電子回路においてスイッチングや電流増幅を行う電界効果トランジスタ(FET)は、マイクロプロセッサーやメモリーなどに利用され、半導体素子の中核を担っています。FETは年を追うごとに微細化、集積化が進み、コンピュータの性能は飛躍的に進歩してきました。
ところが、さらなる微細化を進める上で、原理的に越えがたい壁にぶつかりはじめています。例えば、FETでは半導体に不純物を混ぜて動作させるため、微細化するにしたがって不純物の量のばらつきが目立つようになり、均一な性能をもったFETの集積が難しくなります。
こうした問題を解決するため、従来の半導体と本質的に性質の異なる、新しい材料を使ったFETが世界中で摸索されています。なかでも、電流の担い手である電子が多数存在しているにもかかわらず、電子同士の斥力により電子が固まり、絶縁体として振る舞う「モット絶縁体」はその期待を担う物質の1つです。
基幹研究所加藤分子物性研究室の研究チームは、有機物のモット絶縁体を使ったFETを独自の方法で製作し、「有機モットFET」としてこれまで知られていた値(〜0.1cm2/Vs)をはるかにしのぐ、94cm2/Vsという電界効果移動度を実現しました。これは実用化されている多結晶シリコンを用いたFETに匹敵する値で、有機モット絶縁体の中で斥力相互作用によって固まっていた電子が、電界効果で動き出す可能性を示唆しています。この結果は、将来的に小さな電界で大量の電子を誘起できる素子の発展を期待させるとともに、有機モット絶縁体が電界によってどのように金属化していくか、という物性物理の問題にヒントを与えると考えられます。
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