多剤排出トランスポーターの機能を分子シミュレーションで初解明
−多剤耐性化のタンパク質AcrBの3つの部分構造が順序良く機能する仮説を実証−
平成22年11月17日
多剤耐性菌の院内感染やがん治療時の抗がん剤への耐性など、薬剤耐性化が医療の現場で大きな問題になっています。特に、抗生物質の効かない多剤耐性菌の出現は、社会問題にまで発展してきており、耐性化メカニズムの解明が精力的に進められています。例えば、緑膿菌では、多剤排出トランスポーターの発現量増加が多剤耐性化の主な原因となっています。
大腸菌由来の多剤排出トランスポーター「AcrB」は、すでにその構造の解明が進み、同じ分子が3つ集合した 3量体をとり、それぞれの分子が順序良く順番に機能を発揮し、薬剤を排出するという「機能的回転機構」も提唱されています。しかし、この薬剤排出のメカニズムを実験的に確かめることが難しく、機能的回転機構は仮説に留まっていました。
情報基盤センターと京都大学の研究グループは、独自に開発した数原子をまとめて表現する粗視化分子シミュレーション技法を駆使し、生体膜中のAcrBにプロトン(H+)が結合して引き起こされる薬剤解離過程が、機能的回転のボトルネックになっていることを突き止めました。AcrBの機能的回転機構を計算機上で再現し、薬剤を結合しているAcrB分子に細胞外からプロトンが結合すると、薬剤が外側に押し出され、それと前後してほかの2つのAcrB分子も状態を変化させ、機能的回転を起こす様子を初めて実証しました。
この成果は、粗視化技術を取り込んだ分子シミュレーションの研究開発から得たもので、次世代スパコン「京」が稼働する2012年以降には、より詳細な原子レベルでの動きを解明することが期待できます。多剤排出トランスポーターによって排出されない薬剤や、多剤排出トランスポーターの働きを止める薬剤の開発に貢献すると注目されます。