| 2. |
研究手法および成果 |
| (1) |
凍結し死滅した細胞内からの、核の完全な取り出しに成功 |
研究チームは、最初に培養液およびマイクロマニピュレーション※3の手法などを改良し、凍結死体の臓器の細胞から核を安全に取り出し、ダメージを与えずに核を卵子内へ注入する方法を開発しました(図1)。
凍結死体から回収した組織の場合、酵素処理では核までも分解されてしまうことから、4℃の核摘出用培養液(NIM)内で組織を軽くすりつぶし、組織内から核を押し出すようにして取り出しました。また、裸の状態で回収した核は非常に繊細で壊れやすいことから、培養液を改良し、核がガラスの壁面などに付着しないようにしました。さらに、常に新しい組織試料を使用できるように約30分ごとに試料を取り換え、従来に比べて太いガラス管を使用して、核のダメージを最小限に抑えながら核移植を続けました。これらの改良により、組織から単離した核を卵子へ移植することが初めて可能となりました。
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| (2) |
脳細胞をはじめ、ほとんどの組織や血液細胞で核移植が可能と確認 |
| 次に、凍結死体の11種類の臓器(脳、心臓、腎臓、血液など)を用いて、どの臓器の細胞がもっとも核移植に適しているか検討しました。それぞれの臓器から取り出した核を卵子へ核移植後4日間培養し、胚盤胞への発生率を調べたところ、脳細胞の核から作られたクローン胚の発生が最も高いことが分かりました。これまで、成体の脳細胞からクローン個体の作出に成功した例はなく、脳はクローン作出に最も適さない臓器と思われていたにもかかわらず、約40%のクローン胚が胚盤胞へ発生しました。胚盤胞への発生率が2番目によかったのは、発生率は半分以下に落ちるものの、血液中の細胞でした。血液は、体中すべての組織から得ることができるため、永久凍土から発見される組織がどこであれ、利用できることを示しています。 |
| (3) |
独自の核移植法で、死んだ細胞の核からクローン個体の作出に成功 |
これらのクローン胚を偽妊娠メス(借り腹メス)の卵管内に戻したところ、短期間(1週間および1カ月間)冷凍保存しておいた脳細胞からはクローンマウスが誕生しましたが、16年間冷凍保存されていたマウスの脳細胞からは誕生させることはできませんでした。しかし、この原因は凍結期間の長さではなく、マウスの種類によるものと考えました。その理由は、16年間冷凍保存してあったマウスはC3H※4という種類で、この種類のマウスは生きている個体からでもクローン個体の作出に成功した例がないためです。
一方、これまでの研究からクローンES細胞※5の樹立はクローン個体の作出より簡単なことが分かっており、クローン個体が作れないマウスの種類であっても、クローンES細胞の樹立は可能なことが知られています。そこで、研究チームは、それらのクローン胚の一部からクローンES細胞の樹立を試みました(図2)。その結果、この16年間冷凍されていた凍結死体の脳細胞から、クローンES細胞の樹立に成功しました(図3)。これらクローンES細胞は、ES細胞であることを証明するマーカーなどで確認した結果、ES細胞の定義を完全に満たす正常なES細胞であることが分かりました。
このクローンES細胞を用いてもう一度核移植実験※6を行った結果(図2)、ドナーマウスの冷凍保存期間や種類に関係なく、いずれの条件からもクローンマウスの出産率が改善され、16年間冷凍保存されていた凍結死体からも、合計4匹のクローンマウスが生まれました(図4)。このクローンマウスは正常に発育し、ほかのクローンマウスと交尾して多数の子孫を残しています(図5)。
4匹のクローンマウスは、ドナーマウスとDNA、性別、毛色が完全に一致しており、クローンであることを確認しています。同様に凍結死体の尻尾から採取した血液細胞を用いた場合でも、クローンES細胞は樹立でき、2回目の核移植でクローン個体が生まれています。
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| ※1 |
核移植技術 |
| 通常の核移植は体細胞と卵子の細胞融合によって行われている。この方法は、体細胞と卵子の細胞膜を電気刺激などで接着し融合させるため正常な細胞膜が不可欠である。細胞が死んでいると、細胞膜も崩壊し始めるため電気融合することはできない。一方、研究チームが独自に開発した方法は、体細胞の中から核を取り出し卵子内に直接注入するため、通常の核移植で不可能だった実験にも応用が可能となる。 |
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| ※2 |
ドナー細胞 |
| クローン動物を作る場合、もととなる動物の体から体細胞を採取し、別の動物から取り出した卵子へ核移植する。もととなる動物をドナーと呼び、ドナーから採取した体細胞をドナー細胞と呼ぶ。 |
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| ※3 |
マイクロマニピュレーション |
| 顕微鏡下の微細な操作を可能にする手法。顕微鏡を見ながらジョイスティックを操ることで、数十μmの大きさの細胞や核を自由自在に扱えるようになる。ただし数カ月にわたる訓練が必要。 |
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| ※4 |
C3H |
| 近交系とよばれる純系のマウスで、C57BL/6とともに最も生物学の研究に利用されている。おそらく雑種強勢と呼ばれる一般的な現象により、これまで生まれてきたクローンマウスはすべてドナー細胞が雑種だった場合だけで(例外129/Sv)、これらの純系マウスでクローン個体の作出実験に成功した例はない。 |
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| ※5 |
クローンES細胞 |
| 普通のES細胞は受精卵から作られるが、クローンES細胞はクローン胚から作られる(当研究チームの成果:Science Vol.292:740-743)。自分自身のES細胞を作ることができると考えられ一時話題になったが、クローン胚の作成には、健康な女性から卵子の提供が必要であるという倫理的な問題や、韓国のHwang元教授がヒトのクローン胚の作成に関する捏造論文をScienceに発表するなど不祥事があったこと、また最近は、倫理的な問題のないiPS細胞が比較的簡単に作り出せるようになったことから、その利用は下火になっている。しかし、クローンES細胞は、ほかの遺伝子の導入がなく、完全にドナーと同一のDNAを持つことや、体外受精に用いられず廃棄されるはずの卵子を利用することで、倫理的な問題を回避できること(2007年2月21日CDBニュース参照)、また今回のように、死んだ細胞の核からでも作りだせるという点で独自の利用価値がある。
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| ※6 |
クローンES細胞を用いた核移植実験 |
| 普通の核移植実験では体細胞を使うが、体細胞は有限であり、ドナー動物が死んだ場合や細胞の採取が難しい場合、核移植回数も制限される。しかしクローンES細胞を樹立してしまえば、細胞は無限に増え、いつでも利用可能になることから、核移植回数をいくらでも増やせる。その結果、たとえ成功率が同じだったとしても、たくさんのクローンマウスが得られるようになる。 |