プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
抗ウイルス反応を増強する重要分子「PDC-TREM」を発見
- 形質細胞様樹状細胞がT型インターフェロンの産生を増幅する仕組みが明らかに -
平成20年2月19日
◇ポイント◇
  • 活性化した形質細胞様樹状細胞のみに発現する分子PDC-TREMを発見
  • T型インターフェロンの産生をPDC-TREMが増強
  • PDC-TREMタンパク質が抗ウイルス薬や自己免疫疾患治療薬の新しいターゲットに
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ウイルス感染に際してウイルスを撃退する生体物質であるT型インターフェロン※1の産生を増強するタンパク質「PDC-TREM※2」を発見し、その分子メカニズムを明らかにしました。これは理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口 克 センター長)免疫制御研究グループの谷口 克グループディレクターと渡会浩志上級研究員らによる研究成果です。
 近年、感染症は先進国においても、脅威となりつつあります。特に、SARS、鳥インフルエンザなどの新興・再興ウイルス感染症の人類における大流行が予測され、社会生活に大きな脅威を与えています。
 体内にウイルスが侵入すると、免疫系のToll様受容体がウイルスを認識します。そして、生体防御反応を発動し、Toll様受容体から信号を受けた形質細胞様樹状細胞※3がウイルスを撃退するT型インターフェロンを産生するようになることが指摘されてきました。しかし、形質細胞様樹状細胞がどのようにして大量のT型インターフェロンを産生しているのか、といった具体的なメカニズムは不明のままでした。
 研究チームは、形質細胞様樹状細胞がToll様受容体からの刺激信号を受けた後、特異的に発現する分子PDC-TREMの同定を、世界に先駆けて成功しました。そして、PDC-TREM機能を抑制すると、T型インターフェロンの産生が著しく抑制されることから、PDC-TREMがT型インターフェロンの産生に必須の分子であることを明らかにしました。
 PDC-TREM機能を人為的に制御することにより、T型インターフェロン産生を増強することができると、社会的要請の高いウイルス感染症の克服が可能となります。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS』のオンライン版(2月18日付:日本時間2月19日)に掲載されます。


1. 背景
 近年、鳥インフルエンザ(H5N1)が鳥から人に感染する事例が数多く報告されています。同時に、この鳥のインフルエンザウイルスが変異し、新型インフルエンザとなって猛威を振るう可能性も危惧されています。新型インフルエンザは、人類のほとんどが免疫を持っていないために、容易に人から人へ感染する恐ろしい威力を持ち、世界的な大流行(パンデミック)を引き起こす元凶となるとされ、大きな健康被害とそれに伴う社会的影響が懸念されています。インフルエンザをはじめとする種々のウイルスには、大きく分けてDNAウイルスとRNAウイルスとがあります。ウイルスに対する生体防御反応の発動には、これらウイルス由来の核酸(DNA、RNA)を認識する受容体があり、その代表的なものとしてToll様受容体が知られています。また、T型インターフェロンというサイトカイン※4が、ウイルスの増殖を抑制する働きを有しており、ウイルスに対する生体防御反応の中心的な役割を担います。このT型インターフェロンを大量かつ迅速に産生できる細胞が形質細胞様樹状細胞です。これまでに、形質細胞様樹状細胞がToll様受容体を介して大量のT型インターフェロンを産生することが知られていました。しかし、どのようにして、なぜ、大量に産生できるのか、という具体的なメカニズムは明らかとなっていませんでした。
 PDC-TREMは、形質細胞様樹状細胞がToll様受容体によって活性化されたときにのみ細胞膜上に発現する分子(図1)で、他の免疫担当細胞では発現が見られません。そこで、研究チームは、PDC-TREMに注目し、形質細胞様樹状細胞における機能を解析しました。


2. 研究手法と成果
 PDC-TREMの生理的な機能を調べるため、まず、PDC-TREMを特異的に認識するモノクローナル抗体※5を作製しました。この特異的モノクローナル抗体を用いて、形質細胞様樹状細胞におけるPDC-TREMの機能を調べました。その結果、PDC-TREMの機能を抑制できるモノクローナル抗体を加えると、T型IFNの産生が顕著に(1/10程度)抑制されることが明らかとなりました(図2)。この結果は、Toll様受容体を介して活性化した形質細胞様樹状細胞からのT型インターフェロンの産生を、PDC-TREMが増幅することを示しています。
 次に、PDC-TREMが認識する分子の同定を行いました。その結果、PDC-TREMは、同じ細胞膜上のPlxnA1という分子と会合していることがわかりました。そこで、PlxnA1のリガンド※6として知られるSema6Dで形質細胞様樹状細胞を刺激したところ、PDC-TREMを介して、T型インターフェロンの産生が増強していました(図3)。
 以上のことから、形質細胞様樹状細胞からのT型インターフェロン産生増幅には、PDC-TREMタンパク質が必須であることが明らかとなりました。ウイルスが生体内に侵入すると、これをToll様受容体が検知し、形質細胞様樹状細胞が防御反応を発動、さらに信号を受けたPDC-TREMによりI型インターフェロンの産生を増強する、という2段構えで生体防御反応を担うメカニズムを、新たに見いだしました(図4)。


3. 今後の期待
 形質細胞様樹状細胞からのT型インターフェロン産生は、例えばC型肝炎など、ウイルス感染に対する生体防御反応において重要です。今回、この産生メカニズムが明らかとなったことで、抗ウイルス反応を人為的にさらに増強することが可能となり、社会的要請の高い感染症の克服に貢献する研究開発への応用が期待されます。また、膠原病やクローン病のように、免疫システムのバランスの破綻から引き起こされるT型インターフェロン産生調節異常が、疾患発症の引き金の1つになると考えられている自己免疫疾患についても治療応用が期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  免疫制御研究グループ
   上級研究員   渡会 浩志(わたらい ひろし)

Tel: 045-503-7008 / Fax: 045-503-7006
 横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9113 / Fax: 045-503-9117

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 T型インターフェロン
免疫細胞間の情報伝達およびウイルス感染に対する防御に関与する活性分子。I型とII型に分けられる。I型インターフェロンはIFNα、βからなり、主に抗ウイルス作用を発揮する。II型インターフェロンはIFNγとも呼ばれ、T細胞分化、マクロファージ活性化を示し、抗ウイルス、抗細菌作用を発揮する。
※2 PDC-TREM
形質細胞様樹状細胞がToll様受容体を介して活性化されたときに発現する新規細胞表面膜分子。形質細胞様樹状細胞におけるT型インターフェロンの産生調節に関わる、世界に先駆けて同定された分子。
※3 形質細胞様樹状細胞
樹状細胞は細胞性免疫に橋渡しする抗原提示細胞で、現在の知見で大きく骨髄系樹状細胞と形質細胞様樹状細胞に分類されている。形質細胞様樹状細胞はウイルス遺伝子の1本鎖RNA、2本鎖RNA 、DNAなどウイルスの持つ抗原性発現物質を認識してI型インターフェロンを大量かつ迅速に産生する能力を有する。
※4 サイトカイン
細胞同士の情報伝達に関わる様々な生理活性を持つタンパク質の総称。
※5 モノクローナル抗体
単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体(免疫グロブリン)分子。通常の抗体(ポリクローナル抗体)は抗原で免疫した動物の血清から調製するために、いろいろな抗体分子種の混合物となるが、モノクローナル抗体では免疫グロブリン分子種自体が均一である。モノクローナル抗体では、1つのエピトープに対する単一の分子種となるため、抗原特異性が全く同一の抗体となる。
※6 リガンド
特定の受容体に特異的に結合する物質のこと。リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。例えば、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体など。


図1 Toll様受容体によって活性化された形質細胞様樹状細胞の様子
PDC-TREMは活性化した形質細胞様樹状細胞特異的に発現する。Toll様受容体刺激物質CpG-Aの作用により、PDC-TREMの発現上昇が見られる。


図2 PDC-TREM特異的モノクローナル抗体による
T型インターフェロンの産生抑制
Toll様受容体刺激物質CpG-Aの作用により形質細胞様樹状細胞から産生されるT型インターフェロンは、PDC-TREMに対する特異的モノクローナル抗体を作用させることにより、抑制することができる。


図3 PDC-TREMリガンドによるT型インターフェロンの産生増強
Toll様受容体刺激物質CpG-Aの作用により形質細胞様樹状細胞から産生されるT型インターフェロンは、PDC-TREMと会合するPlxnA1に対するリガンドを作用させることにより、増強することができる。


図4 形質細胞様樹状細胞におけるPDC-TREMによる
T型インターフェロン産生増強メカニズム

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