プレスリリース 独立行政法人 農業生物資源研究所
独立行政法人 理化学研究所
完全解読されたイネゲノムの遺伝子3万個を貼付けた「DNAブック®」完成
平成17年10月19日
要 約

 (独)農業生物資源研究所(生物研)と(独)理化学研究所(理研)は、生物研の所有する約3万2千個のイネcDNAをより一層有効活用する手段の1つとして、1冊の本の中にそれらの全cDNAを貼付けた書籍タイプのDNAブック®( Rice Full-Length cDNA Encyclopedia DNABook®)を作製しました。主要穀類の1つであるイネの完全長cDNA がDNAブック®として完成し、新たな方法でのクローン提供が可能となることから、穀類ゲノム研究をはじめ植物生命科学研究への貢献が期待されます。


背 景

 農林水産省イネゲノム解析プロジェクトの一環として、1999年から2003年までの4年間、生物系特定産業技術研究推進機構(現 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)からの研究委託により、「イネ・ゲノムの完全長cDNAライブラリー整備事業」が、農林水産省農業生物資源研究所(現 独立行政法人農業生物資源研究所)、特殊法人理化学研究所(現 独立行政法人理化学研究所)、財団法人国際科学振興財団の3研究機関の共同研究として行なわれました。このプロジェクトでは、作製したイネ完全長cDNAクローンの中から塩基配列決定により塩基配列情報をコードする約3万2千個の遺伝子を獲得しました。本研究成果は、米国の著明な科学誌Science−2003年7月第3週号−に発表されました。各遺伝子の塩基配列情報は、核酸情報の公的データベース機関である日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録するとともに、生物研のKOMEデータベース(Knowledge-based Oryza Molecular Biological Encyclopedia)から公開されています。一方、完全長cDNAクローンの提供は、生物研・イネゲノムリソースセンター(2003年4月設立)から国内外の研究者に向けて個々のクローン毎の配布を行なってきました。しかし、保有する約3万2千個の全遺伝子セットの配布は、労力・コストの両面から困難な点があり、行なっていません。この難点を解決する一つの方策として、イネの完全長cDNAクローンを所有する生物研(石毛光雄理事長、ゲノムリソースセンター 長村吉晃センター長、遺伝子発現研究チーム 菊池尚志チーム長)とDNAブック®作製技術を開発した理研ゲノム科学総合センター(榊佳之センター長、遺伝子構造・機能研究グループ 林ア良英プロジェクトディレクター)は、共同研究を実施し、約3万2千個の遺伝子を収録したイネDNAブック®( Rice Full-Length cDNA Encyclopedia DNABook®)の作製を計画し、今回完成するに至りました。(図1)


内 容
  1. イネ完全cDNAを所有する生物研とDNAブック®作製技術を有する理研は、イネのDNAブック®作製を目指し、共同研究を実施しました。
  2. 本共同研究によりイネ完全長cDNA約3万2千個が収録されたDNAブック®( Rice Full-Length cDNA Encyclopedia DNABook®)を開発、完成しました。
     本イネDNAブック®は、書籍タイプであり、書庫・本棚等で常温保存可能です。 また、必要に応じて、PCRによる増幅や大腸菌に形質転換することにより、多様な研究に利用することができます。
  3. イネは、主要穀類の中でゲノムサイズが約3億8千万塩基対と最も小さく、植物研究のモデルと考えられています。イネの全塩基配列が解読された現在、イネの遺伝子、特に完全長cDNAクローンは機能解明研究分野での重要性が認識され、穀類のゲノム研究をはじめ植物生命科学研究に寄与することが期待されます。


今後の展開
  1. 作製した本イネDNAブック®を研究者に試験的使用のために提供し、その使用具合や実験結果を再度吟味し、より汎用性の高い、高品質なDNAブック®の配布システム開発を目指す予定です。
  2. 生物研イネゲノムリソースセンターでは、現在個々のクローンの配布を行なっていますが、約3万2千クローンのDNAがスポットされた本ブック完成により、今後一層、迅速かつ効率的な配布体制作りに取り組んでいく予定です。
  3. イネゲノムリソースは、研究推進の重要な要素であり、利用者の利便性を考慮しつつ、提供方法の改良・開発に取り組みます。



<独立行政法人 農業生物資源研究所>
研究代表者 農業生物資源研究所 理事長 石毛光雄
研究推進責任者 農業生物資源研究所 理事 佐々木卓治
Tel:029-838-7097
【問い合わせ先】
 研究担当者

農業生物資源研究所 ゲノム研究グループ イネゲノムリソースセンター
センター長 長村吉晃、主任研究官 B.A.アントニオ、

Tel: 029-838-7456
農業生物資源研究所 分子遺伝研究グループ 遺伝子発現研究チーム
チーム長 菊池尚志

Tel: 029-838-7007
 広報担当者

農業生物資源研究所 企画調整部 情報広報課
遠藤ヨシ子

Tel: 029-838-7272

<独立行政法人 理化学研究所>
【問い合わせ先】
 研究担当

独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
ゲノム科学総合研究センター遺伝子構造・機能研究グループ
プロジェクトディレクター
(独立行政法人科学技術振興機構プレベンチャー事業
「ゲノム関連資源常温流通システム」 チームリーダー兼務)
林ア 良英
プロジェクト副ディレクター  河合  純

Tel: 045-503-9222 / Fax: 045-503-9216
研究推進部 企画課  溝部 鈴

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113
 広報担当

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<用語解説>
※1 完全長cDNA( Full-Length cDNA )
 cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。完全長cDNAは、断片cDNAと異なり、全長のタンパク質合成に必要な全ての情報を保持しているため、完全長のタンパク質を合成することができる。この完全長cDNAを効率的に合成するためには、非常に高い技術を必要とし、わが国が世界に先んじている。1999年より4年間行われた農林水産省イネ・ゲノムプロジェクトの一環の「イネ・ゲノムの完全長cDNAライブラリー整備事業」では、理研の完全長cDNA技術が活用された。
※2 DNAブック®
 DNAを固相化して紙に固定し、書籍の形にする技術。通常の宅配便などで多種類のDNAを印刷された情報とともに研究者に配布することが可能で、かつ受け取った研究者は容易な用法により短時間のうちに必要なDNAを回収することができる。すでに作製されたものとしては、マウスDNAブック®、ヒトメタボロームDNAブック®、シロイヌナズナDNAブック®、アクアDNAブック®等がある。
 なお、現在マウスDNAブック®については、理研ベンチャーである株式会社ダナフォームが販売している。さらに、独立行政法人 科学技術振興機構(沖村憲樹理事長)、プレベンチャー事業の課題「ゲノム関連資源常温流通システム」の研究開発チーム(林ア良英チームリーダー)では、DNAブック®の事業化(生産・販売)を目指し、技術開発・市場調査を行っている。




DNAブック名 内容 備考
1 マウスDNAブック® 6万以上のマウス完全長cDNAクローン 2003年4月14日発行
販売中
2 ヒトメタボロームDNAブック® ヒトの代謝に関する遺伝子DNA 2003年6月11日発行
関係機関に配付
3 アクアDNAブック® ヒラメ選抜育種研究やさまざまな魚病診断のために必要な情報とそれを実践するための材料となるDNA
*神奈川県水産総合研究所(現、神奈川県水産技術センター)及び東京海洋大学との共同開発
2004年3月8日発行
関係機関に配付
4 シロイヌナズナDNAブック® シロイヌナズナの転写因子の完全長cDNAクローン 2004年12月3日発行
関係機関に配付


<参考資料1>
図1.イネDNAブック®

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