プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
手足の動きを制御する神経回路の左右混線を防ぐ仕組みを解明
- 突然変異マウスの発見から神経回路形成の基本機構の解明まで -
平成19年8月25日
◇ポイント◇
  • ウサギのような歩き方をする突然変異マウスを発見し、その原因遺伝子を同定
  • αキメリンが運動を制御する神経回路の左右混線を防ぐ鍵であることを発見
  • 広範な生命現象で重要な働きをする「エフリン-Ephシグナル伝達機構」に新展開
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、左右の前後肢をそろえてウサギのような歩き方をする突然変異マウスを発見しました。さらに、その原因となる遺伝子を特定し、左右の体の動きを制御する神経回路が、脊髄(せきずい)正中線を越えて混線することを防ぐ機構を解明しました。理研脳科学総合研究センター(甘利俊一センター長)行動遺伝学技術開発チームの岩里琢治 副チームリーダーら及び国立大学法人京都大学、独立行政法人産業技術総合研究所との共同研究による成果です。本研究は、文部科学省特定領域研究「統合脳」及び独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「認識と形成」研究領域の一環として行われました。
 私たちは、左右の手で異なる動きをしたり、左右の足を交互に出して歩いたりすることができます。こうした動きは、左半身と右半身の運動を制御する神経回路が、脊髄の左右で分離しているからこそ可能になります。これらの回路が形成される時期の脊髄では、左右の境界面である正中線にエフリン※1という膜タンパク質が配置されています。一方、神経軸索の先端には、Eph※1というエフリンの受容体が配置されています。そして、正中線に突き当たった軸索先端では、エフリンによって刺激されたEphが軸索内に反発性のシグナルを誘導することで、軸索の伸長が止まることが知られています。しかしながら、エフリンからEphへのシグナルが、どのようにして軸索の伸長をとめるのかは明らかにされていません。
 研究チームでは、特異な歩き方をする突然変異マウスを発見し、そのマウスの運動を制御する神経回路が、脊髄正中線を交差して左右混線していることを見つけました。さらに、順遺伝学と逆遺伝学※2の手法を駆使し、RhoファミリーGタンパク質(Rhoファミリー)※3を不活性化する因子の一つである「αキメリン※4」の遺伝子の欠損が、マウスの異常の原因であることを突き止めました。また、生化学的解析を行い、αキメリンがエフリン-Ephシグナル伝達で鍵となる役割を担うことを明らかにしました。本研究により、運動を制御する神経回路ができるとき、脊髄正中線でエフリンに触れた軸索先端のEphは、αキメリンを介して、Rhoファミリーのメンバーの一つで軸索伸長の"アクセル役"であるRacを不活性化し、"アクセルを放す"ことで軸索伸長を止め、左右の回路が混線することを防いでいることがわかりました。
 エフリン-Ephシグナルは、神経回路形成だけでなく、広範な生命現象で重要な働きをしていますが、いずれの系でもその作用機構はほとんどわかっていません。今回の成果は、エフリン-Ephシグナル伝達機構の理解を大きく進展させるものであり、神経科学、発生・再生医学など幅広い分野の発展に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Cell』(8月24日付け)に掲載されます。


1. 背 景
 神経回路が正常に機能するためには、正しい配線が必要です。成長中の神経細胞の軸索先端は、成長円錐と呼ばれる円錐状の構造を持ちます。それが脳や脊髄の中にあるさまざまな標識に誘導されながら進むべき経路をみつけ、正しい標的までたどり着き、神経回路を形成します(図1)。こうした標識となる物質の中で特に重要なものに「エフリン」という細胞膜結合タンパク質があり、成長円錐の進入を防ぐ"進入禁止"を示す標識の役割を担っています。このエフリンと成長円錐の表面にある受容体「Eph」とが作用することにより、反発性のシグナルが誘導され軸索は伸長を止めます。左右の手足の動きを制御する神経軸索が脊髄の正中線を越えることも、この仕組みによって防がれています(図1)。もし、こうした仕組みが壊れれば、混線した神経回路ができあがり、動物の行動は異常をきたすことになります。
 RhoファミリーGタンパク質(Rhoファミリー)は軸索伸長を制御する鍵となるものですが、その一つであるRhoAは軸索伸長の "ブレーキ役"です。RhoファミリーはRho-GEFという活性化因子によって正の制御を受けますが(図2)、エフリン-EphシグナルがRho-GEF※5の一つであるエフェキシン※6を介してRhoAを特異的に活性化することが報告されています。こうした報告に基づきこれまで広く信じられてきた仮説では、「エフリン-Ephシグナルはエフェキシンを介してRhoAを活性化し軸索伸長を止める」、つまり、車に例えれば、進入禁止の標識で止まるためには"ブレーキを踏めばよい"と考えられていました。
 一方、RhoファミリーのメンバーでもRacは軸索伸長の"アクセル役"です。また、RhoファミリーはRho-GAP※7という不活性化因子によって負の制御を受けます(図2)。したがって、もし、エフリン-EphシグナルがRho-GAPを制御することが可能であれば、それを介してRacを不活性化する、すなわち「"アクセルを放す"ことによって軸索伸長を止められるかもしれない」とも考えられます。しかし、これまでエフリン-EphシグナルがRho-GAPという抑制系を介してRhoファミリーを制御する可能性、およびその重要性はまったく想定されていませんでした。
 さらに、エフリン-Ephシグナルは、軸索誘導だけでなく、幅広い生命現象で重要な働きをしますが、これまでその機構はもっぱら培養細胞を用いた単純かつ人工的な環境で研究されてきました。前出のエフェキシンは培養系では非常に重要な働きをすることが示されています。しかし、そのノックアウトマウスは作製されていますが、特別な異常は示さないことが報告されています。したがって、これまで実際の動物の体の中で、エフリン-Ephシグナルがどのように働いているかについてほとんどわかっていませんでした。


2. 研究手法と成果
(1) 新規突然変異マウスの発見
 研究チームは、マウスの兄妹交配を行う過程で、左右の前後肢をそろえてウサギのように飛び跳ねる歩き方をするマウスを発見し、「miffy(ミッフィー:mfy)変異マウス」と名付けました(図3)。さらにこれが劣性突然変異であることを見いだし、新規の突然変異マウス系統として確立しました。
(2) mfy変異マウスにおける大脳皮質-脊髄回路の異常の発見
 野生型マウスでは、左半身の動きは脳の右半球、右半身の動きは左半球が制御しています。左右の大脳皮質運動野から伸びた神経軸索は延髄で交差し、反対側の脊髄内の白質を下行、それぞれ必要な場所で髄質に入り、筋肉の動きを制御する末梢運動神経と直接あるいは間接的にシナプスを作り接続します。このとき、通常は脊髄内で左右が再び交差して混線するようなことはありません。ところが、mfy変異マウスの大脳皮質-脊髄路をトレーサーで解析した結果、多くの軸索が脊髄正中線を越えて左右混線していることを発見しました(図4)。
(3) mfy変異マウスにおける脊髄内局所回路の異常の発見
 歩行運動のようなリズミカルな運動は、中枢パターン発生器(central pattern generator, CPG)とよばれる脊髄内の局所回路の制御を受けることが知られています。マウスの脊髄を培養しある種の刺激を与えるとCPGの制御によって、野生型では左右の筋肉の動きを支配する神経間で交互の信号を発しますが、mfy変異マウスではこれと異なり、左右で同調した信号を発していました(図5)。どちらもマウスの歩行パターンと一致します。さらに、トレーサーを用いてCPG回路を解析した結果、mfy変異マウスでは多くの軸索が脊髄正中線を越えて左右混線していることを発見しました(図6)。
(4) 原因遺伝子の同定
 連鎖解析※8によって原因遺伝子が存在する位置を染色体上にマッピングし、その領域内に存在する30の候補遺伝子を網羅的に解析しました。その結果、mfy変異マウスのゲノムでは、αキメリンというRac特異的なRho-GAPの仲間の遺伝子が壊れていることがわかりました。
 さらに、以下の実験により、αキメリンがmfy変異の原因遺伝子であることを確認しました。
1) αキメリン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製しました。そのマウスを用いて、mfy変異マウスと交配することにより、変異マウスにαキメリンが導入され、歩行の改善が見られました。
2) ES細胞を用いた遺伝子標的法によって、αキメリン遺伝子のノックアウトマウスを作製し、解析したところ、mfy変異マウスとまったく同様の歩行異常、回路異常を示しました。
(5) シグナル伝達機構の解明
 運動を制御する神経軸索の正中線での交差を防ぐ仕組みには、B3タイプのエフリン(エフリンB3)からA4タイプのEph(EphA4)へのシグナルが重要なことが知られています。αキメリンがこのシグナルに関与する可能性を以下の実験で検証しました。
1) 脳脊髄組織および培養神経細胞を用いて免疫染色を行いました。その結果、EphA4とαキメリンは運動を制御する神経軸索に一緒に存在していることがわかりました。
2) 免疫沈降※9を行い、神経細胞でαキメリンとEphA4が結合していることを見つけました。
3) 培養細胞にEphA4とαキメリンの両方を発現させると、エフリン刺激によってRacの不活性化が誘導できました。しかし、EphA4とαキメリンのどちらか一方が欠ければRac不活性化は起きませんでした。したがって、エフリンB3-EphA4シグナルがαキメリンを介してRacの不活性化をすることが確認できました。
4) EphA4を発現する神経細胞を培養しエフリンB3で刺激すると、成長円錐崩壊(= 軸索退縮)が起きることが知られています。しかし、mfy変異マウス由来の神経細胞やノックダウン法でαキメリンのタンパク量を減らした神経細胞では、この反応が起きにくくなります。したがって、エフリンB3-EphA4のシグナルが成長円錐崩壊を誘導する反応を、αキメリンが媒介していることが明らかになりました。
(6) まとめ
 研究グループは、マウスと培養細胞系にまたがる包括的な解析を行うことによって、エフリン-Ephシグナルが神経回路の混線を防ぐ仕組みを、世界で初めて明らかにしました。成長円錐の表面にあるEphA4が、脊髄正中線においてエフリンB3の"進入禁止"の標識を認識すると、成長円錐内でEphA4に結合しているαキメリンが活性化されます。するとαキメリンは、Racを不活性化します。Racは、成長円錐を前進させる働きをするタンパク質であるため、その働きを抑制すると成長円錐の前進は止まります(図7左)。ところが、mfy変異マウスでは、αキメリンがないため成長円錐は止まることができず、正中線を越えて左右の神経が混線し、両足がそろった歩き方といった運動異常を生じます(図7右)。つまり、運動を制御する神経軸索の伸長を脊髄の正中線で止めるためには、"ブレーキを踏む"ことではなく、αキメリンというRho-GAPを介して、Racというアクセル役を不活性化すること、つまり、"アクセルを放す"ことが鍵であることを見つけました。


3. 今後の期待
 運動を制御する神経軸索が正中線を越えて左右混線すると左右の手足の使い分けができなくなりますが、今回の研究結果から、それを防ぐ仕組みが世界で初めて明らかになりました。このことは、脊髄損傷の再生医療研究においても重要な知見となると考えられます。また、ヒトでも、両手が同時に動いてしまうなどのミラー・ムーブメントを示す遺伝病が数家系知られていますが、いずれでも原因遺伝子はわかっていません。本研究成果がその原因究明の手がかりになる可能性があります。
 また、エフリン-Ephのシグナルは、軸索誘導だけでなく、樹状突起やスパインの形成、記憶学習、体節形成、細胞移動、臓器形成、新脈管形成などさまざまなところで重要な働きをする分子ですが、その仕組みに関してはほとんどわかっていません。主に培養神経細胞を用いた研究からは、さまざまな生命現象においてエフリン-Ephのシグナルは、特異的なRho-GEFを活性化し、それにより特異的なRhoファミリーメンバーを活性化することによって機能していると考えられてきました。つまり、これまでは"アクセルを踏む"、"ブレーキを踏む"という操作だけでアクチン細胞骨格を制御し機能していると想像されてきました。
 一方、キメリンはRho-GAPと呼ばれる分子群のメンバーであり、この分子群はRhoファミリーを不活性化します。つまり、Rho-GAPのメンバーは、"アクセルを放す"、"ブレーキを放す"という働きをします。本研究により、エフリン-Ephシグナルの作用機構に、Rho-GAPという大きな分子群が関与することが初めて明らかになりました。このことは、さまざまな系でのエフリン-Ephのシグナルの働きの理解、関連した病気の治療法の開発にも貢献することが期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 脳科学総合研究センター 行動遺伝学技術開発チーム
  副チームリーダー  岩里 琢治(いわさと たくじ)

Tel: 048-467-9724 / Fax: 048-467-9725
 脳科学研究推進部   嶋田 庸嗣(しまだ ようじ)

Tel: 048-467-9596 / Fax: 048-462-4914

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 エフリンとEph(発音はイーピーエッチまたはエフ)
受容体型チロシンリン酸化酵素であるEphは、EphA1〜EphA9, EphB1〜EphB6からなり、膜結合型タンパク質であるエフリン(エフリンA1〜エフリンA6とエフリンB1〜エフリンB3)との間で双方向性の反発性シグナルを誘導する。エフリン-Ephシグナルは、幅広い生命現象で細胞間コミュニケーションを担い重要な働きをすることが知られている。運動を制御する神経回路を正中線で分離する仕組みにはEphA4とエフリンB3が関与することが知られている。
※2 順遺伝学と逆遺伝学
順遺伝学(フォワード・ジェネティクス)は、「表現型から遺伝子」という古典的な研究手法。最初に表現型(異常)がわかっていて、その原因となる遺伝子を探索するもの。たとえば、ヒトの遺伝病の原因遺伝子探索などがこれにあたる。逆遺伝学(リバース・ジェネティクス)は「遺伝子から表現型」という研究手法であり、遺伝子の機能を知るために、トランスジェニック動物やノックアウト動物などを作ることなどがこれにあたる。
※3 RhoファミリーGタンパク質(Rhoファミリー)
アクチン細胞骨格を制御する鍵となる因子であり、RhoAとRacはその主要メンバー。軸索の伸長および退縮は、成長円錐のアクチン線維の重合および脱重合によって引き起こされる。RhoAはアクチン脱重合を誘導し軸索を退縮させる機能、Racはアクチン重合を誘導し軸索を伸長させる機能を持つ。
※4 αキメリン
Rho-GAP※7のメンバーでRacを特異的に不活性化する。これまで生体での機能は不明だった。
※5 Rho-GEF
RhoファミリーGタンパク質を活性化する機能を持つ分子群。RhoAを特異的に活性化するエフェキシン1もこれに属する。近年、培養細胞を用いた研究で、エフリン-EphシグナルがさまざまなRho-GEFを介してRhoファミリーを活性化していることが報告されている。
※6 エフェキシン
Rho-GEFのメンバーでRhoAを特異的に活性化する。エフェキシンのノックアウトマウスには特別な異常は観察されていないので、生体での機能は不明である。
※7 Rho-GAP
RhoファミリーGタンパク質を不活性化する機能を持つ分子群。Racを特異的に不活性化するαキメリンもこれに属する。これまでエフリン-EphシグナルにRho-GAPが関与することは想定されていなかった。
※8 連鎖解析
順遺伝学で表現型の原因となる遺伝子を探索する手法の一つ。染色体上のマーカー(マイクロサテライトやSNPなど)を利用して遺伝子変異の位置を染色体上にマッピングする。
※9 免疫沈降
AとBの二種類のタンパク質が細胞内で結合しているかどうかを調べるための生化学的な方法の一つ。細胞や組織を溶解し、Aを特異的に認識する抗体を用いてAおよびAと結合するタンパク質を一緒に沈降させる。もし、その中にBが含まれていれば、AとBが結合していると結論づけられる。本研究で用いているような神経細胞や脳組織を用いた免疫沈降は難度が高いが、成功すれば結合していることの強い証拠となる。


図1 脊髄正中線における運動制御系の神経軸索の反発
成長中の神経細胞は標的に向かって軸索を伸ばすが、その先端の成長円錐が脳や脊髄の中にあるさまざまな標識を認識しながら進むべき経路をみつける。エフリンはそうした標識の一つであり、Ephはエフリンの受容体である。運動を制御する神経回路を形成する軸索先端(成長円錐)にはA4タイプのEph(EphA4)があり、脊髄の左右をわける正中線にはB3タイプのエフリン(エフリンB3)が存在する。成長円錐が正中線に突き当たると、エフリンB3からの刺激を受けたEphA4が成長円錐内に反発性のシグナルを誘導することによって、軸索伸長が止まることが知られている。しかし、エフリンB3-EphA4シグナルがどのようにして軸索伸長を止めるのか(反発の生じる仕組み)についてはわかっていなかった。


図2 Rho-GEFとRho-GAP
低分子量Gタンパク質Rhoファミリーは、アクチン細胞骨格を制御する鍵となる分子群であり、Rho-GEFにより活性化、Rho-GAPにより不活性化される。αキメリンはRho-GAPに属する。なお、成長円錐におけるRhoファミリーによるアクチンの重合と脱重合は、それぞれ軸索の伸長と退縮を引き起こす。近年、培養細胞を用いた研究で、さまざまなRho-GEF(エフェキシンなど)がエフリン-Ephシグナル伝達機構で重要な働きをすることが次々と報告され、大きな注目を集めている。一方、エフリン-EphシグナルにおけるRho-GAPの役割はまったく想定されていなかった。


図3 後肢の足跡
野生型マウスは左右の後肢を交互に出して歩くが、mfy変異マウスは両足をそろえてウサギのように歩く。後肢に墨汁をつけて白い紙の上を歩かせた足跡。前肢も似たパターンを示す。


図4 皮質-脊髄路のトレーサー解析
(左図) マウスの脳脊髄の模式図。大脳皮質運動野の脊髄投射神経細胞の細胞体(赤い点)から伸びる軸索(赤い線)は延髄で左右交差し、反対側の脊髄内の白質を下行する。そのとき軸索先端の成長円錐(掌状のもの)がさまざまな標識を認識して軸索を正しい標的まで誘導する。軸索走行の様子を解析するため左側の大脳皮質にBDAというトレーサーを注入した。
(右図) 脊髄の断面。下は模式図。野生型、mfy変異マウスいずれも、軸索(茶色に染まっているもの)は右側の脊髄背側白質を下行し、それぞれ適当な箇所で髄質に入る。野生型の脊髄では軸索は正中線(矢頭)を交差することはないが、mfy変異マウスでは多くの軸索が交差して左右混線が起きている。


図5 脊髄中枢パターン発生器(CPG)回路の電気生理学的解析
(左図) マウス脊髄の模式図。
(右図) 脊髄には歩行のリズムを制御する局所回路(CPG)が存在する。培養脊髄を薬剤で刺激し、矢印(左図)の位置で左右の神経の出力を記録した。野生型では左右交互のリズム、mfy変異マウスでは左右同期したリズムを刻み、いずれも歩行のパターンと一致する。


図6 脊髄CPG回路の軸索走行の解析
DiIというトレーサーを脊髄片側に注入した実験。どちらのマウスでも左右の連絡をする神経軸索の走行に異常はみられない(緑)が、これらの神経細胞はEphA4を発現していない。一方、EphA4を発現する軸索(赤)は野生型では正中線(青い矢頭)を越えないが、mfy変異マウスでは多くのものが正中線を横切っているのがわかる(白い矢印)。


図7 脊髄正中線における運動系神経軸索の反発
(左図) 従来、培養神経細胞を用いた研究から、エフリン-Ephシグナルは、Rho-GEFであるエフェキシン(黄丸)を介して、RhoAというブレーキ役のRhoファミリーメンバーを活性化して、軸索伸長を抑制すると想像されていた。つまり、これまでは、エフリン-Ephシグナルは、"ブレーキを踏んで軸索伸長を止める"と信じられていた。研究グループは、マウス運動制御系と培養神経細胞の両システムにまたがる包括的な解析を行い、αキメリン(緑丸)というRho-GAPを介してRacというアクセル役のRhoファミリーメンバーを不活性化すること、つまり、"アクセルを放す"ことがエフリン-Ephシグナル伝達の鍵であることを見つけた。
(右図) mfy変異マウスでは、エフェキシンの機能は正常でも、αキメリンが欠如することによって、軸索は正中線で止まることができず左右混線する。(一方、エフェキシンのノックアウトマウスの神経回路には、異常がみられないことが報告されている。)

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