プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
福岡大学
重症糖尿病に新たな治療法を提示
- 膵島(すいとう)細胞移植早期拒絶の機構解明と制御に世界で初めて成功 -
平成17年9月26日
◇ポイント◇
  • 重症糖尿病治療方法である膵島細胞移植の拒絶反応のしくみを解明
  • NKT細胞の活性化物質を使用したその拒絶反応の制御に成功
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と福岡大学(山下宏幸学長)は、リンパ球の一種であるNKT細胞※1の機能を制御することによって、膵島細胞※2の肝臓内移植の際におこる拒絶反応を制御することに成功しました。理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫制御研究グループ(センター長兼務)と福岡大学第一外科(池田靖洋教授)安波洋一助教授らの研究グループとの共同研究による成果です。
 国内約740万人の糖尿病患者のうち、約10万人の重症糖尿病患者は、生涯にわたってインスリンを注射し続けなければなりません。インスリン注射から解放される方法の一つとして注目されているのが、インスリンを作る膵島細胞を糖尿病患者の肝臓内に移植する膵島細胞移植です。しかし、免疫抑制剤を使用しても、移植後数時間で起こる早期拒絶反応によって移植した膵島細胞が破壊されるため、1回の移植では治療効果が得られず、2〜3回移植を行う必要があります。このため、膵島細胞移植では、早期拒絶が最も重要な課題となっています。
 今回の研究では、膵島細胞移植後の早期拒絶反応が、NKT細胞によって活性化された多形核白血球※3によって引き起こされることを見出だしました。さらに、谷口グループディレクターらが発見した、NKT細胞を選択的に活性化する物質を移植前に投与することによってNKT細胞機能を制御し、移植膵島細胞の早期拒絶反応を回避することが可能であることを示しました。これにより、膵島細胞移植の効率が飛躍的に改善し、糖尿病マウス1匹を治療するのに通常400個の膵島細胞が必要であるのに対し、100個の膵島細胞の移植で糖尿病が完治しました。
 今回マウスに用いたNKT細胞活性化物質は、ヒトNKT細胞にも効果が確認されていることから、ヒトでも同様に早期拒絶反応を制御できるものと期待されます。侵襲が極めて少ない膵島細胞移植は臓器移植に代わる治療法として注目されており、本研究の成果が、糖尿病治療に画期的な進歩をもたらすものと言えます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』※4(10月3日号)に掲載されます。


1. 背 景
 国内の糖尿病患者数は約740万人(2002年度糖尿病実態調査報告)とも言われています。このうち、重症糖尿病患者約10万人は、生涯にわたってインスリンを注射し続けなければなりません。このような重症糖尿病患者をインスリン注射から解放させる究極の治療法は、インスリンを作る膵島細胞(図1)を糖尿病患者の肝臓内に移植し、永久に生着させ、糖尿病を完治させるという方法です。世界では、2000年から2004年までの5年間で約500例の膵島細胞移植が行われてきました。しかし、膵島細胞提供者の数が限られており、膵島細胞の不足が深刻な問題となっています。また、免疫抑制剤を使用しても、移植後数時間で起こる早期拒絶反応によって、移植した膵島細胞が破壊される(図2)ため、1人から採取した膵島細胞全てを移植しても治療効果は得られず、2〜3回の移植、すなわち2〜3人から採取した膵島細胞を1人に移植しないと治療効果が得られない状況となっています。


2. 研究手法と成果
 今回の研究では、膵島細胞移植後数時間で起こる早期拒絶反応の機序を明らかにし、それを制御する方法を開発することによって、膵島細胞移植の効率を大幅に改善することを可能とし、インスリン依存性糖尿病の根本的な治療法を確立しました。
 ストレプトゾトシン※5を注射されたマウスは、選択的に膵島細胞が破壊され糖尿病を発症し、死亡してしまいます。このような糖尿病マウスはインスリン注射でしか血糖値を制御できないので、重症糖尿病患者と同じ状態です。この糖尿病モデルマウスに膵島細胞を400個肝臓に移植すると血糖値は正常になり、生存可能となります。ところが、100個から200個程度の膵島細胞を移植した場合では、糖尿病が改善されず死亡してしまいます。
 この原因を探ったところ、膵島細胞の肝臓への移植後6時間をピークとして大量に出現する多形核白血球が産生するインターフェロンガンマ※6が膵島細胞を破壊し、生着を妨げていることが判明しました。また、NKT細胞が欠損しているマウスでは100個の膵島細胞を移植するだけで血糖値は完全に正常化し、移植に伴って出現する多形核白血球からのインターフェロンガンマの産生が起こらないことが明らかとなりました。このことから、NKT細胞が多形核白血球からのインターフェロンガンマの産生に重要な働きをしていることが証明できました。
 さらに、谷口グループディレクターらが発見した、NKT細胞を特異的に活性化する糖脂質を移植前に投与することによって、NKT細胞機能を制御し、膵島細胞移植の早期拒絶反応を回避することで、100個の膵島細胞移植で糖尿病を改善させることに成功しました(図3)。膵島移植の効率は飛躍的に改善したため、マウス1匹から得られる膵島細胞400個で4匹の糖尿病マウスを治療することができました。


3. 今後の展開
 NKT細胞はヒトにも存在し、免疫系を制御する重要な細胞です。しかも今回マウスに用いたNKT細胞を活性化する糖脂質は、ヒトにおいても同様の効果が確認されていることから、ヒトの膵島細胞移植にともなう早期拒絶の制御が可能となることが期待されます。膵島細胞移植と同じ目的で、膵臓そのものを移植する臓器移植が行われていますが、侵襲が極めて少ない膵島細胞移植は臓器移植に代わる治療法として注目されており、本研究の成果は、糖尿病治療に画期的な進歩をもたらすものと言えます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター センター長
 兼 免疫制御研究グループ グループディレクター
谷口 克

Tel: 045-503-7001 / Fax: 045-503-7003
福岡大学
 医学部 第一外科 助教授
安波 洋一

Tel: 092-801-1011 内線 3422 / Fax: 092-863-9759
独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
 研究推進部 企画課
星野 美和子

Tel: / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp
福岡大学 企画部 広報課長
篠ア 博

Tel: 092-871-6631 内線4630 / Fax: 092-864-9415


<補足説明>
※1 NKT細胞
1986年に谷口グループディレクターらが発見した、T細胞、B細胞、NK細胞に続く第4のリンパ球です。免疫の制御や、がんの免疫学的監視等のさまざまな役割を担います。
※2 膵島細胞
膵臓の中に存在し、インスリンを産生する細胞です。血糖値の上昇に反応して血液中へインスリンを放出(分泌)します。
※3 多形核白血球
白血球のうち、細胞核が球状ではなくさまざまな形のものです。細胞内に顆粒を持ち、色素による染まり方により、好中球、好酸球、好塩基球に分類されます。
※4 The Journal of Experimental Medicine
歴史と権威のある医学/生命科学雑誌、米国ロックフェラー大学が編集、日本人として、はじめて野口英世の論文が掲載された雑誌です。今回はわれわれの研究が、JEMの表紙に研究内容の写真が使用されるほど注目を集めた研究として取り上げられ、JEMのハイライトセクションでも紹介されています。
※5 ストレプトゾトシン
膵島細胞を選択的に破壊する物質です。マウスに1回投与すると膵島細胞の大部分脱落し、1型糖尿病を引き起こします。
※6 インターフェロンガンマ
生体で分泌されるサイトカインの一つで、抗ウイルス作用のほか、抗腫瘍作用、免疫調節作用等の働きが知られています。インターフェロンにはα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ω(オメガ)の4型がありますが、インターフェロンガンマは、アレルギーに関連する抗体の産出を抑制する作用をもちます。


図1.肝臓内に移植された膵島細胞
多くのインスリン産生細胞が染色されている図(紫はインスリン)


図2.膵島細胞移植の拒絶反応

膵島細胞が破壊され、インスリン産生細胞が消失 膵島細胞移植後の細胞浸潤


図3.NKT細胞機能を制御した後の移植膵島細胞の組織(正常像)

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