プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
アレルギー性喘息を防ぐ新規治療法が大きく前進
- 制御性樹状細胞を用いてマウスのアレルギー喘息の治療に世界で初めて成功 -
平成19年10月17日
◇ポイント◇
  • アレルギー喘息の抑制に樹状細胞と制御性T細胞が関与する仕組みを解明
  • 制御性樹状細胞の投与でアレルギー喘息を治療
  • ヒトのアレルギーに新たな治療法の可能性
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、白血球の一種である樹状細胞※1の機能を制御し、マウスのアレルギー喘息を抑制することに世界で初めて成功しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)樹状細胞機能研究チームの佐藤克明チームリーダーらによる研究成果です。
 アレルギー疾患は、この20年間で先進国を中心に急激に増加し、今やわが国の国民の30%が罹患していると言われています。アレルギー疾患の治療では、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、気管支拡張薬、免疫抑制薬を用いた対処療法が行われていますが、奏功性を高め、副作用を克服することが課題となっています。さらに、難治性の喘息・アトピー性皮膚炎は、これらのアレルギー治療薬では十分な治療効果が得られません。このため、副作用を軽減した奏功性の高いアレルギー疾患治療法の確立が切望されています。
 研究チームは、マウスアレルギー喘息モデルを活用し、独自に開発した免疫機能を修飾した樹状細胞「制御性樹状細胞※2」を静脈注射で投与すると、「制御性T細※3」の誘導を介してアレルギー抗原※4特異的なTh2細胞※5の活性化を阻止し、アレルギー性喘息を治癒する効果をもたらす、という結果を得ました。今回マウスに用いた制御性樹状細胞は、ヒト制御性樹状細胞でも試験管内で免疫調節機能が確認されており、難治性アレルギー疾患の画期的な治療法につながる可能性があります。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『JOURNAL OF ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY』に近く掲載予定です。


1. 背 景
 アレルギー疾患は、この20年間で先進国を中心に急激に増加し、今やわが国の国民の30%が罹患していると言われています。スギ花粉症などはその一例ですが、このアレルギー疾患の治療には、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、気管支拡張薬、免疫抑制薬を用いた対処療法が中心です。これらは、根本的な治療法にはならず、奏功性の向上や副作用の克服が課題となっています。さらに、これらのアレルギー治療薬では、難治性の喘息・アトピー性皮膚炎に対する治療効果が十分に得られません。このため、現在、免疫の根本に迫り、副作用を軽減した奏功性の高いアレルギー疾患治療法の確立が切望されています。


2. 研究手法
 マウスにアレルギー抗原として卵白アルブミン(OVA)を体重20グラムあたり10マイクログラム、さらに免疫反応を増強するために免疫強化剤である水酸化アルミニウムゲル(Alum)を体重20グラムあたり2ミリグラム、ともに腹腔内投与して初回免疫を行いました。この時、免疫の獲得判定は、T細胞の抗原特異的活性化や抗体産生の上昇を指標として実施しました。その42日後に、同様の措置をして、2回目の免疫を行いました。
 免疫したマウスに、1回あたり1x106個の制御性樹状細胞を初回免疫後21日目、28日目、35日目の合計3回投与しました。この制御性樹状細胞投与群に対し、免疫した後何も処置しない未処置のマウスを対照群としました。
 一方、初回免疫後49日目から1週間、毎日OVA吸入を実施してマウスを感作し、アレルギー性喘息を誘発しました。OVA吸入最終日にアレルギー性喘息の評価として、気道組織の観察、気道洗浄液中の好酸球数※6の測定、気道抵抗性※7を測定しました。


3. 研究成果
 免疫していない正常マウスでは、OVA吸入によってアレルギー性喘息は発症せず、気道組織の炎症像(図1左)、好酸球、気道抵抗性が認められませんでした。免疫した後未処置の対象群では、OVA吸入による気道組織の炎症像(図1中)、好酸球の増加、気道抵抗性の上昇が顕著に認められ、喘息の症状が顕著となりました。一方、制御性樹状細胞を初回免疫後3回投与したマウス群では、OVA吸入による気道組織の炎症像(図1右)が著しく軽減し、好酸球の増加や気道抵抗性の上昇がほぼ完全に抑制されていました。脾臓中の免疫細胞の割合を測定したところ、制御性樹状細胞投与群では、制御性T細胞が正常マウスと比較して、約3倍増加していることを確認しました。制御性T細胞のマーカー分子であるCD25の抗体(抗CD25抗体)を体重20グラムあたり250マイクログラム投与することにより、制御性T細胞を除去したところ、その治療効果が著しく低下しました。
 このことから、制御性樹状細胞のアレルギー性喘息に対する治療効果は、制御性樹状細胞により誘導された制御性T細胞が、アレルギー抗原特異的なTh2細胞の活性を阻害する効果によるものであることが明らかとなりました。この制御性樹状細胞による免疫抑制効果は、制御性樹状細胞の最終投与後、少なくとも150日間は持続することも確認しています。


4. 今後の期待
 研究チームは、ヒト制御性樹状細胞でも、試験管内でマウス制御性樹状細胞と同じ免疫制御機能を示すことを、2003年に米国の科学雑誌『Blood』5月号(vol.101, pp.3581-3589, 2003)で発表しています。アレルギーの発症機構は病態に関わらず、アレルギー抗原に特異的なTh2細胞の活性化が引き金となっています。このため、制御性樹状細胞の免疫抑制効果を考慮すると、喘息以外のアレルギー疾患、アトピー性皮膚炎などの疾患に対しても有効と考えられます。こうしたことから、本研究成果は、難治性アレルギー疾患の画期的な治療法につながる可能性があります。今後は、制御性樹状細胞の難治性アレルギー疾患への臨床開発を進めるとともに、制御性樹状細胞に存在する免疫調節分子をターゲットとした分子標的治療の開発を行う予定です。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  樹状細胞機能研究チーム
   チームリーダー  佐藤 克明(さとう かつあき)

Tel: 045-503-7013 / Fax: 045-503-7013
 横浜研究所 研究推進部

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 樹状細胞
樹状突起をもつ白血球で、多くの亜集団がある。微生物の排除やT細胞に異物の情報を伝える細胞(抗原提示細胞)としてはたらき、免疫反応の本質的な司令塔としての役割を担っている。
※2 制御性樹状細胞
強力な免疫抑制能を示す樹状細胞。佐藤克明チームリーダーらが2003年に開発した。ヒトやマウスの造血幹細胞・末梢血単球をもとに骨髄球系細胞増殖因子と複数の免疫抑制性サイトカインを用いた培養により試験管内で作製される。マウスではT細胞機能を調節して自己免疫病や移植拒絶反応を阻止する効果が示されている。
※3 制御性T細胞
CD4陽性T細胞の5〜10%を占めるT細胞亜集団で免疫抑制能を示す。膠原病などの免疫病の発症を阻止することが示されている。制御性T細胞を特定するマーカー分子は、表面抗原分子のCD25と転写因子のFoxp3である。
※4 アレルギー抗原
アレルギー症状をひきおこす異物。タンパク質や金属などがある。
※5 Th2細胞
アレルギー反応を誘導するCD4陽性T細胞亜集団である2型へルパーT細胞。
※6 好酸球
アレルギーの病態をひきおこす白血球で、酸性色素で染色される。健常人ではほとんど検出されないが、アレルギー疾患の罹患者で増加している。
※7 気道抵抗性
アレルギー疾患でさまざまな生理活性物質が細胞から産生される。これらが気道の収縮をひきおこして吸入物に対する抵抗性を上昇させ、喘息の状態となる。


左:正常マウス、中央:未処置の免疫マウス、右:制御性樹状細胞を投与した免疫マウス
図1 アレルギー性喘息の気道炎症に対する制御性樹状細胞の効果

<< 戻る [Go top]
copyright (c) RIKEN, Japan. All rights reserved.