脳の一部である視床下部は、 ホルモン分泌や摂食制御など全身の恒常性維持をつかさどる“最高中枢”部位として知られます。その大きさはわずか切手大で、異常をきたすと、中枢性尿崩症などの内分泌ホルモン障害、不眠症などの睡眠障害、過食・拒食などの摂食障害といった身体的障害を引き起こします。視床下部は、その重要性が認識されながら、視床下部ニューロンの入手が困難なことや、効率的に分化誘導する実験系が確立できていないなどの理由から、その研究は大脳の研究に比べ遅れていました。
理研発生・再生科学総合研究センター細胞分化・器官発生研究グループは、これまでマウスやヒトのES細胞を使って、中脳ドーパミンニューロン、大脳前駆細胞、小脳ニューロン、網膜細胞などへ分化誘導することに成功してきましたが、視床下部ニューロンの分化を効率よく誘導することは実現していませんでした。
研究グループは、通常、細胞増殖因子として培地に加えるインスリンが視床下部前駆細胞の分化を強く阻害することを見いだし、これを応用し、インスリンを除いた無血清浮遊培養法を確立することで、世界で初めて60%〜70%の高効率で視床下部前駆細胞の分化に成功しました。
また、この前駆細胞から神経内分泌細胞であるバゾプレシン産生ニューロンを選択的に分化させることに成功し、多量のバゾプレシンを放出することも確認しました。
視床下部ニューロンを試験管内で大量に産生できるようになると、内分泌ホルモン障害や摂食障害など効果的な治療法のなかった疾患に対する創薬研究が加速すると期待できます。さらに、再生医療の対象に考えられていなかった視床下部も、細胞治療の対象になることが示されたことになります。
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