| 2. |
研究手法と成果 |
卵母細胞の核小体の構成成分は、未だ判明していません。したがって、核小体構成成分の遺伝子を改変し、遺伝子発現を抑制・促進するといった分子生物学的手法あるいは生化学的手法によって、核小体の機能を解明することがいまだ実現できていません。近年、哺乳類の卵母細胞や精子をマイクロマニピュレーター(写真1)を使って顕微鏡下で操作する「顕微操作技術※6」が急速に進歩してきました。本研究ではこれらの技術を駆使するとともに、研究グループが独自に開発した哺乳類卵母細胞(ブタおよびマウス)から核小体だけを取り除くという特殊な方法(脱核小体操作:写真2)を併用し、核小体の機能の解明を行いました。
哺乳類卵母細胞は、卵巣内で、第T減数分裂後一時分裂を停止していますが、性腺刺激ホルモンの刺激により減数分裂を再開し、第U減数分裂中期に達したのち、卵子となって卵管から排卵されます。その後、精子と受精することにより、卵子由来の核(雌性前核)と精子由来の核(雄性前核)を持つ受精卵を形成したのち卵割し、胚盤胞形成を経て発生していきます(図3)。哺乳類では、胚盤胞形成までの過程を体外培養によって再現することができます。そこで、顕微操作により核小体を取り除いたマウスの卵母細胞を使って、体外培養を行い、減数分裂進行・受精・初期胚発生過程での核小体の機能について調べました(図4)。
|
|
| 1) |
減数分裂進行に卵母細胞の核小体は不要である |
脱核小体操作により核小体のない卵母細胞(脱核小体卵)を作出し、体外で培養することにより減数分裂が進行するかを調べました(図4- )。脱核小体卵は、核小体を持つ通常の卵母細胞(対照卵)と同様な時間経過で減数分裂を進行し、完了しました。つまり、卵母細胞の核小体は減数分裂進行には必要ないことが示されました。 |
|
| 2) |
受精卵の雌雄両前核形成に核小体は必要である |
脱核小体卵を体外で培養し、減数分裂を進行させたのち体外受精を行い、受精卵を作出しました(図4- )。その結果、対照卵から作出した受精卵では雌雄両前核に核小体が存在しましたが、脱核小体卵から作出した受精卵では、卵子由来の核(雌性前核)だけでなく、核小体が存在していた精子由来の核(雄性前核)においても核小体は存在しませんでした(写真3)。つまり、卵母細胞の核小体は、精子侵入後に形成される受精卵の雌性前核だけでなく、雄性前核の核小体形成にも必要であることを見いだしました。哺乳類の受精卵中の核小体が卵子のみに由来するという発見は、受精卵構築時に片親からもたらされる細胞小器官として、1974年の卵子由来のミトコンドリア、1976年の精子由来の中心小体の発見に次ぐ3番目の発見として、歴史的にも価値があるといえます。 |
|
| 3) |
初期胚発生進行に核小体は必要である |
さらに、核小体のない卵母細胞を体外で受精・発生させることで、卵母細胞の核小体が初期胚発生進行に必要かどうかを調べました(図4- )。発生を開始した脱核小体卵は、核小体を持つ対照卵と同様にタンパク質合成能およびDNA複製能を有していましたが、数回の卵割後に初期胚発生を停止しました(写真4)。この異常が脱核小体操作による核のダメージによって起こるものでなく、核小体を持たないことに起因することを確認するため、核小体のない脱核小体卵に卵母細胞の核小体を戻し、体外で受精・発生させました(図4- )。核小体を戻した卵母細胞は、正常に受精・発生し、この胚から産仔が得られました(写真4)。つまり、卵母細胞の核小体は胚発生を正常に進行させるために必要であることが実証できました。 |
|
| 1) |
体細胞核小体によって卵母細胞核小体を代替することはできない |
最後に、卵母細胞の核小体を、形態的に異なる分化した体細胞の核小体によって代替できるかどうかを調べました(図4- )。体細胞の核小体を脱核小体卵に顕微操作により注入し、この卵に前核を形成させると、前核に核小体は形成されず(写真5)、この卵の胚発生は数回の卵割後に初期胚発生を停止しました。また、分化した体細胞よりも未分化な状態で多能性を持つES細胞の核小体を脱核小体卵に注入したのち前核を形成させても、前核に核小体は形成されませんでした。つまり、卵母細胞の核小体は、体細胞の核小体によって代替できず、卵母細胞特異的であると考えられます。また、体細胞クローン作出時の前核中にも卵母細胞特異的な核小体が形成されていたことから、体細胞クローン胚の正常な初期胚発生進行にもこの核小体が必須であることが示されました。 |