銀白色の金属として知られるニッケルは、耐食性が高くステンレス鋼や硬貨などの原料として広く利用されています。一方、ニッケルが酸化した酸化ニッケルは電気を通しにくい絶縁体です。
しかし1930年頃、金属や絶縁体を記述する固体物理の基本理論である「バンド理論」上では、酸化ニッケルは逆に金属となっていました。
理論と現実の食い違いが生じ、当時の物理学者達は困惑し続けていました。物理学の巨匠のネヴィル・フランシス・モット(Nevill Francis Mott:1977年ノーベル物理学賞受賞)もその1人でしたが、この問題の提起から70年以上経た現代でもその機構を正しく記述する理論が未だに確立できていません。
理研放射光科学総合研究センターの研究グループは、高輝度光科学研究センターと共同で、この「酸化ニッケルがなぜ金属でないのか?」という長年の謎を解明するため、大型放射光施設SPring-8のさまざまなエネルギーのX線を駆使し、酸化ニッケルの電子の特徴を調べました。
その結果、世界を揺るがせた銅酸化物高温超伝導体の超伝導の担い手として知られる、ザン・ライス束縛状態(酸素とニッケルが複雑に絡み合った状態)の電子が電気伝導の担い手であることがわかり、酸化ニッケルなどの遷移金属酸化物の電気伝導機構の研究が大きく前進することになりました。これは、ザン・ライス束縛状態が銅酸化物高温超伝導体だけではなく、他の絶縁体にも存在する可能性も示唆しています。
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