生まれてから3才くらいの間に人格の基礎が培われるとされる「3つ子の魂100まで」のことわざが、脳の成長では現実の現象として注目されています。脳は、幼年期に周りの環境から得た体験や経験に適応しながら、神経回路を機能的に作り変えながら発達していきます。スポーツや音楽、外国語といった習い事は、大人よりも子どものほうが上達や習得が早いことを実感した方も多いはず。このように、脳が活発に神経回路を作り変える時期を「臨界期」と呼び、脳の研究はもちろん、幼児期の教育の対象ともなっています。
臨界期前に片目を防ぐと、臨界期中に、ふさいだ目からの情報よりも、開いた目のほうからの情報を多く受け取り、視覚野の神経回路が作り変えられることが明らかとなっています。その結果、ふさいだ目の視力は弱くなり(弱視)、臨界期を過ぎた大人では、目の治療をしても回復しないことが知られるようになってきました。
しかし、どのような仕組みで若い脳に臨界期が現れ、大人の脳には臨界期の時期が無いのかはいまだにわかっていません。
理研脳科学総合研究センター神経回路発達研究チームは、胎児期に脳を作る遺伝子Otx2が、人々の体験・経験に応じて脳を発達させる働きもあることを世界で初めて発見しました。Otx2を欠損させたマウスでは、胎児の脳がまったくなくなってしまうことは知られていましたが、脳を変える臨界期をつかさどる働きについては知られていませんでした。この脳を作る遺伝子Otx2によって作られるOtx2ホメオタンパク質が、幼年期の経験の積み重ねにより、正常に臨界期を促すことがわかりました。研究チームは、Otx2ホメオタンパク質の量を外部から操作すると、マウスの臨界期を人為的に操作することにも成功しました。
Otx2ホメオタンパク質の新しい作用機構の発見が、神経疾患などの症状を軽くする新たな治療法の開発に貢献すると期待されます。
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