| 2. |
研究手法と成果 |
| (1) |
嗅神経におけるBIG-2のモザイク状発現 |
| 神経細胞認識分子であるBIG-2を特異的に認識する抗体を作製し、マウスの嗅球でBIG-2タンパク質が発現している箇所を免疫組織化学法で調べました。BIG-2は、強弱を持って嗅神経に発現しており、その標的部位である嗅球においてはBIG-2強陽性、弱陽性および陰性の糸球体が入り混じってモザイク状に存在していました(図4)。BIG-2の発現パターンは、以前に報告されている嗅神経ガイド分子群(Kirrel 2/3、ephrin-A5/EphA5、 Neuropilin-1/2、OCAMなど)とは異なっており、嗅球のそれぞれの糸球体に、多様な分子群が、異なった発現強度でモザイク状に存在していることを明らかにしました。 |
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| (2) |
嗅細胞におけるBIG-2発現強度と嗅覚受容体選択の相関 |
| 次に4種類の嗅覚受容体(MOR28、mOR-EG、mOR256、OR-I7)をそれぞれ特異的に認識する抗体とBIG-2抗体を用いて、嗅細胞が発現する嗅覚受容体の種類とBIG-2の発現強度の関係を調べました。その結果、嗅細胞が発現する嗅覚受容体の種類によってBIG-2の発現強度が決定されており、同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞の軸索が集束投射する糸球体では、BIG-2の発現強度は同程度であることを見いだしました(図5)。すなわち、嗅細胞における嗅覚受容体遺伝子の種類とBIG-2の発現強度は、密に相関している事実が明らかとなりました。 |
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| (3) |
BIG-2欠損マウスにおける嗅神経投射パターンの異常 |
| BIG-2の生理的機能を明らかにするために、発生工学的手法によりBIG-2遺伝子を欠損した変異マウスを作製しました。正常マウスでは、同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞が、それらの軸索を合計4個の標的糸球体(左右の嗅球で2個ずつ)へと投射します。ところがBIG-2欠損マウスでは、嗅神経が本来の4つの標的糸球体に加えて、その周辺の複数の小さな糸球体へと異所的な投射をするという異常な表現型を示しました(図6)。さらに、本来BIG-2強陽性の嗅神経だけでなく、BIG-2弱陽性もしくは陰性の嗅神経においても同様の異常を観察し、BIG-2の欠損により、嗅神経に発現する軸索ガイド分子群の組み合わせコードのバランスが崩れて、神経投射異常が起こることが示唆されました(図7)。また、この異所的な糸球体は、本来投射するべき糸球体の近傍に存在することから、BIG-2のガイド分子としての働きは、嗅球上のおおまかな投射領域を決定するというよりはむしろ、嗅神経が標的糸球体へと集束していく最終段階で機能していると予想できました。このように、嗅神経ガイド分子の欠損によって、嗅細胞の軸索が間違った糸球体に投射してしまうという異常な表現型を観察できたのは、BIG-2が世界で初めてです。 |
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| (4) |
まとめ |
| 嗅覚神経回路の形成には、@嗅神経を嗅球へと到達させるA嗅神経の伸びる嗅球表面部位を大雑把に決めるB特定の嗅神経を標的糸球体へと集束させる、という3段階のステップがあります。今回、研究チームは、BIG-2が、上述のBに該当する、最も精密な嗅覚神経回路の最終形成ステップに重要な役割を果たしていることを明らかにしました。各々の嗅細胞は「1細胞-1受容体ルール」に従った嗅覚受容体の種類に伴い、BIG-2を含めた複数の嗅神経ガイド分子群(Kirrel 2/3、ephrin-A5/EphA5、 Neuropilin-1/2、OCAMなど)を異なった組み合わせで、かつ異なった強度レベルで発現することにより、その軸索を特定の標的糸球体へと投射します。このような巧妙な分子メカニズムによる精緻な神経配線によって「1糸球体-1受容体ルール」が形成され、嗅球において正確な「匂い地図」を構築していくと考えられます。 |