プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
独立行政法人農業生物資源研究所
イネ完全長cDNAの高発現シロイヌナズナ変異体データベースを公開
- 表現形質と導入遺伝子を併せて参照可能 -
平成20年3月13日
◇ポイント◇
  • 作製した約24,000系統のシロイヌナズナ変異体のうち、約18,000系統の情報を公開
  • 変異体の表現形質と導入したイネ完全長cDNAを併せて参照することも可能
  • 形態的な特徴に加え不可視の項目を含んだ多岐にわたる表現形質を集約
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、独立行政法人農業生物資源研究所(石毛光雄理事長)は、岡山県生物科学総合研究所(岩渕雅樹所長)と共同で、イネ完全長cDNA※1をシロイヌナズナで高発現する系統的な機能付加変異植物体を作製し、その作製した植物体の表現形質を解析したデータベースを構築し、インターネット上に公開しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)ゲノム情報統合化ユニットの櫻井哲也ユニットリーダー、植物ゲノム機能研究チームの松井南チームリーダー、農業生物資源研基盤研究領域の廣近洋彦領域長、岡山県生物科学総研遺伝子統御解析第2研究室の小田賢司室長らの研究グループによる共同研究の成果です。
 3研究機関は共同で、2006年に文部科学省が科学技術振興調整費の課題に選定した「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」を推進しています。世界に先駆けて多量に収集したイネ完全長cDNAを利用して、これらをシロイヌナズナ内で高発現するイネ完全長cDNA高発現(イネFOX)シロイヌナズナ植物体系統を作製し、有用な機能を持った遺伝子を高速に探索しています。今回公開したデータベースは、この研究過程で得られた表現形質解析結果を集約したものです。
 「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」で利用したイネ完全長cDNA群の中には、機能が未知な遺伝子も含まれており、本データベースを活用すると、それらの遺伝子が高発現することによる影響を直接観察することができます。観察対象の表現形質は多岐にわたり、ホルモン分析などの不可視の項目も含まれています。また、植物体の表現形質だけでなく、導入したイネ完全長cDNAの情報も併せて参照が可能です。これは、シロイヌナズナに現れた影響とそれに関係する遺伝子の情報を得ることができることを意味し、非常に有用な情報資源であるといえます。本課題の推進のみならず、広く一般的な植物研究にも活用してもらうため、このデータベースを公開しました。現在、データベースでは、本課題で作製した約24,000系統のイネFOXシロイヌナズナ変異体のうち、約18,000のイネFOXシロイヌナズナ植物体についての観察情報を収録しており、その大規模な公開という点でも世界的にまれな活動となります。
 このデータベースはウェブサイトで、2008年2月29日より公開しています。


1. 背景
 日本は、イネの研究、品種改良などで、インドなどの産出国と協力し、世界をリードしています。例えば、農業生物資源研では、種々の重要な形質を持つ変異体を、各地の農業試験場から抽出し、生物資源として蓄積してきました。2003年には、イネの遺伝子本体というべき完全長cDNAを世界に先駆けて多量に単離しました。一方、理研植物科学研究センター植物ゲノム機能研究チームの市川尚斉上級研究員らは、遺伝子機能探索の高速化を目的とした解析技術として、Full-length cDNA over-expressor gene hunting system(FOX hunting system※2:フォックスハンティングシステム)を開発しました (2006年12月27日の研究成果)。この技術は、既に知られている(1)シロイヌナズナの世代時間の短さ(2)シロイヌナズナで開発している高形質転換効率(3)「機能獲得型」の遺伝子探索法を活用して、遺伝子の本体である完全長cDNAを独立に個々のシロイヌナズナに導入し、高発現させることによって機能付加を引き起こすものです。
 理研、農業生物資源研、岡山県生物科学総研は、2006年から科学技術振興調整費の課題「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」(代表:理研植物科学研究センター植物ゲノム機能研究チーム松井南チームリーダー)において共同研究を展開しています。具体的には、日本が持つ豊富なイネ完全長cDNAと遺伝子機能高速探索技術FOX hunting systemを活用し、イネ完全長cDNAを導入したシロイヌナズナ変異体(イネFOXシロイヌナズナ変異体)を多く作製し、恒常的な遺伝子発現による機能付加とシロイヌナズナの短世代時間を利用して、今まで単離できなかった有用形質を高速に獲得することを目指しています。
 これまでにも世界中では、多くの植物の変異体が作製され、遺伝子機能に関する研究が進んでいます。そして、それらの情報がまとめられた変異体データベースが構築されています。しかし、これらのデータベースからは論文などで報告されたもの以外で、遺伝子機能を直接示す情報は、ほとんど参照できないのが現状です。


2. イネFOXシロイヌナズナ変異体データベースについて
 この共同研究活動で得られた情報を広く一般的な植物研究が活用できるよう整理し、イネFOXシロイヌナズナ変異体データベース(図1)を構築しました。その特徴は以下の通りです。
(1) 現在、約18,000イネFOXシロイヌナズナ変異体についての情報を参照できます。形態的(可視的)表現形質については、表現形質ごとに画像を参照することができます。
(2) 変異体の表現形質は、形態的な特徴にとどまらず、ホルモン計測によるプロファイル、元素組成、色素蓄積、光合成活性、紫外線応答、ガスクロマトグラフィ−飛行時間型/質量分析計(GC-TOF/MS)※3・フーリエ変換型近赤外分光光度計(FT-NIR)※4による代謝物フェノタイピング、サリチル酸感受性、病原性細菌への抵抗性、マイクロアレイ実験、高塩ストレス、高温ストレス、紫外線ストレスのような不可視的な形質に及びます。
(3) これらの観察対象の表現形質すべてに対して、柔軟な検索機能を実装しています。複数の表現形質項目を選択し、and/or検索することも可能です。
(4) イネ完全長cDNA(クローン、GenBankアクセッション)、イネ遺伝子モデル(RAP-DB およびTIGR)などの既存公共データベースの各種ID、構造ドメイン(ドメイン名、IPR ID)、配列類似性(BLAST)など、遺伝子側からの検索が可能です。上記表現形質項目とand/or検索することも可能です。
(5) 導入したイネ完全長cDNAと、シロイヌナズナタンパク質との配列類似性による対応付け機能を、装備しています。シロイヌナズナ遺伝子モデルIDによる検索が可能であり、シロイヌナズナ研究も支援します。


3. データベース公開URLとアクセス方法
 イネFOXシロイヌナズナ変異体データベースは ウェブサイトに公開しています。
 科学技術振興調整費は、日本の科学技術推進を目的とするため、当面のアクセスを日本の研究関係者、国内からのみに制限しました。データベースへアクセスするためには、同意書への承諾が必要です。同意書への承諾後、ユーザIDとパスワードを発行します。詳細は、webサイト内の “To access Rice FOX Arabidopsis Mutant Database” に掲載しています。


4. 今後の期待
 多くのイネFOXシロイヌナズナ変異体の形質情報だけでなく、導入したイネ完全長cDNA情報も併せて参照できることは、植物体に現れた影響とそれに関係する遺伝子の情報を得ることができることを意味します。また、約18,000系統もの大規模な公開は世界的にもまれで、日本の植物の遺伝子機能研究を推進するための非常に有用な情報資源となります。
 今後は、情報更新とともに、検索機能、検索結果の改良と新規解析ツールの実装を行う予定で、さらに有用なデータベースにしていきます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 植物科学研究センター ゲノム情報統合化ユニット
  ユニットリーダー  櫻井 哲也(さくらい てつや)

Tel: 045-503-9488 / Fax: 045-503-9489
 横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 完全長cDNA
cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。完全長cDNAは、断片cDNAと異なり、タンパク質を合成するための設計情報をすべて有しているため、タンパク質を合成することができる。
※2 FOX hunting system
フォックスハンティングシステム。Full-length cDNA over-expressor gene hunting systemの略称で、ホスト生物に目的生物の完全長cDNAを導入、高発現させた形質転換体を作製し、ある特定の条件で選別し、最終的にその個体から導入した遺伝子を取り出すというゲノムワイドな有用遺伝子探索技術。FOX huntingのフローについては2006年12月27日の研究成果を参照。
※3 ガスクロマトグラフィ−飛行時間型/質量分析計(GC-TOF/MS)
揮発性物質の分離・分析法であるガスクロマトグラフィ(GC;gas chromatography)に、検出器として飛行時間型質量分析計(TOF/MS)を組み合わせた装置。GCにより分離された成分は、イオン化部(本装置では電子イオン化法=EI;electron ionizationを採用)でイオン化する。TOF/MSでは、このイオンを真空中で運動させ、電磁気力を用いてイオンを質量電荷比(m/z)に応じて検出する。低コストで、短時間に高感度かつ大量の代謝産物データを、再現性よく測定することが可能。
※4 フーリエ変換型近赤外分光光度計(FT-NIR)
測定対象に近赤外線を照射し、吸収された度合いの変化によって成分を算出する。近赤外線は中赤外と可視の波長の中間に位置し、中赤外線、遠赤外線より吸収が極めて小さいため、試料を非破壊で観測できる特徴がある。


図1 イネFOXシロイヌナズナ変異体データベースの画面例
(右上)データベーストップ画面、(左上)検索画面、(右下)検索結果一覧画面、(左下)イネFOXシロイヌナズナ変異体詳細情報画面。

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