プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
ナノ分解能イメージングを実現する金属ナノレンズを世界で初めて提案
- レンズの常識を覆す -
平成20年6月26日
◇ポイント◇
  • 屈折現象を使わない不透明な金属でできたレンズで、光を表面プラズモンにより伝える
  • ナノの物体を拡大するとともに、カラーでイメージング
  • 超高分解能バイオイメージングや半導体ナノデバイス作製への応用に期待
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人大阪大学(鷲田清一総長)は、数ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの分解能を持つ金属のレンズを改良し、観察画像の拡大とカラー化を世界で初めて提案しました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)河田ナノフォトニクス研究室の河田聡主任研究員(大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻教授兼任)、小野篤史基礎科学特別研究員らの研究成果です。
 このレンズは、従来のガラスやプラスチックのレンズと異なり、ナノサイズの金属細線(ワイヤ)を緻密に並べた構造となっています。レンズの原理は、表面プラズモン※1という現象を利用し、観察する物体が発する光のパターンが、レンズ役であるワイヤ中の自由電子を集団的に振動させ、像をワイヤの反対側に結びます。研究グループは、この新しいレンズを「金属ナノレンズ」と命名しました。金属ナノレンズは、光の波動性による限界(可視光の場合は約200ナノメートル)をはるかに微細化した、数ナノメートルサイズの分解能を持っています。そして、ワイヤを扇形状に束ねることにより、観察像を拡大することができます。同時に、ワイヤの長さ方向にナノメートルサイズの間隙をつくることで、光学顕微鏡のようなカラーで鮮明な画像を映し出します。とくにカラー画像が瞬時に得られることが、このレンズを使った場合の顕微鏡の特徴で、同レベルの分解能をもつ走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡の観察像が白黒であることと比べ、大きな長所となっています。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Photonics』(7月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(6月15日付け:日本時間6月16日午前3時)に掲載されました。


1. 背景
 カメラや眼鏡、望遠鏡や顕微鏡などのレンズは、ガラスやプラスチックといった透明な物質でできています。これらのレンズは、光の波動性の制限を受けるため、波長と同程度(数100ナノメートル)のサイズが分解できる限界でした。研究グループは、このレンズの常識を覆し、不透明で光を直接透過することができない、金属でできたレンズを世界に先駆けて提案しました(2005年12月21日プレスリリース)。
 その構造は、ナノサイズの金属細線(ワイヤ)を無数に束ねたもので、光ファイバーのバンドル(細いファイバーを複数本束ねたもの、胃カメラに使われている)と似ています。研究グループは、ナノテクノロジーの表面プラズモンという自由電子の集団的振動現象を利用し、物体の像がこの束を介して反対側に鮮明に映し出されることを見いだしました。光ファイバーの場合、その径は光の波長より小さくすることはできませんが、金属ナノレンズを構成するワイヤの径はいくらでも細くすることができます。ワイヤの径が細いほど、物体の小さい部分の情報が得られるので分解能が向上します。原理的には1ナノメートルの細さまで可能です。しかし、その観察像は物体と等倍であり、またその色彩も離散的な波長に限られていました。


2. 研究手法とその成果
 本研究では、このワイヤを改良することで、観察像を肉眼で見ることができる大きさまで拡大し、さらにその像をカラー化できることを理論計算とともに計算機シミュレーションで実証しました。具体的には、素材が銀でできたワイヤーを模擬し、そのワイヤー1本1本にナノサイズの間隙(カット)を設け、それらを扇状に束ねました(図1)。
 金属であるワイヤ中の電子は自由電子と呼ばれ、普段は自由な振る舞いをしています。しかし、観察物体によって散乱あるいは発せられたある一定の振動数を持った光がワイヤに当たると、光の振動に共鳴してワイヤ中の電子が集団的に振動し、伝播します(表面プラズモン)。この電子の集団的振動が、カットしたワイヤの端面まで到達すると再び光に変換され、次のワイヤを照射してその電子を振動します。このようにして物体の情報はワイヤとカットの部分を次々に伝搬していきます。最後は、金属ナノレンズの反対側で再び光として放出します。
 前回提案したワイヤを束ねただけの構造では、表面プラズモンの共鳴現象が物体の発する光の振動数に対して非常に敏感なため、ワイヤの共鳴できる振動数に制限がありました。しかし、ワイヤの長さ方向にナノサイズのカットを導入し、その位置を調節してカット間のワイヤの長さを最適化したところ、可視光領域全域の振動数(波長)を共鳴できました。これによってナノレベルの物体をカラーで観察することができます。さらに、束状にしたワイヤ全体を扇形に拡げることで、虫眼鏡や顕微鏡のように、小さな部分を拡大して見ることができます。
 こうして、数ナノメートルの物体構造でさえも鮮明に拡大し、カラーで観察することができることを見いだしました。


3. 今後の期待
 今回提案した金属ナノレンズは、これまでの数ナノメートルという超高分解能のレンズの特性を損なうことなく、観察像の拡大およびカラー・イメージング化を実現します。本研究は、原理の考案と理論検証ですが、研究チームはすでにこの金属ナノレンズの製作に取り組んでいます。実際に実用化すると、光学分野に多大なる影響を及ぼすだけでなく、細胞膜のナノ・イメージングや、半導体製造におけるナノ・リソグラフィなど、幅広い分野に革新的な技術をもたらすものと期待できます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
基幹研究所 河田ナノフォトニクス研究室
主任研究員 河田 聡(かわた さとし)

Tel: 048-467-9338 / Fax: 048-467-9170

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 表面プラズモン
金属表面の自由電子が電磁波と相互作用を起こす現象をいう。光の振動数領域では、金や銀などの貴金属が対象となる。自由電子の振動は縦波である一方、電磁波は横波であるため、通常は相互作用しない。金属がナノサイズの微粒子、薄膜、ワイヤや針などの極微な構造になると、表面近傍において自由電子と電磁波が共鳴し、強い電場が局在する。


図1 金属ナノレンズの概念図

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