プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
理研計算機センターで日本最大規模の
分子動力学シミュレーション専用計算機を運用開始
平成19年3月27日
◇ポイント◇
  • 地球シミュレータの1.5倍の演算性能を一人の研究者が占有して実行可能
  • 理研で開発した専用計算機(MDGRAPE-3)を計算機センターに導入
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)の情報基盤センター(姫野龍太郎センター長)は、64テラフロップス(TFLOPS)※1のピーク性能を持つ分子動力学シミュレーション専用計算機「MDGRAPE※2-3」(エムディーグレープ・スリー)を理研のスーパー・コンピュータ・システム「理研スーパー・コンバインド・クラスタ(略称:RSCC)」に組み込み、理研内の研究者に対し4月2日からサービスを開始します。
 MDGRAPE-3は、横浜研究所(小川智也所長)ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)システム情報生物学研究グループ高速分子シミュレーション研究チーム(泰地真弘人チームリーダー)が開発した専用計算機で、昨年6月世界で初めて1ペタフロップス(PFLOPS)を実現しました。また、MDGRAPE-3を利用した計算が、昨年11月にアメリカ・フロリダ州タンパで開催された国際会議SC2006でゴードンベル※3(ピーク性能部門 Honorable Mention)を受賞しています。
 MDGRAPE-3は分子動力学※4の専用計算機で、今回開始するサービスでは、地球シミュレータ※5の1.5倍の演算性能を一人の研究者が占有して実行することができるようになります。このような利用環境は世界的にも例が無く、薬剤の開発などで行われるタンパク質の分子動力学シミュレーションや、ナノサイエンスでの物質の結晶状態などの解析に威力を発揮することが期待できます。


1. 経 緯
 RSCCは、2004年3月に理研の研究活動を支援することを目的として設置しました。Linuxクラスタを中心にベクトル計算機、専用計算機(導入時はMDGRAPE-2)の3種類の計算機を組み合わせた複合型のシステムで、それぞれの計算機が得意な計算を行うことで、理研のさまざまな研究分野で利用されています。
 Linuxクラスタシステム(総演算性能12.4TFLOPS)は、インテル® Xeon®プロセッサー 3.06GHzを2個搭載したPCサーバを1,024ノード※6(全部で2,048CPU)。ベクトル計算機システム(NEC SX-7/32)は、理論演算性能282.5ギガフロップス(GFLOPS)、主記憶256GB。専用計算機部分はMDGRAPE-2ボードを搭載したLinuxクラスタ(20ノード)となっています。
 Linuxクラスタシステムは、1ノード2CPU(Intel Xeon 3.06GHz)で1,024ノードから成り、5つのセグメントで構成しています。最大のセグメントは512ノード1,024CPU で、各ノード間をInfiniBand(インフィニ・バンド)(双方向通信可能で片方向8Gbps)ネットワークで内部接続しています。残りのノードは128ノード毎に4 つのセグメントを構成し、InfiniBand 接続が1セグメントで、他の3つのセグメントはMyrinet(ミリネット)(双方向通信可能で片方向2Gbps)ネットワークで内部接続しています。さらに、各ノードは通常のGigabit Ethernet(ギガビット・イーサーネット)でも接続されています。このLinuxクラスタシステムは、LINPACK※7ベンチマークプログラムで8.029TFLOPSという非常に高い実効性能を達成し、2004年6月に発表された「TOP500スーパーコンピュータリスト」では世界で第7位、国内では第2位でした(2004年4月21日プレスリリース)。
 3種類の計算機を組み合わせたRSCCは、遺伝子やタンパク質の構造・機能解析等のバイオインフォマティックス分野、流体計算や核物理、量子化学などのコンピュータ・シミュレーションや計算科学など幅広い分野で利用されています。特に創薬などにおけるタンパク質の分子動力学シミュレーションをより高速に処理するために、これまで利用してきたMDGRAPE-2の50倍の性能を持ったMDGRAPE-3を2007年2月に導入、4月2日から理研の研究者へサービスを開始する予定です。


2. 性 能
 MDGRAPE-3は、理研の開発した世界最高速の分子動力学シミュレーション専用LSIチップである「MDGRAPE-3チップ」を24個搭載したユニット16台(計384チップ)で構成されています。理論ピーク性能はMDGRAPE-3ユニット1つあたり4TFLOPS、合計で64TFLOPSとなります。そのため、RSCCシステム全体では、76.5TFLOPSとなります。RSCCでは、2004年3月の導入時からMDGRAPE-2ボード20枚(理論ピーク性能は1.2TFLOPS)を接続した分子動力学シミュレーション専用計算機を運用していましたが、MDGRAPE-3の導入によって理論ピーク性能は50倍となります。


3. 今後の期待
 とくに、MDGRAPE-3の導入によって、大規模な分子動力学によるシミュレーションが可能となります。分子生物学における生命現象の解明、新薬の研究開発、生物に学んだナノマシンの開発などに用いられ、ライフサイエンスやナノサイエンスでのシミュレーションに大きく貢献できるものと期待されます。


< ご参考 >
新RSCCシステムは、2007年4月21日(土)に開催される理研和光研究所一般公開で公開予定です。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 情報基盤センター
  センター長  姫野 龍太郎(ひめの りゅうたろう)

Tel: 048-467-9321 / Fax: 048-462-4634
  先任技師  重谷 隆之(しげたに たかゆき)

Tel: 048-467-9149 / Fax: 048-462-4634

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 フロップス(FLOPS)
フロップス(FLOPS)=1秒間に何回浮動小数点演算ができるかを表す単位。ペタフロップス(PFLOPS)は1015FLOPS=1秒間に1,000兆回、テラフロップス(TFLOPS)は1012FLOPS=1秒間に1兆回、ギガフロップス(GFLOPS)は109FLOPS=1秒間に10億回の演算を行う能力を現す。
※2 MDGRAPE
東京大学が1989年から天文シミュレーション計算機GRAPEを開発。その後、理研は同 システムをベースに分子動力学専用システムとしてMDM(MDGRAPE-2)を開発、2004年8月には世界最高速のMDGRAPE-3チップを開発した。 さらに、2006年6月にはMDGRAPE-3チップを計4,808チップ用いて1ペタフロップス(1秒間に1,000兆回の演算を行う能力)を実現する分子動力学シミュレーション専用コンピュータ・システムの開発に成功した(2006年6月18日記者発表)。2006年11月にはその一部を使ったシミュレーションで、汎用計算機に換算したときの実効計算性能185テラフロップスを達成した成果により2006年のゴードンベル賞(ピーク性能部門 Honorable Mention)を受賞した(2006年11月17日記者発表)。
※3 ゴードンベル賞
ゴードンベル賞は、その年に行われた最高の高性能実用計算、最高の価格あたりの実用計算に与えられる賞で、1987年に始まった権威ある賞である。ゴードンベル賞には、4つの部門があるが、毎年全ての部門で表彰が行われるわけではなく、表彰するに値する論文がある時に、表彰が行われる。4つの部門は、次のとおり。
  1. Peak performance based on sustained floating point operations per second
  2. Price per performance ratio measured in sustained flop/s per dollar of acquisition cost
  3. Special accomplishment for innovation in scalable implementation
  4. Scalability achieved through language construct
※4 分子動力学
多体の原子間ポテンシャルの下で系の静的、動的安定構造や、動的過程(ダイナミクス)をコンピュータ・シミュレーションによって解析する手法。
※5 地球シミュレータ
NECが開発した多目的型では世界最速(2003年現在)を誇るベクトル型並列スーパーコンピュータ。総プロセッサー数5,120個、最大理論演算性能は40TFLOPSに及ぶとされている。コンピュータ内に仮想地球を作り、大気や海水、地殻の状態を高速かつ高精度にシミュレーションでき、中長期的な環境変動や災害などの予測、解明に使用される。また、バイオ・ナノなど先進分野でも利用されている。
※6 ノード
Linuxクラスタシステムを構成する一台一台のコンピュータ(PC)のこと。
※7 LINPACK
LINPACK とは,米国のテネシー大学のJ.Dongarra 博士によって開発されたLU 分解による連立一次方程式の解法プログラムであり、スーパーコンピュータの世界的な順位を示すTop500リスト(毎年6月と11月に発表)を作成するためのベンチマークとして用いられている。


写真1
RSCCに接続したMDGRAPE-3(手前のラック)

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