電気抵抗ゼロの状態で電子が動きまわれる超伝導体現象は、しばしば、まったく対極の電子が動けない状態である、絶縁体の近くに出現します。その典型的な例は、1986年にIBMチューリッヒ研究所のJ.G.ベドノルツとK.A.ミューラーの両博士が発見した、銅酸化物の高温超伝導体です。両博士は1987年にノーベル物理学賞を受賞し、高温超電導体を活用する産業も育っていますが、絶縁体から超伝導が現れるメカニズムは、依然謎のままです。
電子のスピン(自転)には、粒子性と波動性の両方の性質があります。粒子性はスピンの向きをそろえて磁石になろうとし、波動性はスピンの向きがそろわないように動きまわります。絶縁体ではスピンの粒子としての性質が前面に出て、スピンの向きを揃え、磁石になります。 しかし、2つのスピンが重ね合わさると、スピンの波の濃淡(干渉縞)ができる一方、スピンがどこを向いているのかわからなくなり、磁石としての性質が見かけ上消失します。超伝導現象の謎を解くために、この干渉縞の状態から超伝導現象が出現する物質が長年、探し求められてきました。
中央研究所加藤分子物性研究室は、三角格子構造のためスピンが安定化せず非磁性(干渉縞)を示す、三角格子の分子性結晶「パラジウムディーエムアイティー錯体」を独自に開発してきました。この結晶に圧力を加えて電子間の距離を縮めていく手法で、絶縁体である結晶が金属に相転移することを観測しました。さらに、絶対温度約5Kまで冷却することにより、超伝導現象が出現することを見いだしました。これは、磁場に対して不安定な非磁性の絶縁体が、超伝導状態と隣り合わせに存在することを裏付ける実験例となります。この成果により、超伝導現象の謎の解明に新たな知見をもたらすことになりそうです。
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