プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
ポリマー構造を高度に制御する高性能重合触媒
- 新しいポリイソプレンを高品位に提供 -
平成17年9月7日
◇ポイント◇
  • 高位置かつ高立体選択的なイソプレン重合触媒を開発。
  • 「天然ゴムをしのぐ」分子量分布が1.1以下と極めて狭いシス-1,4-ポリイソプレンを合成。
  • 「世界初」のアイソタクチック3,4-ポリイソプレンの合成にも成功。
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ポリマー構造を高度に制御する高性能重合触媒を開発し、これまでにない新しいポリイソプレンの合成に成功しました。理研中央研究所侯有機金属化学研究室の侯召民主任研究員、鈴木俊彰先任研究員、張立新協力研究員らによる研究成果です。
 科学技術の進歩に伴い、高機能を有する高分子材料を開発するため、高分子の立体的な構造や分子量、分子量分布などを高度に制御する必要性が高まってきています。研究グループでは、従来の触媒では実現困難な新しい物質変換プロセス、高効率・高選択的な有機合成反応、新しい機能性材料を提供できるオレフィン類の精密重合・共重合などを目指して、独自に設計した希土類金属※1錯体触媒を開発し、その触媒特性に関する研究を行ってきました。その結果、2つのリンと1つの窒素を含む有機化合物が希土類金属に結合した非メタロセン※2希土類金属錯体触媒をイソプレンの重合反応に用い、分子量分布が1.1以下と極めて狭い天然ゴムをしのぐシス-1,4-ポリイソプレンを得ることに成功しました。また、シクロペンタジエニル基とリンが架橋された配位子を有するハーフメタロセン※2希土類金属二核錯体を用いることにより、ポリマー構造が立体的高度に制御されたアイソタクチック3,4-ポリイソプレンを合成することにも世界で初めて成功しました。
 本研究成果は、9月20〜22日に山形大学小白川キャンパス(山形市)で開催される社団法人高分子学会主催の『第54回高分子討論会』において発表されます。


1. 背 景
 イソプレン(CH2=C(CH3)-CH=CH2)は2つの二重結合を有する分子であるため、これをつなぎ合わせてできるポリマーには、結合する位置や立体的な構造によって様々なポリマーが存在します。いわゆる「頭」と「尾」が結合した配列のそろったポリマーもあれば、「頭」と「頭」、「尾」と「尾」、「頭」と「尾」が無秩序に結合した配列の乱れたポリマーも存在します(図1)。そのため、有用なポリイソプレンを合成するためには、反応を高度に制御できる重合触媒を開発することが重要です。最も代表的なポリイソプレンは、-CH2-C(CH3)=CH-CH2-を基本骨格とするシス-1,4-ポリイソプレンであり、天然ゴム(NR)はこの分子構造を持ったポリイソプレンを主成分にしています。NRは様々な合成ゴムが開発されている現在においても多用されており、タイヤ、ゴムベルト、履物、糸ゴム、粘接着剤や、輪ゴム、ゴム乳首、医療用製品などに幅広く使用されています。イソプレンは天然ゴム等の多くの天然物の構成単位であるにもかかわらず工業的には重要ではありませんでしたが、立体選択的なシス-1,4-ポリイソプレンの重合法が開発されるにつれて、その重要性は飛躍的に増大しました。現在の合成ゴムとして使われているポリイソプレンゴム(IR)のシス1,4構造の含有率は98%程度であり、NRの主成分の100%とのわずかな差が、ゴムとしての特性を大きく左右しています。NRは分子構造の規則性が高いため、結晶性があり、引張強さ、弾性、耐摩耗性、引張強さなどの機械的強度が優れていますが、IRはNRより立体規則性が劣るため、結晶化度が小さく、延伸結晶性も若干劣ります。その一方でNRは、シス1,4構造を持つものの分子量が揃っていないことや樹液中に含まれる生体防御タンパク質が混入しており、アレルギーを起こす原因の可能性があるなどの問題を内在しています。
 このため、完全にシス1,4構造を有し、かつ分子量分布の極めて狭いIRを開発することができると、NRをしのぐ高反発、高弾性、高強度でしかも耐摩耗性の優れたゴムが登場すると考えられます。例えば、車のハイレベルな静粛性、安定性、快適な乗り心地などを満たすような高品位なタイヤの開発につながることが期待されます。また、手術用手袋などの各種医療用具から歯科材料、乳児のゴム乳首などの日用品と多岐にわたって、天然ゴム製品によるアレルギーが問題となる分野においても使用可能になります。
 また、ポリイソプレンには、イソプレンの一方の二重結合のみが選択的に反応して重合した1,2-ポリイソプレンおよび3,4-ポリイソプレンがあります。これらには、ポリマー鎖から枝のように出ている置換基が立体的に一方向に出る場合(アイソタクチック)、互い違いに出る場合(シンジオタクチック)、全く無秩序に出る場合(アタクチック)が存在します。アイソタクチックおよびシンジオタクチックと呼ぶこの3,4(あるいは1,2)-ポリイソプレンはこれまで合成されたことはなく、合成できれば非常に有用であり、かつ高機能を有する高分子材料になると考えられています(図2)。
 高品質かつ高性能な高分子材料を開発するためには、いかにしてポリマーの立体的な構造を高度に制御するか、ということが非常に重要になります。
図1. イソプレンの配列のそろった4種類のポリマー

図2. 3種類の3,4-ポリイソプレン


2. 研究手法
 今回、希土類金属を用いて、反応に関わる部分が単一の性質を持つ「シングルサイト触媒」を設計することにより、イソプレン同士の結合する位置や立体的な構造を制御することを可能にしました。具体的には希土類金属にシクロペンタジエニル基や、窒素やリン原子を配位原子として含む有機化合物を配位させて金属の周囲を立体的・電子的に高度に制御すると、イソプレンがある一定の方向を向くように金属に結合し活性化されて重合反応が進行するため、ポリマーを構成するひとつひとつのイソプレンの向きや立体的な構造が揃ったポリマーが得られます。


3. 研究成果
(1) 高性能重合触媒の合成
 3つのアルキル基を有する希土類金属錯体をビス(ホスフィン)アミンと反応させることにより、ビス(ホスフィン)アミドを配位子とし、アルキル基を2つ有する希土類金属錯体が容易に得られます(触媒A)。同様に、ホスフィンと架橋されたシクロペンタジエンと反応させることにより、ハーフメタロセン型の希土類金属二核錯体が得られます(触媒B)。これらの錯体をアンモニウムボレートなどの活性化剤と組み合わせてイソプレンの重合に用いることにより、シス-1,4-ポリイソプレンあるいはアイソタクチック3,4-ポリイソプレンが選択的に得られます。前者は“やわらかい塩基”であるホスフィンが“かたい酸”である希土類金属に配位している珍しい錯体です。後者は2つのリンが2つの金属を架橋しており、反応中も二核構造が保持されていると推測されています。

(2) シス-1,4-ポリイソプレンの合成
 シス-1,4-ポリイソプレンは天然ゴムと同じ骨格を有しています。天然ゴムはポリマー中のイソプレン構造がシス1,4構造を持つ割合が100%ですが、現在の合成ポリイソプレンゴムでは98%程度が限界です。最近、シス-1,4含有率がほぼ100%のポリイソプレンを得る方法が報告されていますが、触媒に対して多量のアルミニウム化合物が必要であったり、重合を0度C以下という低温で行わなければならないこと、分子量分布が十分に狭くない(Mw/Mn = 約2)ことなどが問題として残されていました。本研究グループでは独自に開発した希土類金属錯体触媒を用いてこれらの問題を克服し、シス-1,4含有率がほぼ100%で、かつ分子量分布が極めて狭い(Mw/Mn < 1.1)ポリイソプレンを得ることに世界で初めて成功しました。さらに開発したこの触媒系は、アルミニウム化合物が不要であることや重合を80度Cという高温で行った場合にも選択性が落ちないことなど、合成法としても優れていることを見出しました。
(3) アイソタクチック3,4-ポリイソプレンの合成
 3,4-ポリイソプレンが合成された例は以前よりありましたが、その立体構造についてはアタクチックであったり、あるいは明らかにされていませんでした。本研究グループでは独自に合成した希土類金属錯体触媒を用いてポリマーの立体構造を制御し、ポリマー鎖から枝のように出ている置換基が立体的に一方向に出ているアイソタクチック3,4-ポリイソプレンを合成することに世界で初めて成功しました。


4. 今後の期待
 今回紹介した希土類金属錯体触媒を用いて得られるシス-1,4-ポリイソプレンは、これまでにない分子量分布の極めて狭い分子量のそろった理想的なポリマーであり、既存の製品の物性面の機能を凌ぐ性能を有することが期待されます。また、アイソタクチック3,4-ポリイソプレンは全く新しいポリマーであり、高機能を有する樹脂としての用途開発が期待されます。


<報道担当・問い合わせ先>
(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 中央研究所 侯有機金属化学研究室
  主任研究員  侯 召民

Tel: 048-467-9393 / Fax: 048-462-4665
  先任研究員  鈴木 俊彰

Tel: 048-467-9392 / Fax: 048-462-4665

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 希土類金属
周期表第3族であるスカンジウムおよびイットリウム、ランタノイド15元素を合わせた計17元素の総称。
※2 非メタロセン、ハーフメタロセン
フェロセンに代表されるような、金属が2つのシクロペンタジエニル基に挟まれた、いわゆる「サンドイッチ構造」を有する化合物を「メタロセン」という。一方、シクロペンタジエニル基を1つ有する錯体を「ハーフメタロセン」、1つも有しない錯体を「非メタロセン」という。

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