| 2. |
研究手法と成果 |
| LC-FACSの酵素触媒反応のそれぞれの段階に対応するLC-FACSの原子構造を明らかにする為には、酵素反応の各々の段階に相当する構造を持つLC-FACSの結晶を作る必要がありました。実験に使用するLC-FACSは、高度好熱菌Thermus thermophilus HB8株由来のLC-FACSを大腸菌を使って発現し、さらに大腸菌由来の脂質成分を含まないLC-FACSを得る為の精製法を確立し、結晶化に使用しました。X線結晶構造解析したLC-FACSは、1)ATPや補酵素A※1を含まないLC-FACSの結晶(アポ結晶)(図1-1、図1-2)、2)ATP類似体であるAMP-PNP※5と結合したLC-FACSの結晶(AMP-PNP複合体結晶)(図1-3)、3)ミリストイルAMP※6と結合したLC-FACSの結晶(myristoyl-AMP複合体結晶)(図1-4)の三種類で、アポ結晶は酵素反応が始まる前の状態、AMP-PNP結晶は酵素反応を開始する為の準備が整い、脂肪酸を受け入れる直前の状態、myristoyl-AMP結晶は、LC-FACSの触媒作用によって長鎖脂肪酸アシル化AMPが作られた状態にそれぞれ対応しています。これらの構造解析の結果からLC-FACSの二段階触媒反応について次のような新しい知見を得る事ができました。
|
| a) |
LC-FACSの触媒反応過程で、長鎖脂肪酸アシル化補酵素Aが存在する事を世界で初めて実験的に観測しました(図2)。AMP-PNP複合体結晶を、長鎖脂肪酸であるミリスチン酸を含む溶液に浸し、結晶中で触媒反応を進めることで作成したmyristoyl-AMP複合体結晶の中では、ミリスチン酸とAMP-PNPはアシル結合したミリストイルAMPとして見いだされました。 |
| b) |
一連の触媒反応の為の構造的環境は、ATPの結合によってLC-FACSの構造が変化する事で準備される事がわかりました。LC-FACSは大小二つのドメイン※7が短いペプチド鎖で連結された構造をしていました。ATPと結合していないアポ結晶中のLC-FACSでは、二つのドメインの間には広い空間があり、いわば開いた構造をとっているのに対し(図1-2)、AMP-PNP複合体結晶とmyristoyl-AMP複合体結晶の中では、どちらも小さなドメインが大きなドメインの上に覆いかぶさった閉じた構造をしていました(図1-3、図1-4)。また長鎖脂肪酸の長い炭素鎖を受け入れる為の構造もATPの結合によって形成される事がわかりました。ATPと結合していないアポ結晶中のLC-FACSでは、トリプトファンと呼ばれるアミノ酸の側鎖によって閉じられていますが、ATPが結合したLC-FACSでは、トリプトファンの側鎖が移動し、大きなドメインの中にトンネルが貫通しています(図3-1、図3-2)。 |
| c) |
c) 脂肪酸は脂肪酸を受け入れるトンネルのなかを一方通行で動いていく事がわかりました。脂肪酸を受け入れるトンネルは大きなドメインを貫通していますが(図3-2)、片方の入り口はATPと小さなドメインで覆われている為、脂肪酸は反対側の入り口から入っていかざるを得ません。この脂肪酸を一方向に動かしながら触媒反応を進める仕組みは、水にほとんど溶けない長鎖脂肪酸を細胞膜などの供給源から取り込み、酵素反応の結果できた水に溶けやすい長鎖脂肪酸アシル化補酵素Aを効率よく細胞内に流し込んでいく為には大変都合の良い仕組みです。 |
| これらの知見を総合することで、LC-FACSの酵素反応では始めに、A)小さなドメインが閉じた構造をとる事によるATPの結合と、脂肪酸結合トンネルの開通が起こり、引き続き順番にB)脂肪酸の取り込み、C)長鎖脂肪酸アシル化AMPの合成とピロリン酸の脱離、引き続く補酵素Aの結合、D)長鎖脂肪酸アシル化補酵素Aの合成とすすみ、E)小さなドメインが開いた構造に戻り、AMPと長鎖脂肪酸アシル化補酵素Aが脱離することで完了する触媒の分子機構を描く事が可能になりました(図4)。 |