実像と鏡に映し出される鏡像、左手と右手、専門的には鏡像(光学)異性体と呼ばれ、似て非なる様々なモノが存在します。アミノ酸、糖類、アドレナリンなどの有機物質をはじめ、身近なものではシリコン原子でできている水晶がこの代表として知られています。鏡像異性体は、鏡像の関係にある以外、構成している原子の種類や数、物理的性質はまったく同じです。しかし、化学的性質や生物学的な機能が異なるため、人が飲む薬の中には、このような構造の違いを区別しないと、効き方が違うだけでなく害となるモノも存在します。
理研放射光科学総合研究センター量子秩序研究グループは、英国ラザフォードアップルトン研究所の研究者らと共同で、大型放射光施設SPring‐8を活用し右、左らせん構造を持つ鏡像異性体を識別する新たなX線回折原理を発見しました。識別するX線回折手法では、調べる対象物の元素特有のエネルギーに合わせてX線のエネルギーを調整するとともに、X線を右、左円偏光と呼ばれる特別な状態にしました。
具体的には「アンジュレータ」で右円偏光、左円偏光のX線を水晶の結晶に照射して、結晶面で回折してくる強度を測定しました。X線のエネルギー(波長)は水晶の構成元素であるシリコン原子が最も吸収する0.67ナノメートルに合わせました。その結果、右、左結晶の違いを観測できることが初めて明らかとなりました。アミノ酸、機能性高分子、液晶、次世代のエレクトロニクスデバイス材料など、多岐にわたる物質の鏡像異性体の性質を理解する新たな手法として注目されます。
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