地球を覆い、生命の源として知られる「水」は水素と酸素から構成される単純な分子でありながら、その性質は完全には理解されておらず、どのような構造を持っているのか、という謎解きがいまだに続いています。この論争のはじまりは、100年前、X線の発見者であるW.C.レントゲン博士(1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞)が「水は氷に良く似た成分と未知の成分の2つからできている」というモデルを提唱したことに端を発しました。
1933年になって英国ケンブリッジ大学のJ.D.バーナル教授らは、水のX線回折のデータをもとに、水は2つの状態からできているのではなく、正4面体の頂点に水分子が配置しているはずの氷が、連続的に歪んでできている、というモデルを示しました。この「氷に近い水」というモデルは、数多くの分光学的研究や、分子動力学計算の結果により支持され、世の中に広まりました。
理研放射光科学総合研究センターの量子秩序研究グループは、ストックホルム大学、スタンフォード線形加速器センター、高輝度光科学研究センターらとともに、水の電子の状態を0.35電子ボルトという世界最高レベルの分解能で観測し、2つの構造が支配している様子の観察に成功しました。その結果、2つの構造は、「水の分子間をつないでいる水素結合の腕が大きく歪んだ水の海」と「この海の中に浮かぶ氷によく似た秩序構造」であることを突き止めました。これは、これまで有力とされていた「氷に近い水」のモデルを覆す結果です。水は生物、非生物を問わず、さまざまな物質と関わっています。今後、水の構造と役割を理解し、知られざる働きを解明するきっかけになると期待されます。
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