高齢化社会に突入したわが国では、約100万人を超す人々が認知症疾患に見舞われています。この疾患に対する対策が急務の課題となっています。認知症患者の約半分にあたる人々がアルツハイマー病とされ、依然として増加傾向にあります。このアルツハイマー病はベータ(β)セクレターゼ(BACE1)とガンマ(γ)セレクターゼと呼ぶ2つの酵素が、アミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断し、老人斑を構成するアミロイドベーターペプチド(Aβ)をつくることが原因と考えられています。治療薬の開発もこの2つの酵素の阻害剤がターゲットとなり、世界中が挑戦しています。
理研脳科学総合研究センター構造精神病理研究チームは、この発症の原因となる酵素「ベータ(β)セクレターゼ(BACE1)」の、活性型立体構造を決定し、活性調整のメカニズムを解明しました。酵素は生体内の環境にしたがって、非活性の状態から積極的にAPP切断を行う活性型へと変化します。研究グループは、この微妙に変化するさまざまな状態のBACE1の結晶を作成し、大型放射光施設SPring-8の理研構造ゲノムビームラインなどのX線結晶解析システムを使って、結晶の立体構造を決定し、活性状態を厳密にとらえることに成功しました。
その結果、BACE1が活性状態になると、APPを取り込むためのポケットが大きく開き、ポケット内部もAPPを選択的の取り込める状態に変化することが明らかになりました。また、ポケットが大きく開いても、APPの切断反応に欠かせない水分子が著しく減少すると、切断反応が起こらないことも突き止めました。酵素の活性調節機構の解明や酵素の働きを調整する薬剤開発に新たな知見をもたらすものと期待されます。
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