プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
α-GalCerを活用した新しいがん免疫療法を開発
- 生体内樹状細胞の成熟で、さまざまながん細胞を排除 -
平成19年10月23日
◇ポイント◇
  • がん細胞にNKT細胞のリガンドを添加し、NKT細胞の指令機能を高める
  • 樹状細胞の高効率な抗原提示で抗腫瘍T細胞を誘導
  • ワクチン感覚のがん治療が実現、血液系腫瘍への応用に期待
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、リンパ球の一種であるNKT細胞※1を利用して免疫を賦活化し、がんを抑制する新しい免疫療法とそのメカニズムを発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫細胞移植戦略研究ユニットの藤井眞一郎ユニットリーダーらによる研究成果です。
 体内に異物が侵入すると、免疫担当細胞のひとつである樹状細胞※2が異物を認識します。樹状細胞は、異物の情報を抗原としてT細胞に提示することで、免疫反応を活性化し、異物を排除します。しかし、担がん状態※3では、樹状細胞はがん細胞の抗原情報を効率的にT細胞に提示することがうまく出来ません。このため、がん細胞は、免疫系の攻撃をまぬがれ、制御を受けることなく身体の各所で増殖し、生命を脅かします。
 研究チームは、NKT細胞が認識することができるリガンドの糖脂質「α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)※4」をがん細胞に添加し、静脈内に投与すると、その後、皮下接種した同種のがん細胞の増殖を抑制できることを発見しました。α-GalCerの添加が、がん細胞に対する免疫系細胞の抵抗性を誘導し、その抵抗性は長期にわたって持続していました。具体的には、NKT細胞の働きによって生体内の樹状細胞の完全成熟化が進み、活性化した樹状細胞が腫瘍抗原を効率よくT細胞に提示して、抗腫瘍T細胞を誘導するというメカニズムが働いていました。
 従来の、樹状細胞に特定の腫瘍抗原を発現させてから体内に戻す手法と異なり、この手法は、体内の樹状細胞を利用する点を特徴としています。このため、がん細胞に発現している複数のがん抗原を樹状細胞に提示させることも可能です。今後、がん細胞を容易に得ることができる、白血病などの血液系腫瘍において、がん免疫療法への応用が期待できます。
 本研究の成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』(10月29日号)に掲載されます。


1. 背 景
 生体防御を担う免疫系には、先天的な免疫システムで初期防御を行なう「自然免疫」と、抗体や様々な細胞性免疫応答によって特定の異物を強力に排除し、一度出会った異物は持続的に記憶する「獲得免疫」があり、両者が協調して働いています。自然免疫には、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)が関わり、獲得免疫には、B細胞、T細胞といったリンパ球が関与しています。免疫を利用してがんを治療する、がん免疫療法では、これまで獲得免疫系を活性化することを目標にしたペプチド療法の研究が進められてきました。
 NKT細胞は、NK細胞とT細胞の二つのリンパ球と共通の目印を持ち、自然免疫と獲得免疫をつなぐ機能を有している細胞で、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)という糖脂質によって活性化します。研究チームはこれまで、樹状細胞にα-GalCerを添加して注射すると、NKT細胞が活性化し、がんを抑えるという免疫反応を利用して、臨床応用を目指した研究を進めてきました。
 研究チームは、この研究で、最近、がん細胞にα-GalCerを添加して静脈注射した場合にも、がんを抑制することを発見しました。具体的には、マウスの悪性黒色腫(B16メラノーマ)というがん細胞を、α-GalCerを加えた培養液で培養してから、マウスに静脈注射したところ、この投与したB16メラノーマは肺転移を起こすことなく、ほぼ完全に抑制されることを明らかにしました。このマウスは6ヶ月以上にわたって100%の生存率を示しました。研究チームは、NKT細胞が多く存在する肺の腫瘍で、この抗腫瘍効果が成り立つことを示し、この仕組みが、NKT細胞を介した自然免疫の活性化によるものであることを明らかにしました(図1)(Journal of Immunology, 2007, 178: 2853-2861)。一方、α-GalCerを添加して培養したB16メラノーマを、NKT細胞の少ない部位である皮下に投与しても、抗腫瘍効果は見られませんでした。


2. 研究手法と成果
 α-GalCerを添加して培養したB16メラノーマを静脈注射し、2週間後以降に腫瘍細胞を皮下注射したところ、驚くべきことに、6ヶ月以上の長期にわたって黒色腫が生じなくなりました(腫瘍サイズ:対照群600mm2、投与群0mm2)(図1)。
 また、マウスの形質細胞腫(J558)や胸腺腫(EL4)といった他の種類のがん細胞をα-GalCerを添加して培養し、静脈注射した場合にも、接種したがん細胞への抵抗性を認めることができました。このようながん細胞への持続的な抵抗性は、この免疫療法を用いたがんに対してだけ起こり、それ以外のがん細胞に対しては抵抗性を獲得しませんでした。これは、静脈注射によって、マウスの免疫応答が誘導されたことを示しています。がん細胞をワクチン接種する革新的な免疫療法といえます。
 そこで、研究チームは、この免疫療法のがん抑制効果の仕組みを調べました。T細胞を遺伝的に欠損したマウスに、α-GalCerを添加したがん細胞を静脈注射しても、がん細胞に対する抵抗性は獲得できませんでした。これは、この新たな免疫療法に用いるがんワクチンがT細胞による獲得免疫を利用していることを示しています。さらに、これらの免疫療法を受けたマウスには、種々の腫瘍抗原に対して各々反応する抗腫瘍T細胞が誘導されることが判明しました。次に、静脈注射したマウスから樹状細胞を取り出し、他のマウスに移植しました。すると、樹状細胞の移植を受けたマウスでは、静脈注射したがんに特異的なT細胞が増えていることがわかりました。樹状細胞は、がん特異的な抗原をT細胞に示し、それを目印にT細胞ががん細胞を殺すことができるようにしていました。また、α-GalCerを添加したがん細胞を静脈注射する前にNKT細胞を除去したマウスは、がん細胞への抵抗性、すなわち免疫応答を示しませんでしたが、静脈注射の3〜5日後にNKT細胞を除去した場合には、免疫応答が誘導され、がん細胞への抵抗性を獲得していました。これらの結果から、NKT細胞の働きによる生体内の樹状細胞の完全成熟化が鍵を握っていて、この活性化した樹状細胞が、腫瘍抗原を効率よくT細胞に提示し、抗腫瘍T細胞を誘導していることが判明しました(図2)。


3. 今後の展開
 がん細胞にα-GalCerを添加して静脈注射するこの新しい方法は、NKT細胞を利用して獲得免疫を賦活化し、がん細胞への抵抗性を誘導する生体の免疫機能を活用するものです。以前の結果とあわせると、この新しい治療法は、自然免疫と獲得免疫の両方を活性化する画期的な方法と考えられます。
 従来の、樹状細胞に特定の腫瘍抗原を発現させてから体内に戻す手法と異なり、この手法は、体内の樹状細胞を利用する点を特徴としています。このため、がん細胞に発現している複数のがん抗原を樹状細胞に提示させることも可能です。
 今後、がん細胞を容易に得ることができる、例えば白血病などの血液系腫瘍へのがん免疫療法への応用が期待できます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  免疫細胞移植戦略研究ユニット ユニットリーダー
   藤井 眞一郎(ふじい しんいちろう)

Tel: 045-503-7062 / Fax: 045-503-7061
 横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 NKT細胞
NK細胞、B細胞、T細胞に加えて、第4の新しいリンパ球系列の細胞と呼ばれる。アレルギー疾患、がん転移、自己免疫疾患を制御する機能を持つ中核的な免疫制御細胞。
※2 樹状細胞
樹状突起をもつ白血球。微生物の排除やTリンパ球に異物の情報を伝える細胞(抗原提示細胞)としてはたらき、免疫反応の本質的な司令塔としての役割を担っている。
※3 担がん状態
体内にがんを持つ状態のこと。
※4 α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)
NKT細胞だけを活性化する糖脂質リガンドの一つである。沖縄に生息する海綿の一種、Agelas mauritianusから得られた。


>>拡大図
図1 α-GalCerを提示させた腫瘍細胞投与による自然免疫及び
獲得免疫による抗腫瘍免疫
α-GalCerを提示させた腫瘍細胞を静脈内投与すると、自然免疫リンパ球であるNKT細胞、NK細胞の活性化により、肺転移を拒絶できる(i)。このα-GalCerを提示した細胞自体を直接皮下に接種しても腫瘍は抑制できない。しかしながら、いったん静脈内投与した後に、皮下接種すると腫瘍は拒絶されるようになる(ii)。これは、獲得免疫が誘導された為である。


図2 α-GalCerを提示させた腫瘍細胞投与による自然免疫及び
獲得免疫の誘導機構
  1. α-GalCerを提示させた腫瘍細胞は、NKT細胞、NK細胞をCD1d拘束性に活性化する。

  2. 活性化したNKT細胞、NK細胞は腫瘍細胞を殺傷する。

  3. 生体内樹状細胞は、この細胞片を取り込み、腫瘍抗原をMHCクラスI、IIに発現させると同時にNKT細胞の刺激を受け、成熟化する。

  4. 成熟樹状細胞は、抗原特異的にT細胞を活性化し、獲得免疫を誘導し抗腫瘍効果を発揮する。

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