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研究内容 |
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将棋の局面理解に関わる脳波活動:プロ棋士とアマチュアの違い |
プロ棋士は、駒組の意味を瞬時に認識することができると考えられます。実験では、駒組を5秒間ずつ被験者に呈示して駒配置を記憶してもらい、駒組を見た直後の脳波活動の変化を調べました。具体的には、定跡形とルールを無視してデタラメに配置した駒組(デタラメ形)の2種の駒組を用いて比較しました。
駒組呈示直後の脳波活動の解析から、プロ棋士では、定跡形とデタラメ形では、脳波活動に明確な違いが見られました。プロ棋士の場合、定跡形が提示されると0.1秒後に前頭部で約7ヘルツの活動の上昇が見られたのに対し、デタラメ形では0.1秒後に側頭部で約7ヘルツの活動上昇が見られました。アマチュアの上級者では、2種の駒組での大きな差はなく、いずれの部位も0.3秒後に活動上昇しました。
プロ棋士だけ、わずか0.1秒で定跡形とデタラメ形でそれぞれ別の場所に脳波活動が現れたことは、プロ棋士が良手か愚手かを瞬時に識別していることを示唆しています。アマチュアには見られなかったこのような脳波活動は、熟練技能によって複雑な情報を瞬時に理解できる脳内機構の解明への一歩として重要と考えられます。
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プロ棋士の脳:局面理解と直観的指し手選択 |
プロ棋士は、盤面を見て一瞬のうちに最善手を直観的に思いつきます。この優れた能力の神経基盤を知るために、盤面の知覚と次の一手の直観の両面についてfMRI実験を行いました。
盤面の知覚については、プロ棋士が将棋盤面を見ると頭頂葉背内側部(楔前部)※4の神経活動が高まることを見いだしました。この部位は、物体、顔、景色、また西洋のチェスの盤面、さらにあり得ない将棋盤面(将棋の規則にはのっとっているが実戦ではあり得ないパターン)では活動しません。アマチュア初級者でも活動が生じませんでした。この頭頂葉背内側部位の活動がプロ棋士の素早い盤面読み取りを支えていると思われます。
次の一手の直観については、プロ棋士が詰将棋、または必至問題※5の答えを短時間の間(1秒)に直観的に思いつく時、いずれの場合でも大脳基底核の一部である尾状核頭部(右側)が活動することを見いだしました。直観で解けない問題の解を意識的に探しているときには、大脳基底核は活動せず、前頭前野、運動前野、補足運動野などの大脳皮質連合野の広い領域に活動が見らました。行為の習慣化に重要であると考えられてきた大脳基底核が、プロ棋士の直観においても重要な働きをしていると考えられます。現在、次の一手の直観におけるアマチュアの脳活動分布を調べています。
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将棋の上達と小脳 |
詰将棋を直観思考課題として用いることにより、直観思考には運動学習と同様に小脳がかかわる、という小脳仮説の検証を目指しました。小脳の働きを確かめるにあたり、まずは詰将棋を直観的に解ける状況と、解けない状況を準備する必要があります。その2つの条件のもとで小脳の働きを調べることにより、直観的な思考に小脳が関与しているかどうかを確かめることができます。
視覚的ルール変更を組み込んだ詰将棋を実施した結果、詰将棋を直観的に解く能力が高い人は、駒の文字の記号への置き換えのような「妨害」がある状況でも、能力が低い人に比べて正しく答えることができます。しかし、金銀の動きを入れ替えた強すぎる「妨害」の場合には、正しく答える能力は損なわれることが分かりました。この課題で小脳の活動を調べることにより、直観的に詰将棋を解く能力と小脳活動の関係を解析することが可能となりました。現在、小脳の脳活動測定を進めています。
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