反水素原子ビーム生成装置が稼働開始へ
−独自開発のカスプトラップ法により、反水素原子ビームの生成が目前に−
平成22年12月6日
宇宙はビッグバンから始まったと考えられ、その時に生まれた反物質と物質は等量存在していたとされています。しかし、現存する宇宙で存在が確認されているのは物質だけで、消えた反物質の謎解きが待たれています。そこで、世界中の物理学者は、反物質の代表格である反水素を生みだし、水素の性質と比較して謎を解こうという戦略をとっています。そのためには、生成した反水素原子を生きたまま捕捉し、「マイクロ波分光」や「レーザー分光」などで精密分光を行う必要があります。特に、物理学の大前提「CPT対称性」を検証する上で有効な指標となるマイクロ波分光を行うためには、生成した反水素原子を、電場や磁場の影響がない環境下まで引き出す必要があります。
基幹研究所山崎原子物理研究室らは、欧州原子核研究所(CERN)とともに国際研究グループをもうけ、独自に考案・開発した「カスプトラップ法」を活用して、極低温の反水素原子を7%の効率で生成することに成功しました。カスプトラップ法は、反水素の原料となる反陽子と陽電子を高密度かつ安定に蓄積できることが特徴で、生成した反水素原子をビームとして取り出せる設計となっています。実際に反水素原子生成を試みたところ、少なくとも打ち込んだ反陽子の7%が反水素原子に変換していたことを突き止めました。
カスプトラップ法は主要部分が国産です。今後は、反水素原子ビームを効率よく引き出して、反水素原子の精密分光を実施します。これまでの装置開発、技術開発が実を結び、2011年は基礎物理学の根幹にかかわる冷反物質研究元年となりそうです。