| ※1 |
RIビームファクトリー(RIBF)計画 |
水素からウランまでの全元素の不安定原子核(RI)を世界最大強度でビームとして発生させ、それを多角的に解析・利用することにより、基礎から応用にわたる幅広い研究と産業技術の飛躍的発展に貢献することを目的とした次世代加速器施設。施設は、RIビームを生成する「RIビーム発生系施設」と、生成されたRIビームの多角的な解析・利用を行う「基幹実験設備」で構成する(図5)。
RIビーム発生系施設は、2007年3月に完成し、2007年6月には新同位元素125Pd(パラジウム125)の生成に成功。(2007年6月6日プレス発表)2012年度の全施設完成を目指し、現在、基幹実験設備の整備・開発を進めている。
RIビームは、原子核の構成メカニズムおよび元素の起源の解明に有用であるとともに、RI利用による産業発展に寄与することが期待され、ドイツ、アメリカなど世界の主だった重イオン加速器施設でも次世代加速器施設の整備が計画され、国際的にも熾烈な開発競争を展開している。
|
| ※2 |
高周波イオンガイド法 |
1997年に和田らが考案した、高速RIイオンを減速冷却して真空中に取り出す方法。濃いガスを充填した容器に高速RIイオンを入射して停止し、そのイオンを高周波電場を用いてかき集める働きをする。
濃いガス中でのイオンの運動は、電気の力で加速されてもすぐにガス分子と衝突して停止するため、電気の力の向きを表す電気力線に忠実に沿って運動する。ところが、電気力線は陽極を起点とし、陰極に終端するので、単純な静電場を用いて、ガス中のイオンを制御してノズルから導き出そうとしても、イオンは必ず陰極に到達して失われてしまう。そこで、イオンを陰極で失わないようにするために、陰極を多数の同心円状の細かいリング電極によって形成し、その各々に隣同士で極性の反転した高周波電圧を与える。この構造の陰極を「高周波カーペット」と呼ぶ。陰極表面には不均一な高周波電場が形成され、それによってイオンは、表面に引かれたり押されたりと振動し、平均的には常に表面から遠ざけられるような力を得る。いわばイオンバリアをつくっていることになる。そのイオンの動きは、図6のようになっている。リング電極には、中心に向かうような静電場をつくるための直流電圧も与えられており、イオンは中心のノズルに向かって導かれる。
|
| ※3 |
不安定原子核(RI)、放射性同位体(RI) |
| 物質を構成する原子核には、構造が不安定なため時間とともに原子核が崩壊していくものがある。このような原子核を不安定原子核あるいは放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定核、短寿命核、ラジオアイソトープ(RI)は全て同義語。同じ元素であっても中性子の数が相違する原子同士を同位体と呼ぶが、同位体は安定なものと不安定なものに分類される。不安定なものは有限の寿命で崩壊し、その崩壊の際に放射線を放出するため、このように区別して呼んでいる。 |
| ※4 |
レーザー核分光 |
| レーザー光を用いて、原子を構成する電子のエネルギー準位を精密に測定することにより原子核の構造を測定する方法。この方法では、超微細相互作用という、特性のよく分かっている電磁相互作用のみを使うため、原子核構造の予備知識の仮定に依存せず、精密な原子核の静的特性を測定することができる。 |
| ※5 |
理研既存加速器施設 |
| RIビームファクトリーの施設のうち、1987年に建設されたリングサイクロトロン(RRC)や入射核破砕片分離器(RIPS)の部分を指す。質量数60以下の軽量域のRIビーム研究が行われている。 |
| ※6 |
入射核破砕片分離器(RIPS) |
| 加速器を用いて光速の数10%以上に加速された高速の安定核ビームを、標的に衝突させて破砕し、その破砕片を多数の電磁石を用いて分離・収束する装置。理研の既存加速器施設のRIPSや新しい施設のBigRIPSのほかに、ドイツ・重イオン研究所のFRSや、米国ミシガン州立大学のA1800が著名である。 |
| ※7 |
超微細構造 |
| 原子核と軌道電子の相互作用によって生ずる原子のエネルギー準位のごく微細な分離構造。超微細構造の精密測定から、原子核が持つ静的特性、とりわけスピン(こま運動の速さ)、磁化の強さ、電気的・磁気的大きさについて研究することができる。超微細構造は、原子核と軌道電子の固有の特性とそれらの相対的向きだけによって定まる量で、極めて安定かつ精密に測定できる。セシウム原子の超微細構造の大きさをマイクロ波で精密に測定したものが、今日の標準時をつかさどる原子時計として使われており、日常生活にも活用されている。 |
| ※8 |
電磁相互作用による静的電磁特性の精密測定 |
| 自然をつかさどる力には、重力、電磁力、弱い核力、強い核力がある。このうち、電磁力を担う電磁相互作用は、もっとも正確に機構が分かっている。そのため、この相互作用を用いた測定は、ほかの核力を用いた測定に比べて、本質的に精度が高く、信頼度の高い測定が可能となる。 |
| ※9 |
原子核モデル |
| 陽子と中性子の集合体である原子核のさまざまな特性を理論的に説明するための模型。平均的な束縛力のもとに個々の粒子があたかも独立に運動しているように扱う独立粒子模型、全体が1つの水滴のようであると見なす液的模型、いくつかのグループの塊のようになっていると見なすクラスター模型、原子の周期律に相似した特性を記述する殻模型など、さまざまな模型が提案されてきた。 |
| ※10 |
中性子ハロー、中性子スキン |
| これまでの原子核物理の常識では、通常の安定な原子核では、陽子と中性子が均一に混ざり合って存在し、陽子の占める体積と中性子の占める体積はほぼ等しいといわれていた。ところが、RIビームを用いた昨今の実験で、中性子の過剰な軽い元素(8Heや11Li)の不安定原子核構造を詳しく見てみると、核子の分布は通常のコアの部分と、遠方まで広がる過剰な中性子の部分に分かれていることが分かった。この過剰な中性子が異常に大きな半径をもってコアとなる原子核のまわりに薄く広がっている状態を「中性子ハロー」という。また、過剰な中性子が異常な半径をもってコアとなる原子核の周りを“皮”となって取り囲んでいる状態を「中性子スキン」という。 |
| ※11 |
魔法数の破れ、新魔法数の出現 |
| 原子核は、陽子数と中性子がある決められた数を満たすと特に安定核となる。この数を「魔法数(マジックナンバー)」と呼び、今までに「2」「8」「20」「28」「50」「82」「126」が知られている。最近、理研を中心とする研究チームは、陽子に比べて中性子の多い不安定核で新しい魔法数「16」を発見した。これまで安定核の魔法数は調べ尽くされており、不安定核も同じ魔法数をもつと考えられてきたが、その定説を覆す成果であり、新しい魔法数の発見は、原子核に新しい規則性があることを示している。 |
| ※12 |
フラウンホーファー線、吸収線 |
| 1802年、ウィリアム・ウォラストンはプリズムを改良して、太陽光の虹の中に無数の暗い線があることを発見した。1814年、ヨゼフ・フォン・フラウンホーファーはそれを綿密に測定し、個々の線に名前を付けたが、その線の起源は50年もの間、不明であった。1860年代にグスタフ・キルヒホッフとローベルト・ブンゼンは、この暗い線が、太陽大気と地球大気の原子による固有の色の吸収によることを発見した。以来、天文学における恒星や星間物質の元素の同定や、物理・化学における物質の元素の同定に使われるばかりでなく、原子のエネルギー準位の発見を導き、量子力学の発端となった。 |
| ※13 |
欧州原子核研究所(CERN:セルン)の施設 |
| セルンは、スイスのジュネーブ郊外にある世界最大規模の素粒子物理研究所。ここにあるRIビーム施設(ISOLDE:イゾルデ)は、1960年代から稼働している低速RIビーム(光速の1,000分の1程度)を供給する代表的施設である。この施設では、高エネルギー陽子ビームを標的に照射し、標的内で生成されたRIを高温に熱することで拡散させ、蒸発、イオン化の過程を経てイオンビームとして取り出す仕組みを採用している。大強度陽子ビームと、厚い標的を使えるため、RIの生成量は多いという特徴を持つ。一方、熱による拡散、蒸発という過程は、有限の時間がかかり、効率が元素の化学的性質に大きく依存するため、限られた元素のRIしか得られないという不利な点もある。 |
| ※14 |
イオントラップ装置 |
| ウォルフガング・ポール(ドイツ)によって発明された、イオンなどの荷電粒子を限られた極狭い空間に長時間閉じ込める装置。トラップされたイオンは物質と接触していない孤立状態であるため、外部の影響を受けにくく、精密測定に適している。 |
| ※15 |
レーザー冷却 |
| レーザー光の吸収・放射を繰り返すことによって原子の運動エネルギーを減衰させる仕組み。ここで用いられた方法は、最も一般的なレーザー冷却法であるドップラー冷却と呼ばれる方法である。この方法では、イオントラップ中で振動しているイオンに対して、共鳴周波数より若干低い周波数のレーザー光を照射する。ドップラー効果によって、レーザーに向かって運動しているイオンはそのレーザー光を吸収することができる。その後すぐにイオンは正規の共鳴周波数の光を放射するが、その方向は吸収した方向と関係なく、あらゆる方向に放射する。吸収前後のエネルギーを比較すると、吸収したエネルギーと比べて放射したエネルギーのほうが大きくなる現象が起きたことになる。そのエネルギー差はイオンの運動エネルギーから補填され、結果として運動エネルギーが減衰される。イオントラップ中ではイオンはさまざまな方向に運動しているためレーザー光を一方向から照射するだけで冷却を実現できる。 |
| ※16 |
二重共鳴法 |
| 弱い共鳴現象を測定する光(あるいはマイクロ波などの電磁波)と、その共鳴現象を増幅し、観測しやすくするための別の共鳴光を使って測定する方法。レーザー・マイクロ波二重共鳴法を使って、レーザー冷却されたイオンの超微細構造の周波数を測定する場合を例にする。レーザー冷却が達成された条件では、イオンはレーザー光を吸収し蛍光を発する過程を毎秒100万回も繰り返しており、イオン1個でも観測が可能である。その状態のイオンに、超微細構造の周波数に相当するマイクロ波を照射すると、その共鳴が起きたときに、レーザー光の吸収・蛍光発光のサイクルからの逸脱が起る。その結果、蛍光強度が減衰する。照射するマイクロ波の周波数を変えながら蛍光強度を観測し、その強度が最低値をとるときが、マイクロ波の周波数が超微細構造に周波数に合致したと判定できる。このようにして、直接観測することが困難な弱い共鳴現象を高感度に検出できる。 |
| ※17 |
原子核の飽和性 |
| 原子核の構成要素の陽子と中性子の総称である核子は、ほぼ等しい距離を保って存在しており、原子核の種類によらず密度がほぼ一定である。不安定な原子核では、この性質が崩れているものも発見されている。 |
| ※18 |
殻モデル |
| 原子核の特性を理論的に解明するための核モデルの1つ。原子において電子が軌道に配置されていくのと相似的に、陽子、中性子があたかも独立の軌道をもっているようにそれぞれを配置していくモデル。陽子数あるいは中性子数が「魔法数」の時に、原子核が極めて安定であるという特性を見事に説明した。 |
| ※19 |
トレーサー |
| 化学や生物学において、分子や生体組織内の特定の元素の動きを追跡するために、放射性同位体(RI)を使って、印づけを行う方法。放射線検出によって、元素とその位置の同定を高感度で行うことができる。 |