独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、平成17年12月22日付けで「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」を制定しました。
研究不正行為に対する対応措置について、事前の研究者自身の倫理涵養に重きを置き、これら問題が発生した際は、組織として、適正かつ厳正な対応をし、不正が認定された場合は原則公表するということにより、問題を隠蔽することなく一般社会への説明責任を果たします。
また、この基本的対応方針に先んじて理研科学者会議※1は、平成17年11月2日付けで「科学研究における不正行為とその防止に対する声明」※2を発表しています。
一昨年冬、理化学研究所では、研究所職員が発表した研究論文に不正があったことを公表しています。このような不正に対する深い反省と社会的責任の自覚から、「研究不正」を許さないとする声明について科学者自らが発議をし、また、研究所として「不正行為」に対する方針を定めました。
今後、このような科学研究上の不正が起こりにくい体制を構築し、理研全体の意識改革を図るとともに、やる気のある科学者が誇りを持って研究活動が出来、社会に役立つ研究成果が生み出せるよう、日々努める所存です。
| 1. |
制定の経緯等 |
平成16年8月に理研内部研究者により研究論文の不正発表疑惑について内部告発があり、調査委員会による調査の結果、2本の論文について不正があり、1本については不正があった可能性が高いことを確認しました。同年12月にこの問題を公表した際、今後の再発防止対策として「科学研究の不正行為」に対する理研の基本的考え方の策定を約束しています。
平成17年4月、所内リスク等の防止と告発対応業務等を担当する監査・コンプライアンス室を本部に設置し、不正行為防止策等について、さまざま検討が重ねられました。
その結果、理研科学者コミュニティである理研科学者会議から「科学研究における不正行為とその防止に対する声明」が発表され、科学者自らが研究不正の問題に対して強く関心を払い、不正問題に対して断固とした姿勢が打ち出されました。
理研としては、研究不正を未然に防止する為の方策ならびに研究不正が疑われる問題が起こったときの事後対応策等について「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」を制定しました。
|
| 2. |
科学研究上の不正行為への基本的対応方針【全文】 |
平成17年12月22日 理事会決定事項
科学研究上の不正行為への基本的対応方針
- はじめに
科学研究上の不正行為は、科学者として倫理にもとる行為であり、それゆえ、これを行った研究者は倫理的に非難される。しかも、これにとどまらず、独立行政法人理化学研究所(以下「研究所」という。)に所属する研究者が不正行為を行うことは、職員の体面を汚すとともに、研究所に対する名誉と信用を著しく傷つけることにより、研究所に重大な損害を与えるものである。
本基本的対応方針は、研究所に所属する研究者らによる研究不正の防止を図ること及び研究所において研究不正問題が発生した場合の迅速かつ適正な解決に資することを目的として、研究所における研究活動の行動規準及び遵守事項、並びに研究所に所属する研究者らに科学研究上の不正行為に関する疑義が生じた場合の、研究所の対応及び関係者のとるべき措置などを定めたものである。
- 研究不正
「研究不正」とは、科学研究上の不正行為であり、研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における、次に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は研究不正に含まないものとする。(米国連邦科学技術政策局:研究不正行為に関する連邦政府規律2000.12.6 連邦官報 pp. 76260-76264の定義に準じる。)
| (1) | 捏造(fabrication):データや実験結果を作り上げ、それらを記録または報告すること。 |
| (2) | 改ざん(falsification):研究試料・機材・過程に小細工を加えたり、データや研究結果を変えたり省略することにより、研究を正しく行わないこと。 |
| (3) | 盗用(plagiarism):他人の考え、作業内容、結果や文章を適切な了承なしに流用すること。 |
- 対象者
研究所の研究業務に従事する全ての者を対象とする。
- 行動規準及び遵守事項
| 4-1 | 行動規準 |
| 研究業務に従事する者は、研究所職員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、次に掲げる事項をその職務に係る行動規準として活動しなければならない。 |
| (1) | 研究不正を行わないこと。 |
| (2) | 研究不正に荷担しないこと。 |
| (3) | 周りの者に対して研究不正をさせないこと。 |
|
| 4-2 | 遵守事項 |
| 各研究室、研究チームなどの主任研究員、グループディレクター、チームリーダーらは、健全な研究活動を保持し、かつ、研究不正が起こらない研究環境を形成するため、次に掲げる事項を遵守するものとする。 |
| (1) | 各研究室及び研究チームなどにおいて、研究レポート、各種計測データ、実験手続きなどに関し、適宜確認すること。 |
| (2) | 研究員、テクニカルスタッフ、学生ら研究に携わる者には、ラボノートブックなどが個人の私的記録ではなく、「研究成果物の取扱について(改正平成17年3月31日通達第14号)」の有体物により各研究室などの所属長が適切に管理するものであって、「定年制職員就業規程」、「任期制職員就業規程」、「基礎科学特別研究員制度実施細則」などの研究成果の取扱規定により研究所に帰属し、「会計規程」などに準じて研究所が管理すべきものであるという意識を持たせるとともに、ラボノートブックの記載の方法に関し指導を徹底すること。 |
| (3) | ラボノートブックと各種計測データなどを記録した紙・電子記録媒体などは、論文など成果物の発表後も一定期間(特段の定めがない場合は5年間)保管し、他の研究者らからの問い合わせ、調査照会などにも対応できるようにすること。 |
| (4) | 論文を共同で発表するときには、責任著者と共著者との間で責任の分担を確認すること。 |
|
- 研究不正に係る事実関係の説明責任
研究所に所属する研究者らで研究不正に係る疑義を生ぜしめた者は、研究所に対し、事実関係を誠実に説明する責任を負う。
- 研究不正への対応及び措置
| 6-1 | 疑義発生時の対応 |
監査・コンプライアンス室は、研究不正に関する相談や調査の依頼又は通報を随時受け付ける。監査・コンプライアンス室長は事案に応じて予備調査の要否を決定するものとする。
また、研究所に関する研究不正の問題がマスコミ報道などによって発覚した場合も同様に対応する。 |
|
6-1-1 予備調査の実施
監査・コンプライアンス室長は、前項による調査が必要であると決定したときは、研究不正の疑義が生じている研究分野における所内の専門家らの協力を得て予備調査を実施する。
6-1-2 調査委員会の設置
監査・コンプライアンス室長は、前項の予備調査の結果を理事長に報告し、理事長が本調査の実施が必要と認めた場合、「相談等に関する調査委員会の設置に関する規程」に基づき、速やかに外部専門家を含めた調査委員会を設置する。
6-1-3 調査時の措置
監査・コンプライアンス室長は、調査に必要な資料を保全するため必要と認めるときは、関係各部署などに対し、次の各号を実施するに必要な措置を要請することができる。
| (1) | 研究不正の疑義を受けた者(以下「被疑者」という。)の出勤禁止(有給) |
| (2) | 被疑者の当該調査に係る利害関係者との接触禁止 |
| (3) | 所属研究室などの一時閉鎖 |
| (4) | 調査に係る物品の確保 |
| (5) | その他必要な措置 |
6-1-4 研究室員らの業務遂行手段の確保
監査・コンプライアンス室長は、被疑者以外の研究室員らの業務遂行手段を確保するために、関係各部署などに必要な措置を要請するものとする。また、閉鎖研究室において試料などの保全を必要とする場合も同様とする。
|
| 6-2 | 被疑者からの弁明の聴取 |
| 調査委員会は、被疑者の弁明を必ず聞くものとする。 |
| 6-3 | 調査結果の開示 |
| 監査・コンプライアンス室長は、調査結果を調査関係者に開示する。 |
| 6-4 | 不服申立 |
| 監査・コンプライアンス室長が開示した調査結果に対し、調査関係者において不服があるときは、調査結果を開示した日から起算して10日以内に、監査・コンプライアンス室長に不服申し立てを行うことができる。 |
| 6-5 | 研究不正が認定された場合の対応措置 |
|
6-5-1 研究不正の認定を受けた者の処分
理事長は、調査委員会の調査結果に基づき、被疑者の研究不正の事実を認定したときは、所内規程に基づき設置された懲戒委員会の議を経て、研究不正の認定を受けた者(以下「不正認定者」という。)の処分を決定する。
6-5-2 研究費使用の禁止
不正認定者には、研究所の指示する日以後禁止が解除されるまでの間、内外の競争的研究資金を含め(研究機器などの維持以外の)研究費の使用を禁止する。
6-5-3 研究費の返還
不正認定者には、既に使用した研究費について、その全部または一部を返還させることがある。
6-5-4 調査結果の公表
調査委員会の調査結果の概要などは、原則として公表するものとする。
6-5-5 所属長らへの対応
当該不正認定者に関係する研究室の所属長らに管理責任があると認められるときは、就業規程に照らし別途必要な措置を講ずる。
|
| 6-6 | 研究不正が認定されなかった場合の対応措置 |
| 調査の結果に基づき、理事長が被疑者の研究不正の事実はないと認めたときは、監査・コンプライアンス室長は、関係各部署などに次の各号に示す必要な措置を要請するものとする。 |
| (1) | 研究不正に係る疑義が生じた際に講じた対応措置の解除 |
| (2) | 全ての調査関係者へ被疑者の発表論文などが適正であることの通知 |
| (3) | 被疑者の不利益発生防止策の実施並びに名誉回復にかかる措置(必要に応じて公表も含む。) |
| (4) | 被疑者への精神面も含めた支援の実施 |
| (5) | その他必要な措置 |
|
- 留意事項
| 7-1 | 活動支援 |
| 研究所は、被疑者以外の室員らについて、調査開始後、速やかに精神面も含めて可能な限りの支援を行う。 |
| 7-2 | 調査協力者らに不利益をもたらす行為などの阻止 |
| (1) | 研究所は、研究不正の対応及び措置に関し、調査協力者らが不利益を受けることのないよう十分に配慮するものとする。 |
| (2) | 研究所は、予備調査結果を含め、調査結果において十分な根拠がない場合に研究者らを陥れることを目的とした行為があったときは、それを研究妨害とみなし、当該行為者に対し、就業規程に従って必要な措置を講じる。 |
|
| 7-3 | 協力義務 |
| 役職員らは、研究不正の調査等について協力しなければならない。 |
| (問い合わせ先) |
|
独立行政法人理化学研究所 |
| 監査・コンプライアンス室 |
| 室長 加部 文和 |
|
| Tel | : |
048-467-4794 |
/ |
Fax | : |
048-462-4798 |
|
|
| (報道担当) |
|
独立行政法人理化学研究所 広報室 |
|
|
<補足説明>
| ※1 |
理研科学者会議 |
| 長期的かつ広い視野に立って行うべき研究分野、そして理研の研究者のあるべき姿について、理事長の諮問に答申するとともに独自に検討した事項等を理事会に提言することを目的とする組織。理研のセンター長、主任研究員、グループディレクターなど、理研研究者約30名で構成。 |
|
| ※2 |
「科学研究における不正行為とその防止に対する声明」 |
| 添付資料参照 |
科学研究における不正行為とその防止に関する声明
科学者は、その研究目的が自己の好奇心に基づくものであれ、国策的戦略にのっとったものであれ、できうる限り自律的かつ誠実に研究を遂行する義務を持ち、その研究成果を自らのものとして公表する権利を有している。
理化学研究所は、わが国随一の自然科学における総合研究機関であり、自然科学の新しい研究分野を開拓するとともに、国民の負託に応じた重要な分野での戦略的研究を遂行し、研究成果の社会への還元に努めている。すなわち、世界に伍して先端的研究を推進するわが国の拠点である。この理化学研究所において、研究者は他の機関にも増して、前述にある研究者としての義務と権利を心して自覚し、諸外国としのぎを削りつつ研究を遂行しなければならない。
昨今、科学研究において、捏造(Fabrication)、改ざん(Falsification)、盗用(Plagiarism)などの非倫理的不正行為が発生しており、理化学研究所もその例外ではなかったことは悲しむべき事である。
研究における不正行為は、研究者に社会が託した夢と信頼を裏切る行為であり、科学に対する裏切り行為であるとともに、研究者自身の自殺的行為であると極言できる。理化学研究所の研究者一人ひとりが、このような不正行為に陥ることのないよう、厳しく自らを律するとともに、他者にその疑いがある場合に、すみやかに適切な対応をなし、不正行為を未然に防ぐ努力をなすべきである。
科学研究の不正は科学者に対して社会から託された夢と希望を自ら踏みにじる行為であることを改めて強く認識し、科学をこよなく愛する理化学研究所の研究者として、以下のことを宣言する。
- 科学の真理を追求するうえで、いつも他を欺くおそれがないよう自らを律する。
- 他者の不正を決して黙認しない。
- 指導的立場に立つ研究者は、研究に不正が入り込む余地のないよう日々心を配る。 また、不正のないことを示すための客観的資料・データ等の管理保存を徹底する。
- 研究論文の著者は、その論文の正しさを客観的にいつでも誰にでも説明する責任がある。
|