プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
表皮細胞分化をつかさどる遺伝子が植物の生長や開花を制御
- 根毛をつくるCPL3遺伝子の突然変異体は早咲きで、葉が大型化 -
平成20年3月3日
◇ポイント◇
  • 表皮細胞分化はCPL3を含むCPC遺伝子ファミリーにより制御される
  • CPL3遺伝子は葉の生長や花芽形成に関与
  • 作物の収量を向上する新技術の開発に貢献
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、シロイヌナズナの表皮細胞分化に関与する「CPL3(CAPRICE LIKE MYB 3)」遺伝子が、植物の生長や開花時期を調節していることを明らかにしました。これは理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)機能開発研究グループ機能発現研究チームの和田拓治チームリーダー、冨永るみ研究員らの研究成果です。
 動物のように動くことができない植物では、外界に接する最前線となる表皮細胞に、環境に応じて形や大きさを変える器官が作られます。根には、土中から水や栄養を吸収するための根毛が、葉、茎などの地上部の器官には、害虫や紫外線から植物体を守るトライコーム※1が形成されます。シロイヌナズナの根毛やトライコームの形成を制御する遺伝子として、研究チームが1997年に発見した「CPC遺伝子」がよく知られています。このCPC遺伝子のホモログ※2として、TRY、ETC1、ETC2遺伝子が研究されていて、CPC遺伝子と同様の機能を持つことが報告されています。
 研究チームは、同じくCPC遺伝子のホモログの1つであるCPL3遺伝子を独自に発見し、その機能を解析してきました。今回、CPL3遺伝子も他のCPCホモログ遺伝子と同様に、根毛やトライコームの形成を制御する機能を持つことを見いだしました。また、CPL3、CPC、TRY、ETC1の4つの遺伝子機能を同時に欠失した4重変異体を作成したところ、葉や胚軸の表皮細胞がほぼすべてトライコームに変換された異常な表現型を示しました。これらの結果から、CPC遺伝子ファミリー※3のメンバーが協調してシロイヌナズナの表皮細胞分化を制御しており、少なくともCPL3、CPC、TRY、ETC1の4つの遺伝子が存在しないと正常な発達ができなくなることを明らかにしました。
 また、研究チームは、CPL3遺伝子の特異的な機能を調べました。CPL3突然変異体は、他のホモログ遺伝子の突然変異体には見られない、早咲きと植物体の大型化という表現型を示し、逆にCPL3遺伝子を過剰発現させると、やや遅咲きになり植物体が矮化することを明らかにしました。これらの成果により、将来的に、CPL3オーソログ※4を利用した有用植物の収量増加技術の開発が期待されます。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『Development』に、近く掲載予定です。


1. 背 景
 表皮細胞は、植物が外界に接する最前線です。動物のように自ら動けない植物は、環境に応じて形や大きさを変える必要があります。例えば、植物の根には、根毛が形成されます。根毛は、表皮細胞が外側に伸長した器官で、水分や栄養の吸収といった生命に重要な役割を果たします。また、葉、茎などの地上部の器官の表皮細胞には、害虫や紫外線から植物体を守っているトライコームが形成されます。
 研究チームは、これまでに、根毛の少ないシロイヌナズナの原因遺伝子として、MYB※5ファミリーに属するCPC遺伝子を発見しました(Wada et al., 1997, Science 277, 1113-1116)。また、CPC遺伝子のホモログとしてTRY、ETC1、ETC2遺伝子が既に報告されています。TRY遺伝子突然変異体では、トライコームがクラスターを形成し、ETC1、ETC2突然変異体では、CPCやTRY突然変異体の表現型を強めることがわかっています。研究チームは、CPC遺伝子とのDNA配列の類似性から独自に発見したCPL3(CAPRICE LIKE MYB 3)遺伝子を中心に、この遺伝子ファミリーの解析を進めてきました。


2. 研究手法と成果
(1)CPCホモログ多重変異体の作出
 CPC突然変異体は、根毛が少なくなり、TRY突然変異体はトライコームがクラスターを形成しますが(図1)、ETC1、ETC2、CPL3遺伝子の単独の突然変異体は、根毛やトライコーム形成に顕著な表現型は示しません。そこで、これらホモログ遺伝子の多重変異体を作出しました。その結果、それぞれが根毛形成を促進しトライコーム形成を抑制するという同じような機能を持つことがわかりました。さらに、CPL3、 CPC、TRY、ETC1の4重変異体を作出したところ、葉や胚軸の表皮細胞がほぼすべてトライコームに変換されたことから、このCPC遺伝子ファミリーが協調して、シロイヌナズナの表皮細胞分化を制御していることが明らかになりました(図2)。
(2)CPL3突然変異体と過剰発現体の花芽形成を比較
 研究チームは、CPL3突然変異体の特異な形質として、野生型よりも早咲きになることを見出しました。そこで、CPL3遺伝子を過剰に発現させた形質転換体を作出したところ、突然変異体とは逆に、野生型よりもやや遅咲きになることがわかりました(花芽形成までの日数:野生型が約37日、CPL3突然変異体が約29日、CPL3過剰発現体が約41日)。さらに詳細に解析したところ、CPL3突然変異体では、花芽形成に関わる遺伝子のうちFTおよびSOC1遺伝子の発現が高くなっていることを明らかにしました。
(3)CPL3突然変異体と過剰発現体の大きさを比較
 研究チームは、他のホモログには見られないCPL3突然変異体に特異な表現型として、葉が大きくなることも明らかにしました(図3)。CPL3突然変異体では、葉の細胞の1つ1つが大きくなっており、その原因がDNA量の増加をともなうものであることをDNAプロイディー※6解析により突き止めました。
 以上の結果から、CPL3遺伝子が、他のCPCホモログ遺伝子と同様に根毛形成を促進しトライコーム形成を阻害する機能を保持していることがわかりました。CPL3、CPC、TRY、ETC1の4つの遺伝子機能を同時に欠失させると、表皮細胞がほぼすべてトライコームに変換された異常な形態になることから、この遺伝子ファミリーがシロイヌナズナの形態形成において大変重要であることが明らかになりました。また、CPL3遺伝子が表皮細胞の分化を制御するとともに、DNAプロイディーレベルの抑制や花芽形成に関わる遺伝子(FTおよびSOC1遺伝子)の発現阻害により、葉の大きさや開花時期の調節にも関わることが明らかになりました。


3. 今後の期待
 表皮細胞分化により出現するトライコームには、アントシアニンなどの有用2次代謝産物が蓄積します。このため、葉、茎などにトライコームを過剰に出現させることができると、これらの物質の増収が期待できます。CPL3突然変異体の早咲きや大型化の特徴は、農業作物に応用することにより生産性の向上につながる可能性があります。本研究で示した植物体の大型化は、外来遺伝子導入によるものではないため、商業化に際しての問題を解決できると考えられます。



(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 植物科学研究センター 機能発現研究チーム
   チームリーダー  和田 拓治(わだ たくじ)
   研究員      冨永 るみ(とみなが るみ)

Tel: 045-503-9570 / Fax: 045-503-9591
横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 トライコーム
突起状のものという意味で、葉、茎などの地上部の器官の表皮細胞より形成される。シロイヌナズナの場合は先端が3分枝している。害虫や紫外線から植物体を守っていると考えられる。
※2 ホモログ
相同遺伝子。共通の祖先や共通の機構に基づく根源的な類似性を持つもの。ここでは塩基やアミノ酸の配列が似ている遺伝子のこと。
※3 遺伝子ファミリー
DNA配列や機能性モチーフに相同性を持つ遺伝子のグループ。塩基配列の解析によりファミリーメンバーであることが確認できる。ここではホモログとほぼ同じ意味。
※4 オーソログ
異なる生物種に存在する相同遺伝子(ホモログ)のことを特にオーソログという。
例:イネのOs01g43180遺伝子は、CPL3のオーソログである。
※5 MYB
MYB遺伝子はがん遺伝子の1つであり、これと相同性を持つ転写因子をMybファミリーと呼ぶ。通常Mybドメインを介してDNAに結合する。
※6 DNAプロイディー
倍数性。細胞当たりの染色体組の数の指標。DNAプロイディーレベルの高い個体、つまり倍数体は植物全体が大きくなったり、環境に対する適応性が向上したりすることが知られている。


野生型TRY 突然変異体
野生型CPC 突然変異体
図1 シロイヌナズナのTRY突然変異体トライコームおよびCPC突然変異体の根の写真
TRY突然変異体では、野生型では単独で存在するトライコームがクラスターを形成しており、CPC突然変異体では野生型に比べて根毛数が著しく減少している。


野生型4重変異体
図2 シロイヌナズナのCPL3、CPC、TRY、ETC1の4重変異体本葉の写真
CPL3、CPC、TRY、ETC1 4重変異体では、野生型に比べてトライコームの数が多くなり、葉の表面のほとんどの細胞がトライコームに変換される。


図3 CPL3突然変異体およびCPL3過剰発現体の写真
CPL3遺伝子の機能が失われると大きくなり、逆にCPL3遺伝子を過剰発現させると矮化した。

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