心の周りを公転している。ブラックホールの強烈な重力により、星からガスがはぎ取られ、ブラックホールに吸い込まれる。これらのブラックホールは、私たちの太陽の約10倍の質量があるにもかかわらず、その公転軌道は、太陽系の水星の軌道よりもずっと小さく、わずか数100万キロに過ぎない。


図1 10秒という発光の間に撮影されたブラックホールGX 339-4の画像例
図1 10秒という発光の間に撮影されたブラックホールGX 339-4の画像例
(リアルタイムVLT明滅データ)
この動画は、ULTRACAMによる実写データで、毎秒20枚という高スピードで撮影された。左の映像では、可視光の強度(グラフ)がピークに達するとき、それに対応して、非常に狭い領域が瞬間的に明るくなることがわかる。もうひとつのブラックホール、Swift J1753.5-0127のデータは示されていないが、やはり急速な変動が観測された。


図2 可視光線およびX線 変動パターン
図2 可視光線およびX線 変動パターン
1秒より速い時間分解能で観測したGX 339-4の可視光とX線の強度変動パターン。グラフ中、時間は左から右に推移している。X線の発光(青い線)は、単純で幅広いピークを形作り、数秒にわたるなだらかな下降を示している。しかし、驚くべきことに、可視光線(赤い線)は、X線がピークを示した直後(0.15秒後)に非常に速い閃光を放ち、わずかな間に下降している。これは、可視光の閃光がX線に比べ、わずかな間しか続かないことを示す。こうした一連の現象は、何時間にもわたる観測の期間中に繰り返し認められ、図はそれら多数を重ねたものである。


<参考資料>

この研究は、以下の2つの研究論文で発表されました:

Rapid optical and X-ray timing observations of GX 339-4: flux correlations at the onset of a low/hard state
P. Gandhi, K. Makishima, M. Durant, A.C. Fabian, V.S. Dhillon, T.R. Marsh, J.M. Miller, T. Shahbaz & H.C. Spruit
Monthly Notices of the Roy. Astron. Soc. Letters, in press (2008), astro-ph/0807.1529


SWIFT J1753.5-0127: a surprising optical/X-ray cross-correlation function M. Durant, P. Gandhi, T. Shahbaz, A. Fabian, J. Miller, V.S. Dhillon & T.R. Marsh The Astrophysical Journal 682, L45 (2008), astro-ph/0806.2530

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