パルスレーザー光の短パルス化には原理的な制限があります。光は波の性質を持っているので、波の「山・谷」、という1回の周期に必要とする時間よりも短い時間幅のパルスはつくれません。従って、短いパルス幅のレーザー光を得るためには、波の周期が短い、つまり、波長の短いレーザー光を使う必要があります。今回の研究では、強力な可視光レーザー(フェムト秒レーザー)をキセノンガスに集光して、可視光レーザーの1/11, 1/13, 1/15の波長の3種の「高次高調波※3」光を発生させ、これをパルス光源として用いました(図2)。この発生した高次高調波光は、レーザー光と同様に直進性、干渉性等という、優れた性質を持っています。理研では独自の高調波の発生法を工夫しており、この高次高調波光のパルスエネルギーは(キセノンガスを用いた場合)1マイクロジュールを超えており、世界最大です。
これら3つの高調波光を、反射鏡を使って電子分光器(電子の運動エネルギーを測る装置)に導き、この中でアルゴンガスに照射しました(図2)。照射によってアルゴン原子から放出される電子のエネルギーを測定すると、図3の様に特定のエネルギーの位置に集中して4つのピークを見つけました。これは3つの高調波光が「超閾イオン化」という非線形光学現象を起こしている証拠であり、複数の高調波光を使って初めて観測したものです。
次に高調波光の反射鏡を図2の拡大図の様に2枚にして、高調波光を空間的に2つに分割して、アルゴンガスに照射します。この様にすると、片方の反射鏡を前後させる事によって2つの高調波光の通る経路の長さを変え、アルゴンガスに辿り着く時刻の差(遅延)を変化させる事ができます。この遅延を変化させる事によって、2つの高調波光に対して図3の電子の運動エネルギー分布がどの様に変化するかを測定すれば、高調波光自身の時間構造が分かるという仕組みになっています。
この結果、図3で示した4つのピークの内の3つが、遅延時間に対して1000兆分の1.33秒の周期で増減を繰返しており、実験データから直接的にこの周期でパルス列が存在している事を確認できました(図4)。なお、この周期は高調波光を発生させている可視光レーザー波の周期の半分に相当します。また、詳細な解析を行うと一つのパルス形状の幅は1000兆分の0.45秒である事がわかりました。この様に実験データから直接アト秒パルス列の存在が確認できた事が、今回の研究の最も大きな成果です。これにより、これまで実現できなかったフェムト秒の半分以下の超高速光パルスのシャッター動作を初めて確認する事ができたのです。
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