◇ポイント◇
- 放線菌二次代謝産物リベロマイシンAに骨粗鬆症治療効果があることを発見
- 骨破壊細胞だけを細胞死に導き独特な薬理効果を発揮
- マウスの実験で骨破壊をおよそ60%抑制する効果を確認
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と中部大学(山下興亜学長)は、日本薬科大学、東京工業大学、ノースウェスタン大学と共同で、放線菌が作り出す「リベロマイシンA※1(図1)」に骨粗鬆症の治療効果があることを発見し、その作用機序を明らかにしました。中央研究所(茅幸二所長)長田抗生物質研究室長田裕之主任研究員、川谷誠基礎科学特別研究員、中部大学応用生物学部禹(ウ)済(ゼ)泰(テ)教授、日本薬科大学健康薬学科新木敏正教授らの研究グループとの共同研究で、文部科学省産学官連携イノベーション創出事業費補助金の助成を活用し進めてきた成果です。
骨粗鬆症は骨がスカスカになり骨折しやすくなる疾患で、加齢や女性の場合は特に閉経などが原因で発症すると考えられています。通常、骨は骨(カルシウムなど)を吸収(分解)する破骨細胞※2と骨を形成する骨芽細胞の働きがバランスよく制御されていますが、骨粗鬆症の患者ではそのバランスが崩れ、破骨細胞の働きが亢進しています。研究グループは、がんの治療薬として研究中の化合物リベロマイシンAが破骨細胞に選択的に細胞死(アポトーシス、細胞の自殺)を導き、骨吸収を阻害することを明らかにしました。さらに、骨粗鬆症モデル動物である卵巣摘出マウスにこの化合物を作用させ、骨破壊がおよそ60%抑制されるという治療効果を実証しました。この作用効果を分子レベルで調べた結果、リベロマイシンAは破骨細胞が骨を吸収する際に骨との接触面に作り出す酸性環境を利用して、破骨細胞内に選択的に取り込まれ細胞死を引き起こす環境を整えていることが明らかになりました。さらに、リベロマイシンAは細胞内で標的分子であるイソロイシルtRNA合成酵素の活性を阻害し、タンパク質合成阻害を介してアポトーシスを誘導していました。
今後リベロマイシンAの臨床応用が進めば、高齢社会を迎えたわが国で1,000万人を超す骨粗鬆症患者の新たな治療薬として国民医療に貢献すると期待されます。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America : PNAS』に掲載されるに先立ち、オンライン版(3月6日の週)に掲載予定です。
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背 景 |
高齢社会を迎えた日本では、骨粗鬆症患者は1,000万人を超え、その予防や病気の克服が社会的にも大きな問題となっています。現在、ビスホスホネート製剤※3が骨粗鬆症の第一選択薬として臨床で広く使用されていますが、骨への長期蓄積性(3年から10年、またはそれ以上)や顎骨壊死の副作用発現などが懸念されており、新しいタイプの治療薬開発が求められています。
リベロマイシンAは、もともと癌細胞の増殖抑制活性を指標に放線菌の培養液から長田らが初めて発見した低分子化合物(分子量は660)です。この生物活性の解析を進める過程で、癌細胞の増殖を抑制する数十から数百倍という低濃度で、破骨細胞に選択的にアポトーシスを誘導することを見出しました。破骨細胞は、骨粗鬆症の発症や進行に中心的な役割を担っていることから、私たちはこのリベロマイシンAの新たな活性について詳しく調べました。
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方法と結果 |
培養細胞での効果を調べる実験では、リベロマイシンAを培養液中に添加し、分子生物学的手法により解析しました。動物実験では、リベロマイシンA(1 mg/kg)を1日2回連日皮下投与し、骨の様子を組織染色法や種々の骨構造解析手法を駆使して調べました。その結果、リベロマイシンAは、骨芽細胞や破骨細胞前駆細胞を含む種々の細胞のなかで骨吸収能を有する活性化(成熟)破骨細胞に選択的にアポトーシスを誘導し、試験管内実験(in vitro)および生体実験(in vivo)の両方で骨吸収を阻害しました(図2)。
また、骨粗鬆症モデルである卵巣摘出マウスを使った実験では、リベロマイシンAがエストロゲン欠乏によって誘導される骨量の低下をおよそ60%抑えるという効果をもたらしました(図3)。ラジオアイソトープ[3H]標識体を使った分子イメージングの検討から、リベロマイシンAは種々の細胞のなかで活性化破骨細胞にのみ顕著に細胞内に取り込まれ、さらにこの細胞内取込みは活性化破骨細胞が自ら作り出す酸性環境に依存したものであることをつきとめました。すなわち、リベロマイシンAは三つのカルボキシル基(COOH)を持ち、血中でこのプロトン(H+)がはずれて通常の細胞には取り込まれにくい高極性型になっていますが、活性化破骨細胞の酸性環境によりプロトン化され、極性を失うことで細胞膜透過性が増大し、その結果活性化破骨細胞に選択的に取り込まれていく過程を明らかにしました。
さらに、細胞内でリベロマイシンAは標的分子のイソロイシルtRNA合成酵素の活性を阻害し、タンパク質合成阻害を介してアポトーシスを誘導していたこともつきとめました(図4)。
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今後の期待 |
| このように、リベロマイシンAは、骨粗鬆症の実行役である破骨細胞を狙い討つまさに“魔法の弾丸”です。最近の研究により、破骨細胞の骨吸収亢進が骨粗鬆症だけでなく、癌の骨転移や関節リウマチなど様々な疾患の発症や進行に深く関わっていることが明らかになっています。実際、徳島大学ヘルスサイエンス研究部曽根三郎教授らとの共同研究で、リベロマイシンAが癌の骨転移を抑制することも明らかにしています。今後、リベロマイシンAのトランスレーショナルリサーチが進み、これら疾患の治療薬として実用化できれば、国民医療に大きく貢献すると期待されます。 |
| (問い合わせ先) |
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独立行政法人理化学研究所 |
| 中央研究所 長田抗生物質研究室 |
| 主任研究員 長田 裕之 |
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| Tel | : |
048-467-9541 |
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Fax | : |
048-462-4669 |
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| 中部大学応用生物学部応用生物化学科 |
| 教授 禹 済泰 |
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| Tel | : |
0568-51-6189 |
/ |
Fax | : |
0568-52-6594 |
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| (報道担当) |
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独立行政法人理化学研究所 広報室 |
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<補足説明>
| ※1 |
リベロマイシンA |
| 放線菌Streptomyces sp. SN-593株から単離されたポリケチド化合物。イソロイシルtRNA合成酵素を標的分子とし、真核細胞のタンパク質合成を阻害する作用がある。トリカルボン酸化合物(酸性物質)であるため、酸性環境を作り出す活性化破骨細胞に選択的に作用する。 |
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| ※2 |
破骨細胞 |
| 二から数十の核を持つ多核巨細胞で、骨を溶解(吸収)する細胞。単球/マクロファージ系細胞から分化すると考えられており、発生した前駆破骨細胞は単核破骨細胞へと分化し、最終的にいくつかの破骨細胞が融合し、多核の成熟(活性化)破骨細胞が形成される。破骨細胞には極性があり、骨表面に接した細胞膜には明帯と波状縁と呼ばれる構造がある。波状縁はカテプシンKのようなプロテアーゼや酸(H+)を分泌し骨基質を溶解する。 |
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| ※3 |
ビスホスホネート製剤 |
| ピロリン酸のP-O-P構造をP-C-Pに変換することで、アルカリホスファターゼなどの生体内酵素による分解を受け難くした化合物。炭素原子の2本の側鎖に様々な化学基を付加できるため、様々な化合物が開発されている。ピロリン酸と同様に、ビスホスホネートには骨の構成成分であるヒドロキシアパタイトとの強い結合性がある。ビスホスホネートは、破骨細胞もしくはその前駆細胞に作用して骨吸収を阻害する。その作用機序としては、破骨細胞への分化抑制、破骨細胞への細胞毒性・細胞内器官破壊、破骨細胞の骨への接着阻害などが示されている。 |
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| 図1 リベロマイシンAの化学構造 |
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| 図2 リベロマイシンAの破骨細胞に対する影響 |
| 低カルシウム食で飼育した骨吸収亢進ラットに生理食塩水あるいはリベロマイシンAを投与し、頸骨切片をTRAP染色した。矢印はTRAP陽性破骨細胞を示す。 |
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| 図3 リベロマイシンAの骨粗鬆症モデル(卵巣摘出)動物に対する治療効果 |
| マウスの卵巣を摘出(OVX)し、生理食塩水あるいはリベロマイシンAを1ヶ月間投与した。写真は大腿骨の軟X線像。白枠内は海綿骨部分を示している。リベロマイシンA投与マウスでは海綿骨の骨量減少が抑制されている。 |
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| >>拡大図 |
| 図4 リベロマイシンAの活性化破骨細胞に対する推定作用メカニズム |
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