CAPS2が神経栄養因子BDNFの分泌を増強し、脳回路を正常に発達
−CAPS2の分泌増強効果の欠損が、抑制性シナプスの異常を起こし不安を亢進−
特に脳で多く発現し、神経細胞の生存・分化や神経回路の形成などに必須な神経栄養因子の1つ「BDNF」(脳由来神経栄養因子)は、うつ病や統合失調症、発達障害、アルツハイマー病などの精神神経疾患との関連が示唆されています。このBDNFは、神経細胞の軸索に分布している分泌顆粒「有芯小胞」に含まれており、この小胞が刺激を受けると、小胞膜が細胞膜と融合、開口してBDNFを細胞外へ分泌します。この過程では、約1,300個のアミノ酸からなる分泌調節因子「CAPS2」が関与すると考えられていましたが、 CAPS2がBDNFの分泌をどのように増強するのか、神経細胞上での実際の様子やその時系列的変化については不明のままでした。
脳科学総合研究センター分子神経形成研究チームは、CAPS2遺伝子を欠損させたマウスの海馬由来の神経細胞を用いて、刺激を受けた有芯小胞が放出するBDNFの量が、CAPS2の働きによって増強される動態を、蛍光イメージングで観察することに世界で初めて成功しました。CAPS2遺伝子が有る場合は、無い場合と比較して、BDNFを分泌する動的速度を約30%、頻度を約85%、量を約60%増強していることが分かりました。さらに、このCAPS2欠損マウスでは、海馬のGABA(γアミノ酪酸)作動性の抑制性神経回路が脆弱になるとともに、抑制性シナプス発達、抑制性シナプス電流、シナプス可塑性、脳波に異常を示すだけでなく、新奇な物体を設置した不慣れな環境下では不安様行動を亢進することも見いだしました。GABAは、GABA受容体作動薬が精神安定作用を発揮することからも、不安障害との関連が明らかとなっている神経伝達物質の1つです。
今後、CAPS2によるBDNF分泌増強効果を利用した、精神神経疾患や発達障害、不安障害に対する新たな臨床応用が期待できます。