プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
金属ナノ構造による光ナノイメージング技術を世界で初めて確立
- 表面プラズモンイメージング素子開発へ -
平成17年12月21日
◇ポイント◇
  • ナノメートルサイズの金属でつくった新レンズがナノの世界を観察可能に
  • 光の波長の限界を超える新型顕微鏡開発へ
  • 超高密度半導体デバイスの製造やナノバイオイメージングへの応用に期待
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、可視光で見える細かさの限界(波長程度すなわち数百ナノメーター)を超え、ナノメートル(10-9メートル)の分解能を持つ新たなイメージングデバイスを考案しました。これは、理研中央研究所(茅幸二所長)の河田聡主任研究員らの成果です。
 新たなイメージングデバイスは、細い金属線(金属ナノ円柱)を剣山のように並べた構造になっており、この金属のナノ構造が光のイメージングを行うレンズの作用をします。しかもこのレンズは、光の波長の限界を超え、いくらでも小さなものを観察できるという機能を持ちます。レンズの片側に試料をおくと,もう片側にナノサイズの微小な構造を忠実に再現した像が形成されます(図1)。これは、「表面プラズモン」と呼ばれる自由電子の振動現象を活用しています。研究グループは、レンズの性能を理論解析とともに計算機シミュレーションによって実証しました。
 この新しいナノを観察する方法が、半導体の集積回路(IC)製造における光リソグラフィーや新素材の開発、バイオサイエンス研究に応用されれば、従来の光技術の限界を超える新しい技術革新になると期待されます。また、これまでナノテクの材料といえばカーボン系か半導体系あるいは有機材料というのが一般的でしたが、銀や金でできたナノサイズの金属構造体が、ナノテクノロジーの有力な材料の1つになることを明らかにしました。
 この研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』(12月31日号)に掲載予定です。


1. 背 景
 従来、ナノテクノロジーの材料と言えば、化合物半導体やナノカーボン、バイオポリマーに限られていました。しかし、金や銀の貴金属をナノ構造に加工すると、自然界に存在しない新奇な機能を有する材料となります。その大きな理由は、金属に特有な自由電子の集団的振動(「表面プラズモン」と呼ばれ、電子が量子として振る舞う現象。電子:エレクトロンや光子:フォトンと対比して使われる。)が、物質の特性に関与し、物質の特性を示す情報として利用できるようになるからです。この金属のナノ構造が新しい機能を持つナノ材料となることは、最近世界的に興味が持たれており、日本では理研を中心として研究が進んでいます。これまで理研では、ナノサイズの金属アンテナをデザインすることで、可視光領域で負の屈折率を示す材料を開発(設計)したり(Physical Review Letters 12月2日号に掲載)、金属の周期構造によるレーザー発振(プラズモンレーザー)をしたりするなど、世界に先駆けて成果を論文として発表してきました。今回は、光の波動性によって像の細かさが制限されるという常識を打ち破る超高分解能の顕微鏡素子を考案したものです。


2. 研究手法とその成果
 今回の成果の鍵は,金属表面に発生する表面プラズモンと光を細い針であるナノサイズの金属円柱によって相互作用させたことです。表面プラズモンは、金属の中にある自由電子の振動ですが、金属に光を照射してこの振動を作り出したり、逆に表面プラズモンを光に変換することもできます。また、表面プラズモンには金属がいくら細くても金属表面を伝わってゆくことができるという特徴があります。 研究グループは、画像を伝送する時に、光だけに任せるのではなく、この表面プラズモンに画像の伝送を担わせようと考えました。つまり、非常に細いナノサイズの金属線を用意し、この金属線の片側に試料となる物体を近づけてから試料に光を照射します。すると物体の情報を含んだ光は,金属線の端面で表面プラズモンに変換されて金属線表面を伝搬します。物体の情報を含んだ表面プラズモンは、金属線を伝搬してもう片方の端に到達し、そこで再び光に逆変換されます。金属線は、ナノサイズの太さしかありませんので、金属線が伝える情報もその太さの範囲の試料情報のみを伝えることになります。
 つまり、最終的には光の像が得られますが、その像が含む情報は、試料のナノサイズの範囲の情報だけとなり、光の波長で決まる像の細かさの限界を遙かに超えた超高解像度のイメージを作り出すこととなります。もちろん1本の金属線は、試料の1点の情報しか伝達しません。そこで、研究グループは、この金属細線を何本も束ね、ちょうど生け花につかう”剣山”のようなものを作りました。ナノサイズの金属線を数万本、数億本束ねて板状にし、この片側に観察したい物体を置けば、もう片側にナノサイズの微細な構造までがクリアーに結像されることになります。
 この原理では,試料の情報は表面プラズモンが伝えているわけですが、もちろん光が持っている情報はすべて伝えられます。つまり試料の像はカラーで再現され、試料が持っていた物質情報は、光のスペクトルとして再現されます。つまり、どこにどんな物質があったのかも、ナノサイズの超高分解能で観察することができるようになるわけです。


3. 今後の期待
 この成果の特徴の1つは、金属のナノ構造体でつくる新レンズを用いると、光を使いながらも試料の構造をいくらでも細かく見ることができることです。これは、光を使って試料を観察したくとも、その分解能の限界のためにしかたなく、真空中に試料を入れて(つまり試料を殺して)電子顕微鏡で観察していたバイオエンジニアリング分野に画期的な進歩をもたらします。また、このレンズは、原理的には水中でも機能するので、生きた細胞をそのままの姿で、ナノサイズまで観察することができます。
 さらにこの技術は、光の最大の欠点であった”波長の限界”という壁を破ったためにバイオに限らず、新素材の開発や高密度記録デバイスへの応用など極めて幅広い分野に影響を与えると考えています。
 もう1つ特出すべき点は、今回の成果が金属のナノ構造体の可能性を実証したことです。これまでナノテクといえば、半導体材料やフラーレンなどのカーボン材料もしくは有機ポリマー材料を扱うというのが主流でした。今回の成果は、精密にデザインした金属のナノ構造体が新奇な機能を発現させたことを実証するもので、今後世界中で金属を中心にしたナノテク技術の開発に革新をもたらすとともに、金属と光との相互作用を扱う”ナノプラズモニクス”と呼ばれる研究分野の進展を一段と加速させると期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 中央研究所 河田ナノフォトニクス研究室
  主任研究員  河田 聡

Tel: 048-467-9338 / Fax: 048-467-9170

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


(図1)金属ナノ円柱配列による超高解像度画像伝送

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