磁束が超伝導材料の細線を量子的にトンネルする現象を確認
−超伝導現象の重要な理論的予言をついに実証−
数学や物理学で「双対」という言葉に出会うことがあります。相対(そうたい)と区別するために「そうつい」と読まれることが多いようで、2つの事象がお互いに「裏返し」の関係にあることを示すそうです。だから双対の双対は元の事象に戻ります。何やら難しくなってきましたね。
超伝導や量子の世界も難しいのですが、少し覗いてみましょう。超伝導の分野でブレイクスルーとなったのは、ジョセフソン効果の発見です。超伝導体の電子対が絶縁体(空間)をトンネル(透過)することによって超伝導電流が発生する現象です。この現象を応用して開発された磁気共鳴画像装置(MRI)などは、今では産業、医療分野に欠かせない技術です。
このジョセフソン効果と量子力学的に“双対”な現象が「コヒーレント量子位相スリップ(CQRS)」効果です。この現象は、磁束がエネルギーを失わずに量子的に超伝導体を横切る現象です。ジョセフソン効果では電子対の障壁は絶縁体ですが、CQRS効果では磁束の障壁が超伝導体ということになります。基幹研究所物質機能創成研究領域の研究者らは、このCQRS効果の証明に挑戦しました。
研究チームは、酸化インジウムの薄膜で微細な超伝導細線と超伝導ループを組み合わせた超伝導磁束量子ビットを作製しました。これに外部から磁場と光(マイクロ波)を与え、量子ビットのエネルギー状態を調べたところ、約5GHzのエネルギーギャップを観測し、磁束が超伝導細線をトンネルしたことを確認しました。これは、CQRS効果を実証するとともに、ジョセフソン効果を用いない新しい量子ビットの試作が成功したことを意味します。CQRS効果はジョセフソン効果と量子力学的に双対ですから、ジョセフソン効果でできることは、CQRS効果を使ったデバイスでも実現可能だと考えられます。
また今回の成果によって、「量子電流標準」が構築できる可能性が高まりました。標準を構築することは、単位を定義付けることで、産業利用などに普及するために重要なプロセスです。量子電圧標準や量子抵抗標準は実現しているのですが、技術的な問題で量子電流標準だけが未だ実現していません。もしこれが実現すると、「量子三角形」と呼ばれる標準系が初めて完成し、産業や科学技術の根幹を担う電気標準の分野に画期的な新基軸の構築が期待できます。
基幹研究所物質機能創成研究領域 単量子操作研究グループ 巨視的量子コヒーレンス研究チームのツァイ ヅァオシェン(蔡 兆申)チームリーダー(NEC中央研究所 スマートエネルギー研究所主席研究員兼務)ら