プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
東レ株式会社
フラーレンで光触媒コート材料の耐久性が2倍に向上
- 高耐久のフラーレン複合化光触媒組成物を提供 -
平成17年12月26日
◇ポイント◇
  • フラーレン類を均一的・効果的に混合・分散する技術を開発
  • フラーレンのポリマー劣化抑制機能を活用
  • テキスタイル分野等様々な応用が可能
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、東レ株式会社(榊原定征代表取締役社長)と共同で、フラーレン※1を活用し、酸化チタン等の光触媒材料を用いた光触媒コート剤※2の性能・耐久性を2倍に向上させる技術開発に成功しました。これは、理研と企業が一体となって研究を進める「産業界との融合的連携研究プログラム※3」によって、理研知的財産戦略センター(丸山瑛一センター長)内に平成16年10月に発足した複合機能発現材料研究チーム(山舖(やましき)智也チームリーダー:東レ先端融合研究所主任研究員)による研究成果です。
 光触媒材料は、光を照射すると作動し、有機物の分解や防汚効果を発揮します。光触媒材料は、粒径数ナノメートル(nm)から数十nmの微粒子状のものが多く、これらを対象物に固定するために、バインダーポリマーと呼ばれる高分子を一様に混合して用いられます。ところが、この光触媒材料には、光を照射した時の触媒作用が強すぎ、固定化していたバインダーポリマー(光触媒コート剤)も分解してしまい、コーティング層の劣化が著しいという課題を抱えていました。
 この課題解消のため、研究チームでは、東レ提案のフラーレンによる光触媒コート剤の劣化抑制モデルを実現すべく、フラーレンを光触媒コート剤へ分散混合させる方法やコート剤の劣化を抑制する手法の検証に取り組んできました。具体的には、理研中央研究所(茅幸二所長)の田島右副(ゆうすけ)先任研究員が開発したフラーレン誘導体と汎用的に用いられる光触媒材料の粒子をバインダーポリマーの一種であるアクリルポリマー中に均一かつ効果的に分散・混合する技術開発に成功しました。さらに、このフラーレン誘導体の添加による光触媒コート剤の劣化抑制効果について検証した結果、光触媒コート剤の寿命は少なくとも従来品比で2倍以上と大きく向上しました。加えて、東レでは本技術が基本的に従来のテキスタイル加工に適用可能なことも確認しました。光触媒材料をテキスタイルにコーティング処理すると消臭や抗菌等の効果が期待されます。今回の技術を活用することで、光触媒コート付きテキスタイル製品の耐久性を向上させることが可能となるわけで、衣料、カーペットやカーテンなどテキスタイル分野を中心に、用途が大きく広がります。
 本研究成果は、平成18年1月7〜9日に名城大学(名古屋市)にて行われる第30回フラーレンナノチューブ総合シンポジウムにおいて発表されます。


1. 背 景
 酸化チタンに代表される光触媒材料は、光に反応して周辺にある物質を高効率に分解したり、防汚性が向上する等の特徴を持ち、住宅外壁や自動車コートなど多様な分野で用いられています。この光触媒材料効果を持つ酸化チタンは、通常数〜数十nmスケールの一次粒径※4を持つ粉末状態で使用します。この光触媒材料の粉末を固定化するために、バインダーポリマー材料と混合し(光触媒コート剤)、コーティング層を形成する方法が用いられています。しかし、光触媒材料による物質分解能力が極めて高いため、悪臭や有害物質の分解と同時に、固定に使用されるバインダーポリマー自身が分解されてしまい、光触媒コート剤の寿命が極めて短くなることが指摘されています。特に、衣料等のテキスタイル分野では、ドレープ性や風合い等の制限があるため、比較的分解されやすいバインダーポリマーが用いられることが多く、極端な場合は紫外線照射下での連続使用では、わずか1ヶ月程度で光触媒コート剤が劣化することが指摘されています。(図1)


2. 研究手法
 光触媒材料をより簡便かつ効果的に使用するためには、光触媒コート剤の光触媒効果そのものは低減させず、バインダーポリマーの分解劣化を防ぐことが必要です。光触媒材料により発生する物質分解機能を観察すると、そのほとんどが、外気と触れる表面部位で活発におき、コーティング層内部の光触媒は、バインダーポリマーの分解に影響していることが解りました。そこで、バインダーポリマーの分解を抑制する添加成分に着目、添加成分にポリマー劣化抑制機能があると見込まれていたフラーレンを活用するとともに、工業的に利用可能な製造方法(複合化手法)を検討しました。同時に、光触媒下でのバインダーポリマーが劣化する現象の定量的分析手法を検討しました。


3. 研究成果
(1) フラーレン誘導体の作成
 フラーレンは、様々な特徴を有する直径0.7nmの球状分子です。この分子自体は極性を持たず疎水性の性質を持っており、このままでは汎用的なポリマー材料等と均一に混合させたり溶かしたりすることはなかなかできません。研究チームでは、様々なフラーレンの複合化手法を検討し、田島先任研究員らが開発したフラーレン酸化物を起点とするフラーレン誘導体(図2)が有効であることを見出しました。
(2) 光触媒コート剤作成とその劣化挙動分析
 上記フラーレン誘導体は、汎用的なアクリルポリマー中に分散させることが可能であり、光触媒粒子と混合させると容易に光触媒コート剤として作成することができます。劣化現象を止める機能を測定する方法として、赤外分光法※5及び精密熱重量天秤法※6と呼ばれる方法等を組み合わせた光触媒動作によるポリマーの劣化状態分析を行いました。赤外分光法による分析では、光照射を続けることで起こるバインダーポリマーの化学構造変化が、フラーレン誘導体の添加により抑制されることがわかりました(図3)。さらに、光照射による加速試験※7の結果、光触媒作用によるポリマー分解量を算出し、フラーレン誘導体添加により光触媒コート剤の劣化速度が少なくとも2分の1以下となりました。(図4)
(3) テキスタイルへの利用
 今回見出した光触媒コート剤は、従来の光触媒コート剤と比べて、テキスタイル加工方法には違いはありません。溶液にテキスタイルを浸し、引き上げた後、乾燥させることで容易にコーティング膜として形成することができます。こうした光触媒コート処理を行うことで、消臭や抗菌などの効果が期待されます。今回の成果は、こうした効果を違和感のない風合いのまま、長く存続させることになり、テキスタイルを中心に用途をさらに拡大させ得る技術となります。


4. 今後の期待
 汎用的なアクリルポリマーとフラーレン類、そして光触媒の組み合わせを行うことで、テキスタイル等の繊維製品等への光触媒機能の付与が期待されます。同様にさまざまな光触媒コート剤の簡便かつ効果的な固定化方法として、広く生活分野での応用が考えられます。


5. 各社概要
(1) 独立行政法人理化学研究所
 独立行政法人理化学研究所は、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する試験及び研究等の業務を総合的に行うことにより、科学技術の水準の向上を図ることを目的とし、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学などにおよぶ広い分野で研究を進めています。研究成果を社会に普及させるため、大学や企業との連携による共同研究、受託研究等を実施しているほか、知的財産権等の産業界への技術移転を積極的にすすめています。
(2) 東レ株式会社
 東レは、有機合成化学、高分子化学、バイオケミストリーをコア技術として、繊維事業、プラスチック・ケミカル事業などの基盤事業に加え、情報・通信機材事業、炭素繊維複合材料事業、医薬・医療材事業、水処理など環境事業等をグローバルに展開する総合化学企業集団です。


(問い合わせ先)

東レ株式会社 先端融合研究所 主任研究員 山舖 智也

Tel: 0467-32-8653 / Fax: 0467-32-8364
(兼 理研 複合機能発現材料研究チーム チームリーダー)

Tel: 048-467-9476 / Fax: 048-467-8083
独立行政法人理化学研究所 中央研究所
 武内ナノ物質工学研究室 先任研究員 田島 右副
(兼 複合機能発現材料研究チーム 副チームリーダー)

Tel: 048-462-1111 / Fax: 048-462-4702
独立行政法人理化学研究所 知的財産戦略センター
  企画戦略チーム              町田 秀希

Tel: 048-462-5459 / Fax: 048-462-4718

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp

東レ株式会社 広報室

<東京> Tel: 03-3245-5179 / Fax: 03-3245-5459
<大阪> Tel: 06-7688-3085 / Fax: 06-7688-3086


<補足説明>
※1 フラーレン(Fullerene)
炭素原子からなるクラスターの総称で、炭素の同素体である。最初に発見されたのが、カーボン60(C60)である。カーボン60は、炭素原子60個からなり、クラスターの形はサッカーボール状である。その他にも、炭素原子70個、84個などでもクラスター構造を形成するが、存在比としてはカーボン60が最も大きい。
※2 光触媒コート剤
酸化チタン等の光触媒及びそれらを対象物に固定するためのバインダーポリマー等からなるコーティング用液。
※3 産業界との融合的連携研究プログラム
企業と理研が一体となって、研究を進めるパラレルモデルを具現化したプログラム。パラレルモデルとは、公的研究機関から生み出された有望な技術や特許を企業が実用化する「リニア(直線)モデル」に対し、研究側と企業側が基礎・応用のいずれの段階からでも、共に研究開発を進める「併走」モデル。
(1)研究テーマ、チームリーダーとも企業が主体となり、理研の研究人材や設備等を活用する提案に基づき、(2)研究計画を共同で作成し、(3)理研の知的財産戦略センターに時限の研究チームを編成して、研究を実施する。現在、10チームを組織し、研究を実施している。本プログラムについては、理研ホームページを参照。

http://www.riken.jp/lab-www/icr/yugorenkei/html/index.html

※4 一次粒径
サイズの小さい粉末状材料等において、それぞれの粉末の粒ひとつひとつ(一次粒子)の径。粒子状物質は、互いの凝集力が極めて強く、一次粒子が凝集した二次粒子等、高次の凝集構造を取ることが多い。
※5 赤外分光法
物質に赤外線(波長0.7μm〜1mmの光)を照射し、その物質を透過(もしくは反射)した光を各波長成分での光強度分布(スペクトル)を評価することによって、物質の分子構造等の情報を得る方法。
※6 精密熱重量天秤法
試料温度を精密に変化させた際の重量変化を精密天秤を用いて測定する方法。温度上昇に伴って起こる物質燃焼等の現象を重量変化を通じて得ることができる。
※7 光照射による加速試験
酸化チタンは波長約360nm以下の紫外線領域の光によって励起され、光触媒作用を示す。通常使用環境(太陽光下や室内灯下)に比べて、より強い紫外線照射を行うことで光触媒反応をより強く起こし、光触媒コート剤の耐久性を時間を早めて評価することができる。


図1 光触媒コート剤の基本構成と課題
光触媒コートでは、光触媒粉末の簡便な固定化手法としてバインダーポリマーを使用することが多い。しかし、光触媒機能が作動することによりバインダーポリマーの分解が課題となっている。


図2 フラーレン誘導体の合成方法
フラーレン酸化物(C60を酸化したもの)を起点とした誘導体化。フラーレン酸化物(A)と化合物(B)を酸触媒下で反応させフラーレン誘導体(C)を合成。厳密に置換基の位置や数を制御したフラーレン誘導体を低コストで製造できる事を特徴とする。理研中央研究所武内ナノ物質工学研究室田島右副先任研究員らの成果。


図3 フラーレン誘導体添加による光照射下でのポリマー由来の赤外ピーク変化
光触媒下でのアクリルポリマー(バインダーポリマー)中のカルボニル基(C=O)の赤外分光ピーク強度の変化を調べたもの。カルボニル基の分解がフラーレンの添加によって抑制され、固有の赤外分光ピーク強度の減少が抑制されている。


図4 フラーレン添加による光触媒下でのポリマー重量減少変化
フラーレン誘導体がない場合(黄色の点)に比べ、誘導体がある場合(青色の点)は、光触媒コートの重量減少量が少ない。バインダーポリマーの劣化が抑制されることで、著しい光触媒コート剤の耐久性向上が期待される。

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