プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
北興化学工業株式会社
重(炭素)イオンビームで新品種「白いナデシコ」作成に成功
- わい性ナデシコで、初の白花新品種「オリビア ピュアレホワイト」を商品化 -
平成20年4月16日
◇ポイント◇
  • わい性ナデシコに炭素イオンビームを30と35Gy(グレイ)照射
  • 品種改良の壁を破って白色の花を持つ新品種を作出
  • 低い草丈、四季咲き性など元品種の優れた特性を受け継ぐ
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、仁科加速器研究センター(矢野安重センター長)の理研リングサイクロトロンで発生する重イオンビーム※1を用いて、従来の育種法では10年近くかかっていた育種年限をわずか3年でわい性※2ナデシコの花色改良に成功し、白花の新品種を作出しました。仁科加速器研究センター生物照射チームの阿部知子チームリーダーと北興化学工業株式会社(丸山孝雄社長)開発研究所バイオサイエンス研究部植物バイオグループの共同研究による成果です。
 重イオンビームを使った突然変異誘発法は、従来のガンマ線照射やX線照射などの物理的変異処理や化学的な変異剤処理などの突然変異誘発による品種改良手法に比べ、植物に障害を与えない処理条件での遺伝子変異率が高いとともに、傷つく遺伝子数が少ないため、変異の固定にかかる期間が短いという特性を持っています。生物照射チームは、この重イオンビームを使った園芸植物の品種改良を、すでにダリア、ペチュニア、バーベナ、トレニアで実用化し、市販新品種の育成に成功してきました。2007年10月には、重イオンビームによる品種改良では世界初のサクラの新品種「仁科蔵王」の作成にも成功しています。
 共同研究グループは、北興化学工業(株)がナデシコ育種家と共同開発したわい性ナデシコ「オリビア」シリーズ※3の「オリビア ホワイトアイ」(商品名)の腋芽※4に理研リングサイクロトロンで炭素イオンビームを照射し、花色が単色で白色の変異系統を選抜しました。この変異系統の形質の安定性を確認し「オリビア ピュアレホワイト」と命名、新品種として2007年12月に農林水産省に品種登録出願を行いました。「オリビア ピュアレホワイト」は、花色以外の特性は元品種の特性を受け継いだままで、草丈は約10cmと極めて低く、分枝性に優れ、四季咲き性※5です。この「オリビア ピュアレホワイト」は、カネコ種苗株式会社(麻生潔社長)と提携して2008年3月から販売を開始しました。科学技術週間にあわせて開催する理研和光研究所の一般公開日(4月19日)で、この新品種の240株を無料配布します。


1. 背景
 わい性ナデシコ「オリビアシリーズ」の品種は、北興化学工業(株)とナデシコ育種家が交配や枝変わり選抜の手法を駆使して全8品種を開発し、多彩な花色と花模様が取りそろってきました。しかし、従来の交配や枝変わりでは変異に限界があり、花色以外の優れた特性を変えることなく花色のみを変えることは難しく、特に白色で単色の品種を作り出すことはできませんでした。そこで、重イオンビームを使った突然変異誘発法の目的遺伝子のみを効率良く破壊する特徴を利用し、新品種の開発に取り組みました。


2. 研究手法
(1) 変異処理および栽培
 具体的には組織培養によって増殖した「オリビア ホワイトアイ」の腋芽に、仁科加速器研究センターに設置のリングサイクロトロン(RRC)で加速した炭素イオン(核子あたり135MeV LET 22.6KeV/um)を20〜80Gy(グレイ)照射した後、照射済み腋芽を培地で伸長させて、栽培評価を行いました。
(2) 選抜および固定
 2005年に照射し、栽培用の苗床で初めて開花した個体(2006年7月頃)を観察したところ、重イオンビーム照射により約半数の個体の花色が変わっていました。ところが、これらの変異花の花色はすべてピンク色でした。炭素イオンを30Gy(175個体)と35Gy照射区(127個体)からのみ白色の花が咲く変異個体を得られたため、それぞれ1個体計2個体を選抜しました。これまでの変異選抜では、ほとんど生存率の低下しない線量で良い変異が得られていましたが、30-35Gy照射区は生存率が60%以下でした。これらの変異個体の中で白色花を付ける枝を選び、その部分だけを切り取り、挿し芽増殖を行いました。この選抜と評価(開花で開花状況を知る)の作業を3回繰り返し、その結果、株全体で白色の花が咲く系統を作ることに成功しました。
(3) オリビア ピュアレホワイトの特長
 元品種である「オリビア ホワイトアイ」の花色は複色で、白色の地色に、濃紅色の帯が同心円状に入り花弁は5枚の花ですが「オリビア ピュアレホワイト」の花色は白色の単色で花弁の枚数は5枚、開花期間は四季咲き性で、多年草です。その他の特性は、元品種の特性を受け継いだままで、分枝性に優れ、草丈は約10cmと極めてコンパクトな草姿ですので、ガーデニングに最適です。


3. 今後の期待
 これまで「オリビア」シリーズは、多彩な花色と花模様が揃った8品種が既に販売されています。今回、従来の交配や枝変わりの選抜などによる育種方法とは違う重イオンビーム照射技術を使う新品種の開発によって、このような白花で単色の品種を短期間で開発することができました。特に今回の照射線量はこれまでの重イオンビーム照射方法とは異なり、生存率が低下する中線量照射であり、稀少変異獲得のための中線量照射の有効性が示唆されました。「オリビア ピュアレホワイト」は、2007年12月に農林水産省に品種登録出願を行い、2008年3月から園芸店やホームセンターでの花苗の販売をはじめました。今後は、さらに重イオンビーム照射技術を生かした新品種の拡充を目指していきます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター 生物照射研究チーム
チームリーダー  阿部 知子(あべともこ)

Tel: 048-467-9527 / Fax: 048-462-4674
北興化学工業株式会社
開発研究所 杉山 正夫(すぎやままさお)
寺川 輝彦(てらがわてるひこ)

Tel: 046-228-5881 / Fax: 046-228-0164

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 重イオンビーム
原子から電子をはぎ取って作られたイオンのなかで、ヘリウムイオンより重いイオンを重イオンと呼ぶ。これを、加速器を用いて高速に加速したものが重イオンビーム。
※2 わい性
主として茎の節間が短くなり、草丈が低くなる性質。倒れにくくなり、コンパクトとなり手入れが省力化できる。
※3 わい性ナデシコ「オリビア」シリーズ
ナデシコ科ナデシコ属の中で「トコナツ」と呼ばれる日本在来の品種で、草丈約10cm、花径約3cm、四季咲き性が特長の多年生で、ガーデニング向きの品種。北興化学工業(株)とナデシコ育種家が共同で交配や枝変わりの選抜などを行ない、現在「オリビアシリーズ」の品種は、全8品種で多彩な花色と花模様が取り揃っている。
※4 腋芽(えきが)
茎の節にあって、やがて伸長して側芽となるもの。
※5 四季咲き性
1つの季節のみではなく、四季にわたって開花する性質。四季咲き品種は、開花に対して日長の影響を受けない中性植物であり、夏の暑さや冬の寒さに耐え生長できれば、いつでも開花できる性質がある。


オリビア ピュアレホワイト
「オリビア ピュアレホワイト」
元品種オリビア ホワイトアイ
「元品種オリビア ホワイトアイ」
図1 「オリビア ピュアレホワイト」と元品種の比較

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