猛暑の夏、電車のレールが伸びて曲がってしまい、電車が脱線したというニュースを耳にしたことがありませんか?電車のレールは夏に伸び冬に縮みます。通常それを計算して、わざとジョイントに隙間を設けてあります。レールの伸び縮みをはじめ、物質の温度が上昇すると体積が大きくなる現象は、「熱膨張」と呼ばれます。この熱膨張の大きさは線熱膨張で表し、レールを構成している鉄の場合は、長さ10センチメートルのとき、温度が1℃上がると1.2マイクロメートル(1マイクロは100万分の1)伸びます。ほんのわずかな伸びと思われますが、例えばナノメートル(1ナノメートルは10億の1)という精度を追求している半導体デバイスでは致命傷となります。産業技術の発展とともに、この精度を達成できない材料は使えないという状況となっています。このため、精密加工機械、半導体製造、精密光学機器などの産業分野では、低膨張材料、究極的にはゼロ膨張材料、を求める要望が高まっています。
理研中央研究所高木磁性研究室の研究グループは、JST戦略的創造研究推進事業に参加し、こうした要望にこたえることができる単一物質で熱膨張がゼロのセラミックスの開発に成功しました。開発したセラミックス材料はマンガン窒化物で、室温を含む70℃幅の温度範囲で熱膨張がゼロとなります。
研究グループの竹中康司客員研究員は、2005年に「逆ペロフスカイト」という構造を持つマンガン窒化物が、室温付近で逆に縮んでしまうマイナスの熱膨張を持つことを発見していました。開発したゼロ熱膨張のマンガン窒化物は、このマイナス熱膨張を示したマンガン窒化物の構成元素を変えるとともに、製作時の熱温度を800℃以上の高温にし、反応環境を窒素成分の少ないガス内にするなどの工夫を重ねて実現しました。従来のゼロ熱膨張材料は、ガラス系の複合材料を使っており、価格が高い上に材料強度に課題を残したままとなっていました。今回開発した新材料は、マンガン窒化物単独で出来ているため、窒化物の強さを発揮し、理想のセラミック材料として広範な用途で実用化されると期待されています。
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