さまざまな生物種のゲノム配列が次々と解読され、その機能付けが進む中で、1つの細胞におけるあらゆる生命現象を、システム全体として理解しようという研究が盛んになっています。理研放射光科学研究センター放射光システム生物学研究グループでは、世界に先駆けて「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」 を開始し、高度好熱菌サーマス・サーモフィラスHB8株を用いて、基本的な生命現象を“丸ごと一匹”でイメージするための研究を行っています。本菌株は、遺伝子数が約2,200個と大腸菌などに比べて少ない、85℃という高温で生育できるためにタンパク質が丈夫で、機能や構造の解析に都合がよい、遺伝子操作の方法が確立されているなどのモデル生物に適した特徴を持っています。
細菌は、与えられた環境で生存できる個体数の上限に到達すると、増殖数と死滅数が釣り合った状態(定常期)になります。 定常期には、栄養飢餓、酸素濃度の低下、タンパク質・DNAの酸化障害や老廃物の蓄積など生命を維持するには厳しい状況となります。研究グループは、サーマス・サーモフィラスHB8株から、この危機的な状況で特に多く発現する転写因子「SdrP」を発見しました。
研究グループは、SdrPの立体構造を、大型放射光施設SPring-8を使って明らかにするとともに、全遺伝子の発現解析によってSdrPが14個の遺伝子の発現を制御して生命の危機を回避していることを突き止めました。進化の起源に近いと考えられているモデル生物において、生命を脅かす危機からの回避という、基本的な生命現象の一端を明らかにすることができ、さらに詳細な解析を進めることで、モデル生物にとどまらず、すべての生物に共通する基本的な生命現象の理解につながると期待できます。
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