物質を構成している分子を必要な長さに切ったり、つないだりして、新たな機能を生み出す物質に変える機能を持つ「触媒」は、私たちの豊かな生活に欠かせない存在です。触媒は、金属などを主成分とし、プラスチックやガソリンなどの生活物質の生産をはじめ、大気汚染の元凶、シックハウス症候群の原因物質を分解・除去する機能を持っています。ところが、この触媒の表面でいったい何が起きて、必要な分子を切ったり、つないだりしているのかを正確に見たものいません。また、その反応は一瞬のことで分子1つ1つごとに起っている確かなメカニズムを見極めることはなかなか難しいとされていました。
理研中央研究所川合表面化学研究室は、大阪大学産業科学研究所量子機能科学研究部門の研究グループと共同で、この触媒の基本反応となっている金属表面に吸着した有機分子の選択的分解反応と表面拡散の様子を単一分子レベルで可視化することに世界で初めて成功しました。具体的には、銅(Cu)を金属基板として、基盤表面に吸着した有機物質のジメチルジスルフィド(CH3S‐SCH3)を走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察し、STMの探針からトンネル電子を注入する方法で触媒反応をモデル化する方法で実現しました。
普通、吸着している分子は300K=27℃という室温付近でも高速で動き回っているため、分子1個1個の動きを見ることができません。このため、5K=−268℃まで冷やし動きを止めるとともに、3×10−11Torrという超高真空の環境を整備しました。その結果、STMの画像で1つの楕円形の輝点として観測していたジメチルジスルフィドが、STMの探針に370mVの電圧を印加して、トンネル電子を注入すると2つの楕円輝点へと変化する様子を観測することができました。ジメチルジスルフィドのS‐S結合部位だけが選択的に切断し、2つのメチルチオレート(CH3S)分子が生成したことになり、金属表面で起る選択的な分解反応を可視化した成果となりました。研究グループは、生成したメチルチオレートをトンネル電子で自由に動かし、その様子を捉えることにとにも成功しており、分子運動のスナップショットを得たとしています。触媒の基本反応となっている選択的な分解と拡散運動を分子1個で可視化したことは、単一分子レベルの反応を捕えることになり、私たちにさらなる豊かな生活をもたらす新たな機能性触媒の開発に貢献することが期待されます。
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