| ※1 |
構造ゲノムプロジェクト |
| タンパク質の立体構造は、生物を原子レベルで理解するために不可欠な情報である。生物の全遺伝子(ゲノム)を多種類の生物について解読するゲノミクスが実現した後、それらのゲノムがコードするタンパク質の立体構造を網羅的に決定し、立体構造に基づく研究開発の基盤として役立てようとする大規模な研究プログラムが世界的に進められている。この学問分野を構造ゲノミクスという。日本では2007年3月までの5年間「タンパク3000プロジェクト」と呼ばれる構造ゲノムプロジェクトが国家プロジェクトとして実施され、多数の構造決定が行われるとともに、効率的な構造解析のためのインフラが整備された。 |
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| ※2 |
膜タンパク質 |
| 膜に組み込まれて機能するタンパク質のこと。膜タンパク質は、生体内において、脂質でできた細胞膜という2次元の物質中に存在しており、結晶という3次元構造へ変化させるために必要な試料調製や結晶化には、特殊な発現系や界面活性剤処理など、高度な技術が求められる。膜タンパク質は、最も重要な創薬ターゲットであるGタンパク質共役型受容体(GPCR)に代表される、医学的・生物学的に重要なものを多く含むが、解析困難なためほとんど構造が決定されていない。世界で初めて膜部分を含む全体構造が決定されたGPCRであるロドプシンの結晶構造解析は、SPring-8を使った成果である。 |
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| ※3 |
超分子複合体 |
| 多種類のタンパク質が会合して巨大な複合体をつくることで、初めて機能を発揮するタンパク質複合体のことで、プロトンポンプやリボゾームなどが例としてあげられる。不安定で試料の調製や結晶化が難しく、解析困難なものがほとんどである。 |
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| ※4 |
部位特異的変異 |
| 遺伝子操作により、目的タンパク質の特定のアミノ酸残基を任意の別の種類のアミノ酸に置換することができる。この技術でタンパク質に導入した突然変異を部位特異的変異という。 |
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| ※5 |
結晶パッキング |
| タンパク質結晶は、タンパク質分子が3次元的に原子レベルの規則性を持って整列してできており、結晶内のタンパク質分子同士の接触を結晶パッキングと呼ぶ。パッキング部位の構造は結晶中で最も自由度の高い部分であるため、タンパク質結晶のX線回折能(分解能)は結晶パッキング領域の規則性に大きく依存すると考えられる。従って、結晶パッキングにかかわるアミノ酸残基を部位特異的変異で適切に改変することにより、タンパク質結晶の品質を改善することが可能なはずである。しかし、適切な実験系がないためこれまで系統的な検討がなされていなかった。変異導入によってタンパク質の本来の構造が壊される可能性があるという考え方もあるが、立体構造がわからなければ目的タンパク質の構造機能相関の議論は困難となり、従って関連医薬品などの開発もまた難しくなる。研究グループは、一度立体構造を可視化することができると機能に重要な部位の推定などが可能となり、その情報に基づいたさらなる構造解析および機能解析を行うことによって目的タンパク質の本来の構造機能相関を解明することができると考え、本研究開発を行っている。 |
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| ※6 |
古細菌 |
| ヒトを含む真核生物、バクテリアなどの原核生物と並ぶ、生物の第3のグループ。温泉の源泉など、通常の生物では生体物質が熱で変性してしまうために生きられないような環境に好んで生息する。これらから抽出したタンパク質は熱に強く、実験を行う上で都合がよいため、タンパク質研究によく用いられる。今回の研究対象タンパク質であるDiphthine synthaseは、タンパク質の生合成に関与する超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来の酵素で、ヒトにも存在する。 |
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| ※7 |
大型放射光施設SPring-8 |
| 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、細く強力な電磁波のことである。 |
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| ※8 |
高度好熱菌Thermus thermophilus HB8 |
| 静岡県伊豆半島にある峰温泉から発見された、85℃という極限環境で生育できる細菌(バクテリア)で、遺伝子2,200種類という比較的コンパクトなゲノムを持つ。また、構成タンパク質が熱に強く、実験を行う上で都合が良いため、構造ゲノミクスにおけるモデル生物の1つとされる。 |
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| ※9 |
これまでに報告された関連技術 |
| 初期の有名な変異導入成功例としてヒトH-chain ferritinの結晶構造解析がある(Lawson et al. (1991) Nature 349, 541)。それ以前に構造決定されていたネズミやウマのL-chain ferritinの結晶構造では、分子間にカドミウムイオンを挟むことで良好な結晶パッキング部位を形成していた。同様のパッキングを形成するためにヒトH-chain ferritinの対応する部位にL-chain ferritinの場合と同じアミノ酸への変異導入(K86Q)を行ったところ、初めて解析に適した結晶が得られ構造決定に成功した。最近では、単量体タンパク質の分子表面残基にシステイン変異を導入して強制的に分子間ジスルフィド架橋による2量体を形成させ新たなパッキング様式を持った結晶を得る手法(Banatao et al. (2006) PNAS 103, 16230)、分子表面のαへリックス上の数残基にロイシン変異を導入して結晶パッキング上に人工的なロイシンジッパーを形成させ結晶化を促進する手法(Yamada et al. (2007) Protein Sci. 16, 1389)などが報告されている。しかし、これらの方法は一般的にすべてのタンパク質に適用できるものではない。これまでのところ最も汎用性があり理論的背景も解明されている方法としてSurface Entropy Reduction(SER)法がある(Cooper et al. (2007) Acta Cryst. D 63, 636)。しかしこのSER法では変異導入のパターンが限られていて適用範囲が狭い上、変異体の結晶を作成する際、スクリーニングをする必要があり、計画的なタンパク質結晶工学とは必ずしもいえない。 |
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| ※10 |
Pyrococcus horikoshii OT3由来Diphthine synthase (PhDS) |
| 超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii OT3に存在する、タンパク質生合成に関与する酵素の1種。PhDSは1サブユニットあたり265残基からなり、生体内では2量体を形成して働く。研究グループはまず野生型PhDSの結晶構造を2.1Å分解能で決定した(Kishishita et al. (2008) Acta Cryst. D 64, 397)。結晶の非対称単位に1つの2量体が存在する。その後、タンパク質結晶工学のモデル系としての価値が見いだされ、PhDS変異体の網羅的な構造解析が行われた(Mizutani et al. (2008) Acta Cryst. D64, 1020; 本研究)。 |
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| ※11 |
変異を導入したことによる構造変化 |
| 変異導入候補はグラフィクス上で野生型結晶構造のアミノ酸を仮想的に変換することで検討し選択した。従って、変異導入個所以外の構造は野生型から変化しないという仮定の下で行っている。分解能が向上した変異体のうち、狙い通りに変異個所でのみ局所的にパッキング相互作用が増えたものもあったが、分解能はせいぜい1.75Å(N142E変異体)だった。これに対し、1.5Å(K49R変異体)や1.6Å(T146R変異体)など最高分解能を記録したものでは、変異個所のみの局所的なパッキング相互作用増加にとどまらず、変異の影響が波及してタンパク質分子のさまざまな個所が複雑な構造変化を起こした結果、パッキング相互作用の大幅な改善を達成していた。これは事前のモデリングでは予測できない複雑な構造変化であった。 |
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| ※12 |
タンパク質結晶化触媒 |
| ある特定のパッキングを持つタンパク質結晶の生成を、効果的に促進する物質をタンパク質の結晶化触媒という。研究グループは、結晶性無機化合物である合成ゼオライトが結晶化触媒として働くことを見いだした(Sugahara et al. (2008) Acta Cryst. D 64, 686)。合成ゼオライトは、その表面にタンパク質分子を整列させることでタンパク質の2次元結晶を形成させ、それを核とした層状の結晶成長(ヘテロエピタキシャル成長)によりタンパク質の3次元結晶を生成させると考えられる。難解析性タンパク質を結晶化するための新技術として期待される。 |