ジャガイモ疫病菌分泌物の立体構造解析で病害の仕組みを解明
−病原菌による病害原因の「免疫抑制」戦略を解き明かす−
平成23年8月2日
「植物の破壊者」という意味の学名Phytophthoraが名付けられたジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)は、ヨーロッパ全域でジャガイモを壊滅的に枯らし、特にアイルランドで歴史的な大飢饉を引き起こしたことで知られる脅威の植物病原菌です。ジャガイモは世界中で年間約1億トンも消費される主要作物で、この疫病菌がもたらす年間被害額は世界中で67億ドルにも達し(オランダワーゲニンゲン大学の統計より)、食糧の安全保障に深刻な打撃を与え続けています。
植物科学研究センター植物免疫研究グループは、このジャガイモ疫病菌の分泌物で、病害を引き起こす植物免疫抑制タンパク質「AVR3a」の立体構造を世界で初めて解明し病原菌の種を超えて保持されている脂質結合領域が免疫を抑制するのに必須な構造であることを突き止めました。構造解析の結果、エフェクタードメインと呼ぶ部分は4つのαへリックスが束になった構造を持ち、植物免疫反応の制御因子であるCMPG1を機能不全にするのに必要なC末端チロシンを含む部分が、エフェクタードメインから突き出た尻尾のようなかたちをしていることが分かりました。さらに、エフェクタードメインの表面電荷分布の解析から、この領域が植物細胞の膜脂質であるホスファチジルイノシトールリン酸との結合に必須であることが分かりました。これらの結果から、 AVR3aは膜脂質と結合することにより安定性を保ち、CMPG1に結合してその働きを阻害することで、植物免疫を抑制している考えを導き出しました。
今回の発見は、植物免疫の仕組み解明に向けて大きな前進であり、また膜脂質結合を阻害する薬剤など広範な病原菌防除に役立つ創薬研究や抵抗性作物の作出に貢献することが期待できます。