新しい種類の医薬品として、「RNA医薬」が注目を集めています。これは、病原菌やがん細胞など“悪さをする遺伝子”の機能を破壊して、病気を治療するという手法を用いた薬です。しかし、染色体上の遺伝子を破壊することは難しく、「RNA干渉(RNAi)」現象が見つかって、実現への道がようやく見えるようになりました。
RNA干渉は、二本鎖のRNAと同じ塩基配列を持つmRNAが分解され、遺伝子の機能をなくしてしまう現象をいいます。この現象を活用し、人工的に二本鎖のRNAを遺伝子に導入することで、目的となる“悪さをする遺伝子”の発現を抑制する手法が「RNA医薬」です。
米国スタンフォード大学のアンドリュー・Z・ファイアー教授と米国マサチューセッ大学のクレイグ・C・メロー教授は、線虫の細胞に存在する2本鎖のRNAがほどけてmRNAが働けない現象を見出し、1998年に論文にしました。ノーベル財団は、2006年度、この成果をもたらした両氏にノーベル医学生理学賞を贈りました。
日米欧でRNA医薬の開発競争が既に始まっていますが、天然型のRNAは生体内で不安定なためRNA干渉現象が続かないことや、非天然の人工RNAはその毒性が指摘されるなど、大きな壁が立ちふさがっていることもわかってきました。
理研中央研究所の伊藤ナノ医工学研究室は、ダンベル型の構造を持つRNAが、RNA干渉現象の効果を生体内で長期的に発揮することを世界で初めて発見しました。このダンベル型のRNAは、RNA干渉効果の機能を含んだ長いRNAを、接合酵素「リガーゼ」を使って、両末端を切れ目のない環状に加工することで作りました。ダンベル型RNAは、生体内では安定性が高いのですが、病巣に運び込まれると、細胞の中にある酵素「ダイサー」で環状部が切り離され、残った二本鎖のRNAは、RNA干渉現象を引き起こし、目的の遺伝子が働かなくなります。これは、RNA医薬の開発で今まで問題となっていたRNA干渉の持続性と毒性を解決するもので、RNA医薬品の開発を加速させる重要な発見となりました。
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