葛藤を処理する脳基盤の発達に脳内タンパク質「X11L」が関与
−意欲や社会性を制御する神経機構の解明に新たな道筋−
平成21年5月6日
彼女(彼)と友達になりたい、だけど恥ずかしくて声をかけづらい。相反する感情そのものである葛藤は、日々の生活の中でさまざまな行動を生み出します。この葛藤を処理する脳のメカニズムは、まだ十分に分かっていません。そもそも感情がどのように生まれるのか?葛藤はどのように処理されるのか?その結果どういう行動を決定するのか?などといった疑問の解明は、脳科学の大きな挑戦の一つです。これまで作製された、感情制御に異常を引き起こすモデル動物の多くは、「不安・恐怖心が強く、うつの性格を示し、社会行動が低下、自発的な行動量も下がる」といった具合に、複数の感情異常が混同し、ある特定の感情に限定した研究ができませんでした。
脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームは北海道大学薬学研究院の研究グループと協力し、遺伝子欠損マウスを用いて、新たな行動試験を含めさまざまな試験を行いました。その結果、タンパク質「X11L」が、葛藤を処理する脳基盤の発達で大きな役割を担っていることを発見しました。このタンパク質が欠損すると、葛藤下では消極性は変わらず、積極性だけが低下することが明らかとなりました。例えばこのマウスは、自分の縄張りに入ってくる侵入者を探索する行動が少なくなり、競争に負けやすくなりました。X11Lを欠損させた脳に、遺伝学的手法を使って発達期にX11Lを補ってやると、失った積極性や社会性の低下が回復し、X11Lが葛藤処理をする神経機構の発達にかかわっていることが裏づけられました。
意欲や社会性を制御する脳機構の解明に新たな道筋を与えると期待されるとともに、自閉症や統合失調症などによる社会行動の低下や興味の喪失に対する治療戦略の探索に有効と注目されます。