 野球のデッドボール、ボクシンングの打ち合い、柔道の投げ技・・・、身体はどのような衝撃を受けているのでしょうか?交通事故での臓器の損傷、手術でのメス・・・、身体組織はどんな力を受け、どう変形するのでしょうか。 身体が受ける力学的な影響は、スポーツ医学をはじめ、事故対策、装具開発などの関係者にとって、正確に知りたい事項です。しかし、それを知るために、人体を使って実験することはできません。
理研の生体力学シミュレーション特別研究ユニットVCADシステム研究プログラム、臓器全身スケール研究開発チームの研究者グループは、静岡県工業技術研究所と協力し、2006年から人体全身の力学シミュレーションを可能にする人体の力学特性データーベースの開発に取り組んできました。2007年3月より、骨などの硬い部位や微小な変形に限定した人体の力学データベースを一般に公開しています。しかし、軟らかい組織の塊である人体の力学的特性を表現する物性値データーベースには至っていませんでした。応力とひずみの関係が連続的とならない軟組織の非線形の物性を網羅していないからです。
研究グループは、汎用の力学シミュレーションソフトウェアで扱うことができる「非圧縮性等方性超弾性体」に着目し、ひずみエネルギー関数を求める作業を進め、データを整備しました。肝臓、腎臓など人体の17の主要な臓器を、合計32の超弾性体から構成されているとして解析、物性値を求めました。これらの物性値データをこれまでのデーターベースに加え、一般に公開します。これにより、軟組織の力学解析がはじめて実現します。また、理研が開発を進めている1ミリメートルの分解能を持つ全身の形状モデルに活用すると、全身の力学シミュレーションが可能になり、ダメージや応力を正確に予測することができるようになると期待されます。
|