特定の糖鎖構造を持つタンパク質だけを可視化する技術を開発
−糖鎖構造の違いでタンパク質の動態変化を見る技術の基盤確立へ一歩−
同じ分野の「常識」にとらわれると、そこから抜け出せなくなりドツボにはまってしまいます。そんな時は少しキョロキョロしてみることです。異なる分野の人から目から鱗のアドバイスがあるかも知れません!科学の世界でも一緒、自分の世界のこだわりは持ちつつも、常にやわらか頭でいることが大切です。
今回の成果は、生物学者が分厚くてとても破れないと思っていた壁を、親しくしていた化学者からのアドバイスで難なく突破したことで生まれたものです。
さて、タンパク質はDNA情報に基づいて合成(翻訳)された後に、多くの酵素によって翻訳後修飾を受けます。糖鎖修飾もその1つです。糖鎖はタンパク質に水溶性や立体構造の安定性などの特徴を与えます。また、最近の研究から特定の糖鎖構造が変化すると疾患が発症することが分かってきました。しかし、糖鎖は多様多種で、いろいろなタンパク質にくっついているので、疾患と糖鎖の関係を明らかにすることは非常に困難でした。
そこで、共同研究グループは、細胞内のタンパク質間の相互作用を調べるために用いるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用して、目的のタンパク質のうち特定の糖鎖構造を持つものだけを可視化する技術開発に取り組みました。研究対象には、 2型糖尿病に関連するGLUT4という膜タンパク質と、単糖の一種であるシアル酸という糖を用いて、それぞれに2つの異なる蛍光物質を結合したところ、 分厚い細胞膜を乗り越えて、GLUT4とシアル酸の間のFRETシグナルを検出することができたのです。つまり、シアル酸を持つGLUT4だけを区別することに成功しました。
この技術で特定の糖鎖を持つタンパク質の挙動をリアルタイムに、かつ多角的に解析することができます。今回の成果を使って糖鎖変異によるタンパク質の機能や局在個所の変化のメカニズムが解明されれば、さまざまな疾患の予防や治療法の開発につながると期待できます。
基幹研究所 糖鎖代謝学研究チームの鈴木匡チームリーダー、芳賀淑美訪問研究員(日本学術振興会特別研究員)、佐甲細胞情報研究室の佐甲靖志主任研究員、日比野佳代研究員、伊藤細胞制御化学研究室の伊藤幸成主任研究員、疾患糖鎖研究チームの谷口直之チームリーダーら