プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
造血幹細胞移植の拒絶反応を防ぐ新規治療法が大きく前進
- 制御性樹状細胞を用いてマウスの慢性移植片対宿主病の治療に世界で初めて成功 -
平成19年10月17日
◇ポイント◇
  • 慢性移植片対宿主病の抑制に樹状細胞と制御性T細胞が関与
  • 制御性樹状細胞の投与で慢性移植片対宿主病を治療
  • ヒトの慢性移植片対宿主病に新たな治療法を提示
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、白血球の一種である樹状細胞※1の機能を制御する手法を確立し、マウスの慢性移植片対宿主病の治療に世界で初めて成功しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)樹状細胞機能研究チームの佐藤克明チームリーダーらによる研究成果です。
 骨髄移植などで用いられている造血幹細胞の移植は、白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍や、重症再生不良性貧血、先天性免疫不全症などの疾患に対する治療法です。治療効果が高い治療法として利用されていますが、その合併症として発生する移植片対宿主病(GVHD)が問題となっています。GVHDは、移植した造血細胞中に含まれる提供者(ドナー)の免疫細胞の1つであるT細胞が、患者の体を異物と認識し免疫拒絶反応を引き起こす、細胞の移植に伴う病気です。GVHDは、移植後約100日以内の早期に発症する急性GVHDと、100日以降に発症する慢性GVHDに分けられており、重篤な場合には死に至ることもあります。急性GVHDと慢性GVHDの治療法では、ともに免疫抑制剤が用いられていますが、慢性GVHDでは、急性GVHDと比べて十分な治療効果が得られていません。
 今回の研究では、マウス異系骨髄移植※2モデルを使い、研究チームが開発した免疫機能を修飾した樹状細胞「制御性樹状細胞※3」を投与する治療法が、ドナー由来の「制御性T細胞※4」の誘導を介してドナーT細胞の活性化を阻止し、慢性GVHDに対して治療効果をもたらすという結果を得ました。今回マウスに用いた制御性樹状細胞は、ヒト制御性樹状細胞でも試験管内で免疫調節機能が確認されていることから、慢性GVHDの画期的な治療法につながる可能性があります。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Blood』に近く掲載予定です。


1. 背 景
 骨髄移植などの造血幹細胞移植は、白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍や、重症再生不良性貧血、先天性免疫不全症などの疾患に対する治療法ですが、その合併症として移植片対宿主病(GVHD)の発症が問題となっています。GVHDの発症は、移植された造血細胞中に含まれるドナーの異系反応性T細胞※5がレシピエント患者の体にある樹状細胞などの抗原提示細胞を異物と認識して活性化することが原因となります。GVHDは、移植後約100日以内の早期に発症する急性GVHDと、100日以降に発症する慢性GVHDに分けられます。急性GVHDは、皮膚、消化管、肝臓の3つの臓器に症状がでるもので、それぞれ皮疹、下痢、黄疸が主症状となります。また、慢性GVHDは、皮膚、口腔、眼球結膜、肺気管支、肝臓、消化管など多くの臓器や組織に病変が起こり、膠原病と似た状態になります。これらGVHDの重篤な場合では、死に至ることもあります。現在、急性GVHDと慢性GVHDの治療法では、ともに免疫抑制剤投与などの対処療法にとどまり、特に慢性GVHDでは本質に迫る治療はなく、十分な治療効果が得られていません。


2. 研究手法
 マウス慢性GVHD※6は、放射線照射したレシピエントマウスに異系ドナーマウスの骨髄細胞(1x107個/1匹)とT細胞を(2x106個/1匹)を尾静脈内に移植します。移植後、18日目から皮膚病変として脱毛、消化管病変として下痢と体重減少が観察されます。マウス慢性GVHDの評価として、脱毛および下痢の発症度(発症マウス/移植マウス)と皮膚での脱毛面積(脱毛面積 0cm2:スコア= 0、脱毛面積 <1cm2:スコア= 1、脱毛面積 1〜2cm2:スコア= 2、脱毛面積 >2cm2:スコア= 3)を重症度として計測しました。
 移植後、レシピエントマウスに、免疫抑制剤のラパマイシンまたは制御性樹状細胞を投与し、治療の効果を観察しました。免疫抑制剤のラパマイシン投与群では、レシピエントマウスに毎日、体重1kgあたり1.5 mgのラパマイシンを移植後16日間連続投与しました。制御性樹状細胞投与群では、レシピエントマウスに1回あたり2x106個の制御性樹状細胞を移植後2日目、9日目、16日目の合計3回投与しました。対照群は、未処置のレシピエントマウスとしました。移植後120日間、これら各実験群のマウスの慢性GVHDの症状の程度を観察しました。


3. 研究成果
 未処置群では、移植後18日目から36日目までに9割のレシピエントマウスで重症度を伴う慢性GVHDの発症が認められました(図1)。ラパマイシンの移植後16日間連続投与では、未処置群と同様に移植後18日目から36日目までに9割のレシピエントマウスで重症度を伴う慢性GVHDの発症が認められ(図1)、治療効果はほとんど確認できませんでした。一方、制御性樹状細胞の移植後3回の投与では、慢性GVHDの発症が移植後30日目以降2割にとどまり、これら発症マウスについても重症度が著しく軽減していました(図1)。さらに、制御性樹状細胞投与群では、ドナー由来の制御性T細胞が正常マウスと比較して約3倍増加し、制御性T細胞のマーカー分子であるCD25の抗体(抗CD25抗体)投与により制御性T細胞を除去すると、その治療効果が著しく低下しました。このことから制御性樹状細胞の慢性GVHDに対する治療効果は、制御性樹状細胞により誘導されたドナー由来の制御性T細胞が、異系反応性ドナーT細胞の活性を阻害する効果によるものであることが明らかとなりました。


4. 今後の期待
 研究チームは、マウス制御性樹状細胞を用いた免疫細胞療法によりマウス異系骨髄移植モデルで急性GVHDが完治することを、2003年に米国の科学雑誌『Immunity』3月号(vol.18, pp.367-379, 2003)で公表しています。さらに、ヒト制御性樹状細胞でも、試験管内でマウス制御性樹状細胞と同じ免疫制御機能を示すことを、2003年に米国の科学雑誌『Blood』5月号(vol.101, pp.3581-3589, 2003)で公表しています。こうしたことから、本研究成果は、急性GVHDとともに慢性GVHDの画期的な治療法につながる可能性が期待されます。今後は、制御性樹状細胞の免疫疾患への臨床開発をすすめるとともに、制御性樹状細胞に存在する免疫調節分子をターゲットとした分子標的治療の開発を進める予定です。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  樹状細胞機能研究チーム
   チームリーダー  佐藤 克明(さとう かつあき)

Tel: 045-503-7013 / Fax: 045-503-7013
 横浜研究所 研究推進部

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 樹状細胞
樹状突起をもつ白血球で、多くの亜集団がある。微生物の排除やT細胞に異物の情報を伝える細胞(抗原提示細胞)としてはたらき、免疫反応の本質的な司令塔としての役割を担っている。
※2 マウス異系骨髄移植
放射線照射したレシピエントマウスに、異なる系統のドナーマウスの骨髄細胞や骨髄細胞とT細胞を移植すること。移植拒絶反応には、主要組織遺伝子複合体分子(MHC分子)である主要組織抗原とマイナー組織抗原が関与する。同系統の骨髄移植(同系骨髄移植)ではレシピエントマウスに移植拒絶反応は起こらない。主要組織抗原とマイナー組織抗原が異なるマウス異系骨髄移植では、レシピエントマウスに急性GVHDが発症し、主要組織抗原が同じでマイナー組織抗原が異なるマウス異系骨髄移植では、レシピエントマウスに慢性GVHDが発症する。
※3 制御性樹状細胞
強力な免疫抑制能を示す樹状細胞。佐藤克明チームリーダーらが2003年に開発した。ヒトやマウスの造血幹細胞・末梢血単球をもとに、骨髄球系細胞増殖因子と複数の免疫抑制性サイトカインを用いた培養により、試験管内で作製される。マウスでは、T細胞機能を調節して自己免疫病や移植拒絶反応を阻止する効果が示されている。
※4 制御性T細胞
CD4陽性T細胞の5〜10%を占めるT細胞亜集団で免疫抑制能を示す。膠原病などの免疫病の発症を阻止することが示されている。制御性T細胞を特定するマーカー分子は、表面抗原分子のCD25と転写因子のFoxp3である。
※5 異系反応性T細胞
異なる系統マウスの主要組織抗原とマイナー組織抗原を発現する抗原提示細胞に反応して活性化するT細胞。異系反応性ドナーT細胞は、多量の炎症因子の産生や組織傷害によりGVHDを引き起こす。
※6 マウス慢性GVHD
マウスの場合、急性GVHDと慢性GVHDはどちらも運動能力の低下、下痢、体重減少が共通して認められる。しかしながら、マウス急性GVHDではこれらの臨床症状は移植後早期(移植後5日位)に認められ、状態としては体が弓なりになって全体的に毛羽立ち、移植後10〜20日位までに全例死亡する。一方、マウス慢性GVHDではこれらの臨床症状は移植後18日目以降に認められ、急性GVHDと異なり皮膚での脱毛が顕著に観察されるが、移植後120日間では死亡個体はほぼ認められない。


図1 異系骨髄移植による慢性GVHDに対する制御性樹状細胞の効果

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