物が燃えたり、腐敗したりする身の回りの現象や、私たちの体の中で起きている生命現象など、物質が変化する現象はすべて化学反応です。これまで化学反応の前後で分子の構造を調べることはできても、反応(変化)の途中で分子が徐々にその形を変えていく様子を観測することは困難でした。化学反応では、反応前の分子と反応後の分子とを大きく分けるエネルギー障壁があります。このエネルギー障壁を越える瞬間の分子の状態は「遷移状態」と呼ばれ、その瞬間の分子の構造決定は、化学における最も大きな課題となっていました。
基幹研究所田原分子分光研究室は、北海道大学らと共同で、炭素原子間の二重結合位置でねじれる「異性化反応」で、分子の形が10兆分の1秒の時間スケールで連続的に変化していく様子を、新たなラマン分光法を駆使し観測することに成功しました。スチルベンという分子に紫外線を照射し、異性化反応を起こさせ、「時間分解フェムト秒インパルシブ・ラマン分光法」で、100兆分の1秒という光パルスで分子を瞬間的に揺さぶりながら、反応の様子を追跡しました。その結果、スチルベン分子のねじれ現象は、これまで考えられていたフェニル基の動きではなく、より質量の軽い水素原子の動きで起こることがわかりました。
この観察により、反応中の各原子の動きが明らかとなり、化学反応の間に構造が連続的に変化する様子を追跡できました。遷移状態と呼ぶ瞬間の構造を見極める道を拓き、化学反応の間の原子の位置の変化や分子の形の移り変わりを“手を取る”よう見極め、仕組みを解明するという“化学の究極の夢”の実現に一歩近づくことになりました。
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